第30話 モフモフ三人組、呪いの解明に三歩踏み出す。

 ネエネエが王女を連れて転移の魔法陣を用いたあと、肉球で巨大な水晶を抱えてしっかりとした足取りで歩くガウガウと、ゆったりと羽で飛行移動をしたピイピイは二人揃って初代女王陛下の碑の前に立ち、一礼をした。


「初代女王陛下、あなたさまの末裔殿は立派に我らに竜の姿を示し、苦しい中でも呪いの様子をあらわしましてございます」

「ただ今、わたしたち御使いのうちの一人が王女殿下、姫君を確かに送っております」

『初代女王陛下、ご高名はかねがね。当代の三人の魔女が一人、そこな魔鳥ピイピイが主、山の魔女と申します』

 ガウガウが肉球へと戻してがしりと掴む巨大な水晶からは、山の魔女様が挨拶を申し上げた。

 三人組ならぬ、三人である。


「ありがとうございます、山の魔女様。こののちにネエネエが集めてくれました姫君の呪いを拭いました布をお届けいたします」

「魔女様、よろしくお願い申し上げます」

『ありがとうございます、二人とも。ネエネエの魔法陣は素晴らしいですね。さすがは森の魔女の一番近くでお仕えするモフモフです。布で拭き取られました涙などは、必ず姫君の呪いの解明に役立ちますよ』


 氷の邸宅には、汚れものを宮中の洗濯室へと送るための籠と、洗濯後の清潔なものを受け取るための籠とが置かれており、それぞれには送る、受けるというそれぞれの役割が付与された魔法陣が置かれていた。

 ネエネエがそこから閃き、応用をしたのが、この二つの籠に描かれた魔法陣である。


 呪いの発動時に竜姿の王女の涙や色々を山の魔女様のところにお届けすれば、呪いの解析を進めて頂くことにつながる可能性が高い。できれば、こちらに転移をさせてほしい。

 これは、氷の邸宅での三人組からのご報告の際に、山の魔女様が伝えて下さったことであった。


 ご報告のあとで、涙や色々を集めるにはと三人組が相談をしていたところ、ネエネエが氷の邸宅内を三人でモフモフと調べたときに確認した籠の魔法陣を思い出したのである。

『ネエネエ、籠を編みますねえ! 姫様の辛いを少しでも抑えて、呪いも解きやすくなりますですねえ!』

 魔羊毛から蔓や清潔な布、色々を取り出したネエネエは、なんとも頼もしかった。

 その様子を思い出し、笑顔となるピイピイとガウガウ。


 編み上げた籠に貼り付ける特別な魔紙は、ネエネエが背からおろした背嚢から取り出されていた。

 今は三人組お揃いの背嚢は氷の邸宅で留守番をしているが、いずれまた、活躍をしてくれることだろう。


『あのときのネエネエの様子は、ほんとうに頼れるモフモフでございました』

『うむ。籠を編む様子も巧みであった』

『ネエネエの尽力を山の魔女様にお届けいたしますね』

『頼む』

 ピイピイは青い羽で飛び、籠に魔力を込めて王女の涙や色々を拭った布たちを山の魔女様のところへ転移させた。


「山の魔女様、布をお送りいたしました」

 ガウガウの肉球が支える巨大な水晶に、ピイピイは話しかけた。

『ありがとう、ピイピイ。それでは、これからのことを伝えますね。本日の記録を森と雪原の魔女にお見せして、さらに、この布たちを調べますために数日がほしいのですが。それから、花の束は瑞々しいままなのですね。今後、わたしたちのほうで必要としましたら、花の束から花を何本か、転移陣で送ってもらってもよいでしょうか』

『はい、山の魔女様。花の束はまったくもって瑞々しいままです。必要なときにはどうぞご連絡をお願いいたします。また、皆様のわたしたちの任務への多大なご助力、誠にありがとうございます。それでは、魔女様方がお話や色々をなさいますその間に、わたしたちは初代女王陛下の肖像画をご復活申し上げようかと存じます』

『むろん、情報や書物を精査することは忘れませぬ。ネエネエには城下町で情報を集めてもらおうかと』

『二人とも、よき心掛けです。ネエネエに町に出てもらうのもよいことですね。そして、本日の衣装も三人のモフモフを引き立てる、よきものでしたよ。それでは、こちらからの通信を切りますね。ネエネエにもよろしく。初代女王陛下、失礼いたします』

