初恋と云うのであれば
祝銀嶺はよくわからないまま考古学ゼミの飲み会に誘われ飲んでいた。
そして飲み放題において銀嶺は水みたいにウォッカを飲み周りがドン引きしていた。
顔色も変わらない笊の蟒蛇として君臨し友人の塚森が物理的に絡んできた。
「お前は女遊びした事無いのかー?」
「無いよ」
酔っ払った塚森は管を巻いて比喩的にも絡んできていた。
面倒臭そうに銀嶺は答えた。
「マジでー?じゃあ好きになった女の子は居るのかー?」
「うーん……いないかな」
「悩むって事は本当に微妙なラインなんだなー」
銀嶺は溜め息をつきながら言った、内容は割と真面目に答えるつもりだったのかと塚森がツッコミを入れる。
「まぁ、お前さんは気軽に遊べないのは親父さんの件で知ってたけどなー」
「じゃあなんで訊いたんだよ」
「あははー」
「……大丈夫か?塚森が余計なことを言わない内に引き剥がすか?」
塚森は何が面白いのかゲラゲラ笑っていた、相当酔っている。
そして銀嶺は素でツッコミを入れる。
引率兼財布の教授が物理的にも比喩的にも絡んでる塚森を見て銀嶺に訊ねて来た。
「あー、とりあえずソフトドリンクのグレープフルーツジュースでも塚森にやって下さい」
「わかったよ」
「あはははー」
銀嶺も塚森に適当に絡まれる分には別にそこまで気にしないらしく周りには男子しか居ないので放って置く。
余計なことと言えば先程の親父さん云々は文字通り、遺伝的な問題の事だと思われる。
塚森にはその類の話はしていないが、普段の塚森は聡明で察していたようだが酒で頭が緩くなっているようだ。
銀嶺の父である銀流は生まれつき片目が見えずもう片方も色が一切わからないと言う色盲であり、それすらもスパイスに神秘のカリスマとして崇められていた。
そして銀流は嘗てのこの大学に限らず色々な大学の民俗学や文化史などの界隈を引っ掻き回していて悪名高く
その血を引く五人の子供達は一人除いて大なり小なり目が悪く、銀嶺は大なりの方で右目だけがかなり悪い上に緑と赤が見えないと言う色弱を持ち合わせている。
父とは違いもう片方は少し視力が悪い程度で普通の景色を見ることが可能なので日常生活にはそこまで問題はきたしていない、色弱の関係で免許が取れない事を除けば。
それでも遺伝として目の悪い子供が産まれる可能性が高く当代では済まない関係で理解のある家への嫁入りやそういう家からお嫁さんを貰う必要があり、銀嶺は跡継ぎなので家の決めた人間と結婚することになるのが明らかである。
血は何代もかけて薄くなってもまた形質的に現れる可能性があり女性を周りに迷惑がかかる可能性があるからだ。
だから銀嶺は一般人以上に軽い気持ちで種を蒔くことが許されないのだ。尤も女性にあまり興味なさそうでもあるが。
地元では崇拝対象でも都会ではハンディキャップには変わりないのだから。
ふと先程の質問で銀嶺は嘗て
その時は涙すら涸れ果て目と口から血を流し
因みに当時の銀嶺はまだ未成年で少女を抱き締めるのは絵面的にも限り限りセーフかアウトかな代物だった。
「あれは初恋と言えるのだろうか……」
無意識に銀嶺は零した。
すると塚森がかっと目を見開いて話しかけてきた。
「ねー、どんな子ー?教えてくれー」
「うるさい此れでも飲んで黙っててくれ」
そう言って頼んでおいたグレープフルーツジュースを押し付けて黙らせたのだった。
結局彼は飲み会が終わるまで顔色一つ変えずに飲み続けていた化け物として考古学ゼミに認定された。
銀嶺の父、銀流は恋愛結婚をしている。
それには相当な根回しと利権のアレコレや地域内の睨み合いも繰り広げついにやり遂げたのだ。
一応、結婚の家の格は釣り合っていたが、家同士の価値感のズレやそれに関わる結婚相手が元の家族に冷遇されていた醜聞と銀流自身も侮られてた事など様々なものを斬り捨てて攫うように結婚したのだった。
銀流は仲は良い夫婦であり五人の子供を儲けたが、銀嶺自身にはそこまでの力は無いしそこまでして得たいと思う伴侶も居ないのだ。
美しく魅力溢れる彼の銀世界の山は人を惑わせて冷酷に貶め排除する。
だがその銀世界に閉じ込めたいと思える人間の事とその感情を銀嶺はまだ理解していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます