第三章 モフモフ三人組、竜の姫君を助ける。
第26話 モフモフ三人組、姫君の真の竜姿を見る。(1)
朝日が昇り、城下町の朝の始業を知らせる
夜から朝にかけての勤めを終えた獣人王国の騎士たちが朝食を取りに出たり、新鮮な野菜や採れたての魚や色々が並べられたり。
獣人王国の民の活動時間は普通の国よりも早めなのである。
つまり、もともと早寝早起きで健康モフモフな三人組にとってみれば、光も音も、爽やかな起床の助け以外の何ものでもない。
「おひさま、おはようございますですねえ。朝ですねえ。王妃様からのお手紙のとおり、銅鑼さんが、ごおおおん、でしたねえ。洗面などがすみましたら、みんなで朝の室内モフモフ体操をしましょうですねえ」
ネエネエがトコトコモフモフと窓辺に寄り、窓を開ける。
少しの間羊蹄をかざして魔力を注ぐと片開きの窓が自動で開く。
もう片方の窓もネエネエが羊蹄をかざすとすっ、と開いていく。
魔動窓。素晴らしい技術である。
そして、氷の魔石を多分に混ぜた透明と白の煉瓦に守られた氷の邸宅の透明な壁面。
それが朝日を反射する様子もまた、美しい。
もちろん、邸宅の中からは外が見え、外からは邸宅の中が見えることがない。
これは、青い羽で飛翔したピイピイが外からきちんと確認済である。
「氷の壁さん、きらきらですねえ!」
昨日、氷の邸宅の美と技術を褒め称えたガウガウへと、ネエネエが笑顔を向ける。
「うむ、美しいな。さすがであるよ。銅鑼の音も、ピイピイの声とはまた趣が異なり、これはこれでよい目覚めであるな。銅鑼の音が聞こえたということは、今から三時間ののちに姫君がこちらにということであるな」
ガウガウが、ネエネエに深い賛同をする。
そして、ピイピイもまた笑顔である。
「ええ、わたしもこの銅鑼の響きは気に入りました。生きる音という気がいたします。朝日に照らされたこの邸宅の壁の輝きも、また素敵でございますね」
ピイピイはさらにひらりと舞い、ネエネエの頭部から氷の邸宅の壁の反射を眺めた。
「美しいですね。朝日、そして、人々の生きる活力で照らされましたこの輝きを守りたいものです」
「うむ」「ですねえ」
三人組は、少しの間窓からの風景を眺めていた。
そのあとで、ピイピイが二人にこのように話しかける。
「お二人とも、本日こちらに見えますのは姫君と、それから臨時の宮中薬師の任によりその間は公式記録の資格者ともなられました宮中医師斑雪殿。あとは人族の高官がもうお一人でしょうか。人族の追加については山の魔女様が国王と王妃にお伝えくださいましたからね」
「左様。我らもきちんと着替えて姫君を待つことにしよう」
「ですねえ。足は
「そうですね。わたしたちは素足のほうが魔力を込められますからね」
昨日の昼食に添えられた獣人王国王妃、
毎日鳴りまする朝の銅鑼は六時。その三時間ののちに皆様方のところに転移陣にて姫をうかがわせます。御使い様方におかれましてはどうぞよろしくお願い申し上げます。
その文からは、御使い様三人への敬意と、母としての気持ちが込められていた。高級な魔紙の材料には魔草が使われていて、三人組はそこから魔力を読むことができるのだ。
「王妃の、我らと魔女様方への敬いの心、そして、母君としてのお気持ち、素晴らしいものであった。我ら三人、必ずや、報おうぞ」
「ええ」
「ですねえ」
ガウガウの言葉に、うなずく二人。
そして、気持ちを新たに、朝の色々と、仕上げのモフモフ体操。
朝食は、三人組の手持ちの品々と昨日新しく届いたものたちで十分である。
「ネエネエが焼いてくれました魔鶏の玉子に魔豚の挽肉と魔牛のチーズを入れたオムレツ、とても美味です。たっぷりの魔牛の牛酪で焼かれていて。魔牛乳も混ぜてございましたね」
「うむうむ。まことにそのとおり」
