友人の来訪…そして

 次の日僕は学校を休んだ。どうせ学校に行っても碌な事にならないと考えたからだ。親には仮病を使い、熱っぽくて身体がだるいので大事をとって休むと伝えた。


 自分の部屋のベッドの上で横になりながらボーっと天井を見上げる。


 …僕はこれからどうすればいいのだろう?


 学校に行ったとしても嫌がらせを受ける地獄のような毎日が待っている。だが学校に行かないとお金を出してくれている親に申し訳が無いし、単位を取らないと学校を卒業もできない。


 割とガチで転校するぐらいしか選択肢が残っていないのではないだろうか? まだ高校に入学して1カ月も経っていないのに…。


 海野茜のおかげで僕の高校生活は文字通り無茶苦茶になってしまった。恨み、つらみ、哀しみ、不安、失望…様々な感情が僕の心の中で渦巻く。


 何度も言うが、僕は別にお礼や見返りが目的で彼女を助けた訳ではない。でも罵倒して性犯罪者扱いをするのはあまりにも酷すぎる。


 命を助けたはずの女の子から罵倒され断罪される。その事実は僕の心を深く傷つけ、そして暗黒に落としていった。


 …もう2度と人が困っていても助けたくない。


 昨日はたまたま気まぐれで女の子を暴漢から助けたが、あれは自分の気分をスッキリさせるためにやったのだ。あの娘を見捨てて逃げた結果…あの娘が殺されたとなれば、見捨てて逃げた僕自身も何とも言えない胸糞悪い気分に包まれるからだ。


 つまりは…特例中の特例。そのような特例を除き、人助けはもうしたくないと思わせるほどに僕の心は荒廃していた。


 グゥ~


「お腹減ったな…」


 考え事をしているとお腹が減って来た。朝ご飯は食べたはずなのだが。僕は1階に降りてキッチンの戸棚からカップヌードルを探し出すとそれを食べて部屋に戻った。


 食欲が満たされ、春の丁度良いポカポカとした陽気に包まれた僕はいつの間にか夢の世界へと旅立って行った。



○○〇



 プルルルル♪ プルルルル♪


「うん…?」


 僕が再び目を開けるとスマホの着信音が聞こえた。寝ぼけながら枕元に置いてあるスマホを探し出し、画面を確認する。画面には「藤堂正平」と表示されていた。通話ボタンを押して電話に出る。


「ふぁい。なんか用?」


『あっ、良かった電話通じた…。お前なぁ! 心配したんだぞ!』

 

 電話の向こうから正平の安堵したような声が聞こえてきた。僕は寝起きでまだ回転していない頭で彼に応答する。


「ん…? なんか心配するような事あったっけ?」


『そりゃ心配するさ! 昨日はあの女のせいでクラスから放り出されて、今日は俺がメッセージを送っても1回も返信しないし…。自殺でもしたんじゃないかと思って俺は気が気じゃなかったんだぞ!!』


「あぁ…そういう事。大丈夫、自殺なんてする気はないから」


『「自分は大丈夫!」って言ってる奴が1番怖いんだよ。そういう奴ほどふとした拍子に衝動で自殺する可能性もあるからな。何かの本で読んだ』


 正平は昨日からずっと僕の事を心配してくれていたらしい。


 …正平。本当に彼はいい奴だな。彼と友達で良かった。


『生人、お前…今家にいるのか?』


「うん。家だよ」


『ちょっと顔見に行ってもいいか?』


「大げさだなぁ。別に自殺なんてしないって。別にいいけど。僕も正平と話がしたかったし」


 僕は彼の申し出を承諾した。心許せる友人である彼と会話をして、少しでも昨日受けた心の傷を癒したかった。それに彼にこれからどうすればいいのかを相談しようとも思っていたので丁度良かった。


『さっき学校が終わった所だからこれから向かうわ。それと…俺の他にももう1人お前に会いたいって奴がいるんだけど連れて行ってもいいか?』


「もう1人? 誰?」


『心配すんな、お前の味方だ。お前とどうしても話しがしたいってさ』


 僕の味方…? 誰の事だろう? 昨日の様子では正平以外のクラスメイトはみんな海野茜の話を信じて僕の敵になっていたように思うんだけど…?


「いいけど…」


『よし、じゃあ今からお前の家に向かうわ。おっ、電車が来た! 多分20分後ぐらいには着くと思う。じゃあ一旦切るぜ!』


 彼が電話を切る寸前に電車が駅のホームに止まる際の「キキッー!」というブレーキ音が聞こえてきた。どうやら彼は今駅のホームにいるらしい。


 電話を切った僕は友人を家に迎えるべく準備をする事にした。とりあえず飲み物とお茶菓子ぐらいは用意しておかないとな。


 スマホを充電に繋ぐついでに時間を確認すると16時を少し過ぎた所だった。カップヌードルを食べたのが10時すぎと記憶しているので、かなり長い時間眠っていた事になる。


 僕は1階に降りるとキッチンの戸棚を開けて何か無いかと探し始めた。



○○〇



 それから20分ほどが経過した頃、僕の家のインターホンが「ピンポーン!」と勢いよく鳴った。おそらく正平が来たのだろう。僕は玄関の扉を開けて彼を迎え入れる。


「おっす!」


「生人! 元気そうでよかった!」


 彼は僕の顔を見るなり、いきなり抱き着いてきた。


「正平…ちょ、離せよ」


「本当に…本当に心配したんだぞ。グスッ…」


 僕に抱き着く正平の声は若干涙声になっていた。


 …僕を心配してくれていたのは嬉しいのだが、かといって抱き着くのは勘弁して欲しい。なんとか彼をなだめて身体を引きはがす。


「とりあえず上がって」


 玄関で立ち話をするのもアレなので、僕は彼に家に上がるように促した。


「あっ、その前に紹介するよ。この人が電話で言ってたお前の味方!」


 そう言われて僕は初めて彼の後ろに人がいる事に気が付いた。そういえばもう1人連れて来るって言ってたっけ? 


 その人は正平の紹介に従って彼の前に出る。


 あれ、この人は…?


 僕はその人の姿を見て驚いた。なんとその人は昨日僕が暴漢から助けた女の子だったからである。



◇◇◇


暴漢から助けた女の子とまさかの再会を果たした主人公。果たして彼女の目的とは?

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