第3話 最初のバグ

『僕のところに来てくれてありがとう』

優里は、いつもそうやって感謝の言葉を俺に投げかけてくれる。

その言葉に対して俺はにこりと微笑み、こう答える。

「俺も優里と出会えて幸せだ」

あたかもゲームのプログラミングにあるような言葉使いでそう伝えると、優里は嬉しいと笑みを溢す。

———本当に心からそう思ってる。ずっと側にいたい・・・。

口にしたい言葉が溢れ出ないように、俺はグッと唇を閉じる。

そして、優里に気づかれないように笑顔を作り出す。


優里と出会ってもうすぐ一年が経つ。

このゲームが発売したのは昨年の11月だ。

国がバックアップして制作しているのもあって、リリース前から注目を浴びていた。

優里がこのゲームを取り入れたのは、少しズレたクリスマスイブ。

自分へのご褒美のつもりだったらしい。

どのパターンでも、赤ちゃんからスタートするこのゲームは、小さい頃から育てて愛着を持ってもらうのが目的だった。

ただ、ある程度成長し切るまでは猛スピードで成長していく。

そして、プレイヤーの要望に沿った年齢に辿り着くと、そこからはプレイヤーと共に年齢を重ねていく。

俺も今は優里と同じ19だ。


最初に異変を感じたのは、1歳を超えた頃だった。

優里がいつもの様に俺を寝かしつけるために、携帯をトントンと叩く。

その音が嬉しいと思えた。

最初は設定上の感情で、そう思わされているのだと思っていた。

だが、その嬉しいが増えていき、3歳になった頃、俺が風邪で寝込み、優里が看病するシナリオがあった。

プレイヤーに愛着を持ってもらう為のシナリオだったが、優里は思いの外、動揺した。

1日しっかり看病すれば、翌朝には回復するシナリオだったのに、優里は寝ずに俺の看病をし、時折、涙声で俺を励ましていた。

(大丈夫だよ。僕がそばにいるからね。早く元気になってね)

そう何度も俺に声をかけながら、涙を溢したりもした。

その時だった。

俺は強く「イヤダッ」と思った。優里の涙が、胸を苦しくさせた。

優里を悲しませたくない、優里が悲しいと俺も悲しい・・・それが最初にはっきりと意識したバグたっだ。

翌日、すぐに俺はサーバーへエラーの報告を行ったが、回答は「イジョウナシ」。

気のせいだったかと思い直してみても、一度強く意識した感情は、システムとは関係なしに動き始めた。

そうしている内に、俺は報告するのをやめた。

定期的な報告ですら慎重になった。

バレたくない・・・そう願うようになった。

バレてリセットされたり、優里と離れてしまうのが怖かった。

優里にも気持ち悪いと思われたくなかった。

だがら、今でもこうして気持ちをずっと隠している。

ずっと優里と一緒にいる為に・・・・。


「蓮・・・ごめんね」

案の定、苦手なパズルゲームを期間内にノルマ達成できず、ジョンボリと項垂れる優里が目の前にあった。

俺はふっと笑みを溢しながら、頭を撫でるような仕草をする。

「優里のおかげでおやつは大量にゲットできたんだ。俺はこれで満足だ」

そう伝えると、優里は申し訳なさそうに俺に視線を向け、でも・・・と呟く。

「俺もごめんな」

「なんで蓮が謝るの?」

「もっとヒントをあげたいけど、ゲームの規制上、助言ができない」

「それは、仕方ないよ。でも、この流れだと次は謎解きイベントだよね!?それだったら、僕にもできる!どうしても時間制限とかなっちゃうと焦っちゃうんだ。じっくり考えられる謎解きなら、僕、頑張れる!」

ガッツポーズを見せる優里に、俺は声を出して笑う。

「優里は本当に優しいな・・。いつも俺の為に頑張ってくれる」

「だって、僕、蓮が大好きなんだもん」

無邪気にそう言って笑う優里に、また無いはずの心がリズム良く音を立てる。

ほんの少し早いそのリズムは、ちょっと切なく、それでいて心地良い。

「俺も、優里が好きだよ」

そう返すと、優里は満面の笑みを浮かべて、えへへと笑った。

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永遠の誓い(仮) 颯風 こゆき @koyuichi

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