その答えは、

「銀兄は着物の末路って知ってる?」

「ま、末路……!?」


 突然脈絡も無く、二番目の妹である実子は側にいた兄を見上げて言った。

 言われた長子である兄の銀嶺ぎんれいは顎に手を当て天井を見て少しうーんと唸った。


「それって昔の話か?いわゆる江戸とか……だったら着倒して汚れが取れなくなって黒ずんで擦り切れたりして紆余曲折経て雑巾とかだったと思うが」


 詳しくはわからないと銀嶺はそう言った後兄妹の中で一番背が低い妹を見下ろした。

 実子にはさらに妹が居るが既に身長を抜かされている。因みにその妹の背は銀嶺のすぐ下にあたる高身長の姉に迫る勢いで伸びている最中である。

 

「さすが銀兄、正解だよ。じゃあその雑巾の末路を知ってる?」

「……すまんがわからないな」

「そっかあ」


 銀嶺の受け答えに対して実子はそういった後説明を始めた。


「かつて着物は……と言うか布は産業革命が起こる前は繊維を糸にするのも時間が掛かり様々な工程を経て作られる貴重な物品だった。だから古着にも価値がありその布をバラして裂いて布を織り直す布があったりと様々な工夫がされたりもしてた訳だ」

 

 そういう布を裂き織りと言うんだが、と実子は言った。

 それに対してあぁ、と銀嶺は言い口を開いた。


「そういえば東北にあったな裂き織り。断熱性を持たせる為に緯糸よこいとには裂いて細くした布を織り込むんだったか。独特な生地だったな」


 実子は兄の言葉にそうそう、と頷いた。


「詳しく知っているようだね、まぁ外国だとコーヒーの麻袋が擦り切れた物とかを使ったりする裂き織りがあるらしい」

「そうなのか」

 

 それは知らなかったと銀嶺は実子に答えた。


「それで、着倒して縫い糸を解いて使える布部分で子供サイズに仕立て直して古着になりその時出た端切れは継ぎ布や当て布にされたりするためそういう端切れ屋と呼ばれる人達が買い取っていたらしい。更に子供用の着物をボロボロに着古したあとは赤子のおしめの布にされそしてその赤子のおしめが取れたら銀兄の言った通りに雑巾に使い倒していた。そしてボロボロになった後は……焚き付け、つまり竈の燃料にされて燃やされて――」


 淡々と実子は銀嶺に説明をする。


「なるほど燃料か」

「そして燃えた灰を洗濯や肥料にして使われていた、灰を引き取る業者も居たそうだよ」


 実子は銀嶺の言葉を無視して付け加えた。


「……灰になったらなったで洗い物に使ったり肥やしにされたりしたと」


 それは凄いなと銀嶺は驚く。

 実子は驚く銀嶺を見た後再び口を開いた。







「ボロボロになった後も使い倒されて酷使されてるのは僕も同じだな。モノは形を変えて利用されて巡っていく――これが世の中の真理なのかもな」

「……?」


 そう言って実子は何処か窓の外遠い場所を見た。

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