順風満帆かのようにみえた高校生活
あれから2週間ほどが経った。あの後、僕はなんとか高校にたどり着き入学式に出席する事が出来た。
女の子の容態が心配だったが、入学式が終わった後に消防から電話があり、女の子が無事一命をとりとめた事を教えて貰えた。僕があの場で救命処置を行ったのが大きかったらしく、障害なども特に残らなかったらしい。
僕は彼女が生きている事に安堵した。
あの時は本当に必死だった。僕の短い人生の中で1番といっていいほど懸命に行動したのではないかと思う。
無我夢中で彼女を助けようと慣れない心肺蘇生処置を施した。自分のやり方が合っているのかどうか不安で仕方がなかった。もしやり方が間違っていたら彼女は死んでいたかもしれないからだ。
しかし彼女は生きている。心にのしかかっていた不安がそこでようやく取れた気がした。
僕の行動が1人の女の子の命を救ったのだ。僕は少しだけ誇らしい気持ちになった。
しかもどうやらその女の子は僕のクラスメイトらしい。何故なら僕のクラスに1人、入学式の日からずっと休んでいる女の子がいるのである。
名前は
あの女の子の制服からしてこの高校の1年生である事は分かっている。学校が始まって1年の各クラスをチェックしてみたのだが、休んでいる生徒はその子1人だけだった。つまりその子が僕が助けた女の子である事は明白だろう。
…早く病気が治って学校に来られるようになるといいな。
「よっ、なにカッコつけてんだよ!」
朝のSHR前。僕が教室でその子の事を思い出しながら外の景色を眺めていると、いがぐり頭をした男子生徒が話しかけてきた。
彼の名前は
この高校には何人か僕と同じ中学出身者がいるのだが、同じクラスになれたのは彼1人だけだった。
周りが初めて会う人たちばかりでコミュ障の僕は若干緊張していたが、彼がいた事もあり、僕にも無事新しい友達が出来た。
学校に登校して授業を受け、友人たちとアニメやゲームについて語り合う日々。特に盛り上がりがある訳でも無いが、平穏で充実した日々を送っている。
「別にカッコつけてなんていないさ」
「生人…お前、例の女の子について考えていただろ? 俺にはお見通しだぜ!」
「バレてたか」
僕が入学式の日に女の子を助けた事は彼には話してあった。彼はその話を聞くと僕を賞賛してくれた。「見ず知らずの人の命を助けるなんてなかなかできる事ではない」と。その時の僕は照れくさくなって頭をかいたのを覚えている。
「そんなお前に朗報だ。なんとその女の子…今日から復帰するらしい」
「本当に?」
「ああ、本当だ。さっき職員室で担任の
「そうか、学校に通う許可が出たんだ。良かった…」
心肺停止していたのだから彼女は何か重い病気を持っているのだと推測されるが、学校に通えるまでに体調が回復したらしい。
それは良い事だ。人間なんだかんだ健康なのが1番である。
「しかもチラリと見た感じ…結構可愛い子だったぜ?」
「へぇ~。そうなんだ?」
正直あの時は助けるのに必死で女の子の容姿など確認している余裕がなかった。彼女の顔を思い出そうとしてもぼんやりとしか思い出せない。
「これはお前にも春が訪れるかもしれねぇなぁ。命を助けた女の子に惚れられるってのはラブコメではよくある展開だし。コノコノ…色男め!」
「いやいや、そんなのは所詮創作の中の出来事だよ。ありえないって」
正平は猿のような顔をして僕のわき腹を肘でつついてくる。僕はやんわりと彼の主張を否定した。
…別に僕はお礼や見返りが欲しくて助けた訳ではない。ただ純粋に彼女の命を救いたくて助けたのだ。だから…彼女が健康であればそれでいい。
「おっ、噂をしていると本人が到着したようだぜ?」
正平と話していると彼が教室の入り口を指さした。そこには確かに彼の言う通り可愛らしい女の子が鞄を手に持ち、キョロキョロと教室を見回していた。
背は155センチぐらいだろうか。平均よりは少し低めだ。
長い黒髪を両側でツインテールにまとめている。あどけない顔立ちをしているが目つきは少し鋭かった。
華奢な体つきをしており、その病的なまでに白い肌と合わさって触れると壊れてしまいそうな…そんなはかなさを感じる女の子だった。
「せっかくだから声かけて来いよ!」
「えぇ!?」
僕は正平に思いっきり背中を押されて彼女の前に躍り出た。僕がよろけながら近づくと、彼女は怪訝な顔をしてこちらを見た。
…緊張のあまりとっさに何を話せばいいのか思い浮かばなかった。
えっと…まずは病気の回復を祝う言葉を言った方がいいか? それとも朝の挨拶?
女の子と碌にコミュニケーションを取った事が無いのがこんなところで響いてくるとは…。
僕が何を話そうか悩んでいると、その女の子の方から話しかけてきた。
「ねぇあなた、私の席はどこ? 私、海野茜って言うんだけど、昨日まで体調不良で休んでたのよね」
「あっ…と。海野さんの席は窓際の列の前から3番目だよ」
「そう、ありがとう」
彼女はそんな素っ気ない返事をして僕の隣を通り、自分の席へと向かって行く。予想はしていたが、僕の事は覚えていないらしい。
そりゃそうだ。僕が心肺蘇生処置を行っていた時は彼女の心臓は止まり、意識を失っていたのだから。
「あ、あなた名前は? 一応クラスメイトになるのだから覚えておいてあげるわ」
彼女は席に向かう途中でクルリとこちらに顔だけ向けてそう言った。察するに結構高飛車な性格らしい。
「僕の名前は本山生人っていうんだ」
「本山…生人?」
しかし僕の名前を聞いた途端に彼女の顔はそれまでのつまらなさそうな表情とは打って変わり、苦虫を嚙み潰したような顔になった。
彼女はこちらに向き直ると大声で僕を咎めた。
「まさかこんなに早く出会えるとは思わなかったわ。このゴミクズ性犯罪者!!!」
「はぁ!?」
◇◇◇
まさかの命を助けたはずの女の子から罵倒された主人公。彼の運命や如何に?
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