僕は彼女に言い寄る男を振り払う
僕の提案により木島とゲームで勝負する事になった。負けた方は今後一切葵さんに近づく事が禁止される。
木島はゆっくりとゲームセンター内を練り歩き、対戦するゲームを選ぶ。どれを選べば確実に僕に勝てるのか悩んでいるのだろう。
…でも彼には悪いが、その考え自体が僕の仕掛けた罠なのだ。
一通りゲームセンター内を見回った木島はとあるゲーム機の元に足を運んだ。どのゲームで勝負するのか決めたらしい。
「勝負するゲームはこれだ」
木島はニヤニヤと下品な顔で僕を見下しながらそう宣言する。そのゲームならば自分が絶対に負けるはずがないと思っているのだろう。
彼が選んだのはダンスゲームだった。ゲーム画面に流れる矢印と同じ物をリズムに合わせて自分の足元にあるパネルで踏むというオーソドックスなゲームだ。
誤った矢印を踏んでしまうと点数が減り、間違いが少なければ少ないほど点数が高くなる。ちょうどパネルが2つあり、2人で対戦もできる。より高い点数を取った方が勝者だ。
僕は彼の申し出を受け入れた。
「うん、いいよ。これで勝負だね?」
「おうよ!(…陰キャチー牛がダンスなんてできる訳ねーだろ! どうせ牛のようにトロ臭い動きしかできないんだからよ。だからチー牛って言われんだよ。この勝負貰ったな! 『チギュアアアアア』ってみっともなく泣き叫ばせてやるぜ!)」
木島は自信満々に下卑た笑みを浮かべる。彼は上手く僕の作戦に乗ってくれたようだ。
僕たちはゲーム機に硬貨を入れ、パネルの上に立ちお互いに準備を整える。ゲーム機の傍では葵さんが心配そうな表情をしながら僕を見守っていた。
「勝負は1回勝負、両者の点数が同じ場合のみもう1回勝負を行う」
「問題ねぇ。ま、1回でケリが付くと思うけどな」
「…もう1度確認だけど、負けた方は葵さんに今後一切近づかない事。いいね?」
「ああ、男に二言はねぇ。お前こそ負けたからつって文句を言うんじゃねぇぞ!」
「そんな事はしないよ」
「おっ!? 突然頭にいいフレーズが浮かんで来たぞ。歌ってやろうか? 今のお前を的確に表現した歌だ。『チッギュチッギュチギュよチギュさんよ♪ 世界のオスでお前ほど♪ トロくて臭いものはない♪ どうしてそんなにトロいのか♪』 ブッハッハッハッハ! どうだ? 傑作だろ? チギュギュギュギュ~♪」
木島はいきなり童謡『うさぎとかめ』のメロディに合わせて替え歌を歌い始めた。完全に僕を舐め腐っているようだ。
『ダンス・ダンス・エクササイズ! はっじまるよー! プレイヤーの諸君! 準備はいいかなー?』
音声がゲームの開始を伝えてくる。僕は歌っている木島を無視して集中するべく前を向いた。
『3、2、1…スタート!!!』
音声のカウントダウンと共に軽快な音楽が鳴り始め、ゲームがスタートした。僕はリズムに合わせて矢印を踏んでいく。
踊る曲の選択は木島に任せていたのだが、どうやら上級者向けの曲を選んだようだ。
この曲は最初から最後までずっとハイスピードの矢印が流れてくるので休む暇がなく、ダンスゲームに慣れている者しかまず高得点は狙えない。故に上級者向けの曲なのだ。
「ほっ! はっ! ほっ!」
ダンスゲームもやってみると案外楽しい。リズムに合わせて矢印を踏めるとテンションが上がって来る。踊るのが気持ちが良い。
「ハァ…ハァ…」
隣の木島を横目でチラリと見ると、リズムについていけてはいるが…彼のスタミナはすでに切れかけのようだった。ゲームが始まる前はあれだけ
僕は引き続きミスをしないようにリズムに乗りながら矢印を踏んでいく。
曲も終盤に突入し更にスピードが上がる。途中まではなんとかついていけていた木島も終盤のラッシュになる頃にはスタミナが完全に切れ、ミスを連発していた。
そして…曲が終わった。画面に点数が表示される。
結果は…僕が98.12点、木島は63.57点だ。
自分では完璧だと思っていたが、少しミスってしまったらしい。しかし勝負は圧倒的点差をつけて僕の勝利だ。
「やったー! 本山君の勝利です! 凄い凄い! あんなに激しい曲を踊り切るなんてカッコいいです!」
葵さんが勝負に勝った僕の元に笑顔で駆けよって来る。たかがダンスゲームで高得点を取っただけなのに、こうも褒められるとなんだか照れくさい。
「なんで…陰キャが…ダンスなんて踊れるんだよ…。おかしい…だろ」
横にいる木島が息を整えながら悔しそうな顔をしてこちらを見て来る。
やはり彼は僕がダンスを苦手だと勝手に判断をして、このゲームを選んだようだ。…まぁその先入観を利用させてもらったんだけど。
「ゲームの歴代ハイスコア取得者の名前を見てみなよ」
僕にそう言われて木島はリザルト画面に表示されていた歴代ハイスコア取得者の名前を見る。
「1位IKUTO、2位IKUTO、3位SYOUHEI、4位IKUTO、5位POPOKO。…まさかIKUTOって…」
「そう、僕の事だよ」
僕は陰キャと呼ばれるだけあって大抵のゲームは得意なのだ。家庭用ゲームもやるし、スマホでソシャゲもやる。そしてゲーセンに通ってアーケードゲームもやる生粋のゲームオタクだ。
この辺にゲーセンはここしかないので、中学の頃から正平とよく通っていた。なのでここにあるゲームは大抵遊びつくしている。
木島に勝負するゲームを選ばせたのも、彼がどのゲームを選んでも僕はハイスコアを取れるからだ。
木島もそこそこはゲームをやるかもしれないが、僕には敵わないし、ゲームをやり込んだ事もないだろう。だから僕は彼がどのゲームを選んでも勝つ自信があった。
要するに…僕の「このゲーセンにあるゲームで勝負しよう!」という提案を承諾した時点で彼の負けは決まっていたのである。彼は最初から勝負に負けていたのだ。
「チクショー! 俺がこんな陰キャチー牛に負けるなんて…」
木島は店の床を思いっきりグーパンで殴りつけた。僕に負けたのがよっぽど悔しかったらしい。
「約束は守って貰うよ。今後一切葵さんには近づかないでね」
「クソッ! もう1回、もう1回だ。今のは調子が悪かった」
「あれ? さっき『男に二言はない』って言ってなかったっけ? それなのに言い訳するんだ?」
「てめぇ…このクソ陰キャ!」
「いい加減にしなさい木島君! あなたは勝負に負けた。約束は守ってください!」
諦めの悪い木島に葵さんが抗議の声をあげる。
「俺は…お前のためを思って…」
「約束を守らない人は嫌いです。私に近寄らないで…気持ち悪い」
「あ…おい…」
葵さんの一言によって木島はその場にへたり込んだ。…好きな人に「気持ち悪い」なんて言われたら立ち直れないだろうな。
しかしこれで彼は葵さんに近づく事は無いだろう。…多分ね。
さて、これでめんどくさい奴もいなくなったし、改めて正平を探しに行くか。あいつ何してんだ?
◇◇◇
お試し連載はここまでとなります。評判が良ければこのまま本格連載に入ります。
もしこの物語の続きが気になる。ヒロインが可愛い! と思ってくださった方は☆での評価をお願いします。
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