『誠にありがとうございました』

『どうぞよろしくお願いいたします』

 山の魔女様との通信が終了し、巨大な水晶もまた魔力を蓄えるために休息に入った。


「とりあえず、無事に終えたと言えるであろうか。それで、だが。ピイピイ。こちらがネエネエが気付いたことであるな」

「ええ。さすがはネエネエ。素晴らしい視力ですね」

 それは、昨日、花の束を拝借するために三人組が初代女王陛下の碑にお備えした赤い品々。

 赤い葡萄酒は瓶の蓋が開き、空になっていて、礼のように魔石が置かれていた。かなりの大きさで、透明度が高い。

 ピイピイが供えた赤い魔花は消えていて、代わりにということなのであろう、魔力の含有量が明らかに高い魔果実が置かれている。

 魔石は氷の魔石のように魔力を込めて透明になるものもあるが、初代女王陛下の碑に置かれたそれは、素のままで透明度が非常に高いのだ。

 それはつまり、魔石自体が含有する魔力量がたいへんに大きいことを示す。

 商業街で王女が大金貨と引き換えようとしていた魔石もかなり良質なものであったが、薄い灰色をしていた。

 山の魔女様によると、商業街に持ち込まれていた魔石はやはり薄い緑色や薄い青色で、透明なものでも半透明であったという。

 つまりは、たいへんに貴重な魔石である。


「ガウガウ。ネエネエの林檎の焼き菓子が置かれていた木皿の上に、もっとも透明度が高く、大きな魔石がのせられてございますね」

「うむ。だが、我が供え申し上げた赤い葡萄酒の瓶の前のものも、半透明よりは透明であるし、ピイピイが置いた魔花の赤い花の代わりの魔果実からも、相当な魔力を感じるが」

「ええ。獣人王国独自の魔花かも知れません……おや、ネエネエが」

「ほう。さすがだ。やはり速いな」


『ただいまですねえ! ピイピイの紙の鳥さん、先に着いてましたですねえ。姫様のばあやさんは鶴さんの獣人さんでしたねえ。ネエネエにたくさんありがとうをしてくれましたですねえ。もちろん二人にもですねえ。姫様はすやすやですねえ。王妃様はすぐに見えるそうなので、姫様と記録用の水晶はばあやさんに任せて、もふっと戻ってきましたですねえ!』

 真の竜姿と呪いを示した獣人王国の王女を私室に送り、国の宝たる記録用の水晶を無事に王女の乳母に羊蹄で直接渡すという行いも、ネエネエにおいては『姫様、元気ですねえ、よかったですねえ!』なのである。


『お疲れさまです、ネエネエ。精霊殿でございましょうか。様々なお礼をくださいましたよ』

『ああ、ネエネエならば精霊殿のお力を感じられるやも知れぬ』


『さすがは二人ですねえ! ネエネエの気になったこと、分かったですねえ!』


『初代女王陛下の碑さん、こんにちはですねえ。姫様、すごくすごく、頑張りましたですねえ。ネエネエたちはこれから色々しますですねえ。山の魔女様が涙や色々を調べてくれますからねえ。精霊さんもありがとうございますですねえ』

『わたしたちは協力して努力をいたします』

『偉大なる魔女たちも、ともに。我ら、皆で努めさせて頂きます。』


『山の魔女様、ありがとうございますですねえ。二人も、布のお届けありがとうですねえ』

 今はものを言わぬ巨大な水晶にお礼を言うネエネエ。

 二人にも、ありがとうですねえ、である。


『こちらこそ、ありがとうございます、ネエネエ』

『そうだ。我ら三人。これからまた改めて、大きなことにあたらねば』


『ですねえ、それなら、ですねえ』

『はい』

『うむ』


「合言葉は、ネエ!」

「ガウ!」

「ピイ!」


 姫君の真の竜姿と、呪いの確認。

 薬の調薬は、これから。

 そして、恐らくではなく、現実に存在するいろいろ。


 それでも、三人組には、お互いがいて、魔女様方もおられる。

 獣人王国の面々も、頼れるものたちが多い。

 王女殿下たる姫君も、己が境遇に毅然と立ち向かえる竜の姫である。

 きっと、初代女王陛下も見守ってくださっていることだろう。


 合言葉を言い合うモフモフ三人組は、そう確信するのであった。


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