掌編小説集。言葉の森の中には何もあるが空は下。

純文学図書館

題名:水



 多くの場合それは僕に命を連想させる。温かくても冷たくてもこれといった変わりはなく、僕は水を見てはすくい取るように手で受け止めた。雨でも風呂場の水でもそれは構わないことだった。受け止めたあと、僕の手からこぼれていく水たちは何も語らずに何も僕に求めはしなかった。雨が降っていた日に、空を見上げると分厚く鉛みたいな雲がそこにはあった。雲は何も語らず何も求めてはいなかったが、そもそも自然というもの自体がそういうものであるし、僕が雲や水から何かを見出そうとする行為自体がおこがましいことかもしれなかったが、そこに生命を見出そうとする自分に生命を感じたいのかもしれなかった。ただ勝手な話ではあるが。魂と魂のこすりあわせのようなものを僕はときとして必要とした。摩擦に火花が散ってほとばしる。

 決して命を燃やすと言いたいわけではないが、そういった真剣臭さも時にはいるのではないか、そう思つた。真剣に連想することは少ないが、少ないからこそより強くかがやくのだろう。できればずっとそうでありたい。そうでなければ死んでいるのと同じだ。




(了)

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