根源を求める者

 大都会の大学生で神社の大祭の為に帰郷していた祝銀嶺は行事が終わり片付けを済ませ洋服に着替えた。

 居間に行くとお茶を飲んでた小学生である妹の実子みのりこが居たので銀嶺はは話し掛ける。


実子みこー」

「どうしたの銀兄、祭りお疲れ様」


 居間に居た実子がお疲れ様と返事をした。


「講義レポートで語源に付いて調べていたんだが……土、日、水どれも霊魂とか神とかに結びつくんだけど本当なのか?」

「あー、和語ってそういう所あるなー、お勉強頑張って」


 銀嶺の話が小学生にする問いでも無ければ顔色一つ変えずふわっと肯定しつつ他人事に頑張れと言い放つ実子も何かがおかしい。


「待ってくれ、マジなのか!?」

真面まじなりよ」


 銀嶺が驚いていると実子は今のテーブルに置いてあるメモ帳からメモを一枚取り鉛筆で書き始める。


「まず『霊』の漢字だけど、元の旧字が『靈』で雨乞いをする巫女と言うかシャーマン、呪術師を表す漢字だな。この字から察せられるように巫や神様、シャーマニズム?が強い漢字なんだ。霊魂の他には漢字の通り巫や雲の神様とかの自然神の意味もある字で場合によっては『ミ』とか『ヒ』とか読ませることもあった筈だよ」

「へ、へーこの旧字は見慣れてるけど深く考えた事なかったな……」

「若様大丈夫?」

 

 実子は旧字の靈を書き漢字の上の雨と下の巫を丸で囲いながら説明をした。

 既に動揺してる社の後継者の銀嶺に実子は大丈夫?と問う。

 

「後は『神』の文字自体も『ミ』と読ませるし、神様の名前で『大綿津見オオワタツミ』とか『野槌ノヅチ』、『武甕槌タケミカヅチ』とかの『ミ』や『チ』は神様を表す部分と言うべき所かな。この場合和語なので当てはめる漢字はマチマチだったりするかな、万葉仮名の文献とかも出てくるし」

「そうなのか……」

 

 続けて実子は神様を漢字で書きながら話す。

 漢字の方は「大海神」、「野槌」、「武御雷」と書いていた。

 銀嶺はげんなりとした顔をしていた。


「和語は漢字が渡来する前からある言葉だから、古い原初的な概念が残ってたりする言葉なんだよ。だから大まかな意味な言葉で『ヒ』と言う言葉一つで『自然の霊』や『日』みたいな意味が出て来る。渡来した漢字を当てはめて区別したらしたらで『日』と『火』で読みが一緒とか当たり前現代までに適応する形で言葉も変質もしてるけど残ってる物から根源の思想や概念も辿ることも出来る。因みに『火』は昔は『ホ』と読んでた様だけど。そして神道はそれと生まれてからずっと一緒に在った物だから概念もくっついて居るわけだ。だからこそ離れられない関係にあるわけで、穢れの概念の説明もそうだろう?」

「そ、そうか……」


 実子は日と火の漢字を書きながら銀嶺にそう言った。そして追加で大まかに書き足す。

 銀嶺は神妙な顔で返事をする。

 

「今のメモあげるから若様頑張って」

「あ、あぁ、ありがとう実子」


 そう言って実子はメモを銀嶺に渡す。

 銀嶺は受け取りお礼を述べた。


「熱いの派生やスムの概念やマチの概念とかまだまだ説明できるけどどう――」

「今日はありがとう御座いましたぁー!!」

「…………」


 銀嶺は実子の言葉を必死に遮り無理矢理謝辞を述べて居間から逃亡した。

 実子は苦笑する。


「まぁ、どうせ思い知ることになるか」


 実子はそうぼやいた。


 銀嶺はまだ知らない、のちに自身が民俗学に巻き込まれてのめり込む事を。


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