第33話 魔熊ガウガウと魔鳥ピイピイ、肖像画の復元を試みる。
「森の魔女様が基礎転移陣を展開してくださいました印刷の簡易転移陣により、私どものような魔力が少ないものたちも、格段の移動利便性を頂きましてございます! 雪原の魔女様が開発されました魔石を用いて割れにくく洗いやすく軽くして頂きました
ネエネエと王女が城下町へ出かけたその頃。
獣人王国の宮中の大広間では、
魔女様方が公の場に姿を現されることはひじょうに少ないため、その腹心たる御使い様方へ感謝を伝えられることが宮中画家には大きな喜びなのだろう。
しかも、万が一に備えた修復作業の準備などについては二人から見ても丁寧であり、人員については宮中画家一人だけで、部下なども置かないという徹底ぶり。
今この時も、感動を叫びながらも手はきちんと動かし、密談用の小部屋から運び込まれた竜の獣人騎士服姿の初代女王陛下の肖像画の額をきれいに外し、その枠の清拭作業を終えていたのである。
「宮中画家よ、御使い様方が作業に集中なされることを邪魔してはならぬ。初代女王の肖像画の額の清拭作業を終えたのならば、私とともに静かに拝見いたそうではないか」
「あああ、申し訳ございません、御使い様方、国王陛下! それでは、この大広間の端に正座をしておりますので、どうかこの場に留め置きくださいませ!」
宮中画家は国王の声がけに、ほんとうに隅で小さくなりそうな勢いである。
国王の手には、獣人王国の宝たる記録用の水晶があった。
ガウガウとピイピイ、御使い様である二人としては、魔女様方の偉業を称えるものを邪険にすることはしたくはなかった。
しかも、三人組が「御使い様であられるということを可能なかぎりは内々にしておくように」という国王からの達しにも「必ずや!」と申す宮中画家の魔力には、一かけらの偽りもない。
それならば、と二人は思う。
「魔女様方のとにかく静かにしてもらえればそれでよし」
「ええ。静かにしていらしてくだされば」
その言葉に、へへえ、と言い出しそうな勢いで深々と礼をする宮中画家。
お言葉の圧だけではなく、二人の周囲の魔力の質が変化し始めているのが明らかであったからだ。
「それでは、御使い様方のよきときに開始をお願い申し上げます。獣人王国国王千波、お二方のご作業に際しまして何がございますとも、御使い様方並びに偉大なる魔女様方に些かのご不興もお伝え申し上げませぬことをここに誓わせて頂きます」
「……ただ今の獣人王国国王の言葉はこの水晶に確かに記録をいたしましてございます。現王家の芸術に携わりますものの第一たる宮中画家の職位に代えましても、偽りなきことと誓い申し上げます」
国王も、つい先ほどまでは慌ただしかった宮中画家も、国王から託された記録用の水晶を手に、たいへん静かに二人の行いを見届けようとしてくれていた。
二人は、直接は床に触れぬようにと魔木の台にのせられた初代女王陛下の肖像画に一礼をしてから、お互いを見てうなずき合う。
『ガウガウ、先にお話いたしますが、ネエネエがこの役をわたし、ピイピイにと言いましたのは、おそらくは』
『うむ、承知している。ネエネエがこの作業を行うと、精霊殿がいらしてしまわれるかも知れぬからであろうな。ネエネエらしい細やかな気遣いであることよ』
さらに、今朝。
氷の邸宅で二手に分かれる前に、ネエネエはこうも言っていた。
「精霊さんはガウガウのこともピイピイのことも大好きですねえ。あの肖像画が大好きな精霊さんが、モフモフさんたちはなかよしでいいねえ、と言っていましたのなのですねえ。ネエネエが黒いモフモフさん、ガウガウが白いモフモフさん、ピイピイは青いモフモフさんですねえ。だから、二人なら絶対に大丈夫なのですねえ。ネエネエは精霊さんに言われなくても分かってましたですけどねえ」
その様子とともに二人が思い出したのは、えっへんモフモフなネエネエの姿だ。
『ネエネエが託した大役。ピイピイならば無事に遂げてみせるであろう。後ろは我に任せよ』
『はい、白いモフモフさん。頼りにしてございます』
ピイピイの念話に、ガウガウは少しだけ口角を上げ、こう返した。
『ああ、青いモフモフ殿、了承いたした』
隣にいなくても、二人にとって安心できる存在。
それが、ネエネエである。
もちろんネエネエにとっても、それはまた同様。
『始めましょう、ガウガウ、ネエネエ』
『ああ、そうだな。ピイピイ、そして、ネエネエ』
そうして、モフモフたちは初代女王陛下の肖像画へと、改めて向き合うのだった。
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