ピイピイは魔鳥であるが、食用として育てられた鶏や魔鶏の玉子などは、普通に食する。
どちらかと言うと魔草や野菜のほうが好みであるピイピイだが、そこは主にネエネエが担当した今朝の朝食。当然とばかりに新鮮魔草や野菜のサラダもきちんと添えられていて、申し分ない。
食事の支度は三人皆で楽しく協力しての交代制である。誰が何を、というよりは皆でうきうきモフモフなのだ。
ただ、背嚢内で保存魔法で守られていた様々な食事や菓子たちと、それから氷の邸宅に備えられた冷蔵魔道具と冷凍魔道具。さらには、獣人王国の王宮食堂から魔法陣で転送される様々な心尽くしの料理。
安心安全、そして美味な食材や料理が過多となりすぎることを避けたい料理上手な三人組なのである。
「オムレツ、そうなのですねえ。さすがですねえ。二人においしく食べてもらうのは嬉しいですねえ。それに、ピイピイが作ってくれました
「ええ。ガウガウが焼いてくれました腸詰めもたいへんにおいしいです。それにしても、保存のきいた料理と食材がたくさんとなりましたね。どうでしょうか、お二人とも。王宮の食堂から食事を転送してもらう必要があるときは、こちらから前日の夕刻までにご連絡申し上げますという紙の鳥をお送りいたしましては」
「それはよいな。本日の昼と夕は停止できるならばお願いいたしたいが、ご準備頂いているならば、という旨でお願いしたいな。では、ネエネエ。手紙を頼めるだろうか?」
「はいですねえ、さらさらですねえ。王妃様に、ネエネエたち三人は姫のご到着をお待ちしておりますですねえもちゃんと伝えますですねえ。ほかにもいくつか書いておきましたねえ。できましたねえ。ガウガウ、確認をですねえ」
こういうときはモフモフ魔羊毛から取り出すのがいちばん早い、と魔羊毛に羊蹄を入れたネエネエ。
そして、あっという間に鉛の筆で手紙を書き上げたネエネエは、魔紙の便箋を羊蹄で掲げる。
「うむ、ネエネエ、さすがだ。美麗な文字、明瞭にして美しい文。ではピイピイ、お願いいたす」
「ガウガウ、ありがとうですねえ。照れ照れモフモフですねえ。ピイピイ、紙の鳥さんをお願いしますですねえ」
「ネエネエ、ありがとうございます。そして、お二人とも。確かに承りました」
鮮やかな風魔法で鳥の形へと変えていくのは、ピイピイだ。
「できあがりました。では、紙の鳥よ、王妃様のところへ」
「紙の鳥さん、いってらっしゃいですねえ。では、ですねえ」
ピイピイの鮮やかな魔法を確認すると、ネエネエはきりっとモフモフな表情をして、こう二人に伝えた。
「ネエネエは、お姫様がいつも転移をする場所の土さんと芝さんにお話をしてきますですねえ。多分、いつもよりも人数が増えますがお願いしますですねえ、ですねえ。どこが着地点なのかは、魔法陣と魔力の足跡から追えますからねえ。ガウガウとピイピイは山の魔女様にお伝えする準備をしてくださいですねえ。ガウガウは水晶への魔力注入を、ピイピイは三人お揃いの衣装を検討してくださいですねえ。あと、時間がありましたら、昨日図書の館さんから来たものと、ネエネエたちが持ってきました大切なご本さんたちの中から、真の姿のご披露のあと、すぐに使えそうなご本さんを選んでおいてくださいですねえ」
「あい分かった」
「畏まりました」
「それでは、ですネエ!」
「ガウ!」
「ピイ!」
モフモフ三人組は、改めて合言葉で気合を入れる。
それはある意味、三人組には当然のことであった。
そう。このあとは、姫君の真の竜姿と、それから呪いの実像を確認するのであるから。
※銅鑼……ばちでたたいて鳴らす、青銅製で円盤状の打楽器のことです。
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