第25話 モフモフ三人組、氷の邸宅を探検した後、三人の魔女様にご報告をする。

「過ごしやすいですねえ。ちょっとひんやり。気持ちいいですねえ」

「たいへんによき空間だ」

「雪原の魔女様とガウガウのお家のような快適さです」


 氷の邸宅、氷壁の館。

 かつての王族が過ごし、二つの名を持つだけのことはあり、かなりの広さと重厚さの建物であった。

 その意匠もまた、素晴らしい。

 壁には、適切な加工がなされた氷の魔石がふんだんに混ぜられた透明な煉瓦が美しく堆積している。魔石の量で調整されているのか、白く見える煉瓦もあり、目を楽しませてくれる。

 美麗さに加え、魔法と物理に対する防御機能も高い邸宅。

 冷気まみれということもなく、ほどよい温度の、意外なほどに居心地のよい空間。それは、ガウガウが雪原の魔女様と暮らす雪原の氷の家と同様であった。


「美しさと快適さの両立。素晴らしい。なんというたくみの技。獣人王国の高い技術は過去より受け継がれしものであるのだな。工房長殿へのあのような行い、さらに、魔女様の弟子を語りしこと……許すまじ」

 技術を守るものたちと、尊い技たちを軽んじ、敬愛してやまない雪原の魔女様の弟子を詐称したこと。

 許せぬ、と、怒りの炎を静かに燃やすガウガウであった。


「はいですねえ。許せませんねえ。お姫様の呪いとお薬、ほかもたくさんまとめてえい! しましょうねえ。三人ならできますねえ」

「ええ。わたしたち三人、皆で立ち向かいましょう。気持ちは皆同じにございます」

「ありがとう、二人とも。我からの、深い感謝を。まずはなすべきことを、であるな」

「ですねえ」

「はい」


 二人に向けて、頭を下げるガウガウ。

 そう。我らはまず、精霊殿がこちらにおわすか否かの確認をせねばならぬ。

 ならば、と、ガウガウは問う。

「ネエネエ、精霊殿はこちらの邸宅にもおられるのだろうか」

「もふっと了解ですねえ、確認ですねえ。それでは……ですねえ……ですねえ……ですねえ! 分かりましたですねえ。今すぐにお話できる精霊さんの気配はなし、なのですねえ」

 それを聞いた二人は、今は精霊殿はおられないのだと確信した。


「ありがとうございます、ネエネエ。わたしは軽く邸宅内を飛んで参りますね」

「ああ、お願いしよう」

「ですねえ」

 ネエネエの次は、ピイピイだ。

 邸宅内を美麗な青い羽で飛び回る。


「お待たせいたしました。いまは、お二人が気になるであろうところを共に回りましょう」

 寝室や台所などといったまず二人が気にするはずの箇所を重点的に確認してくれたピイピイの先導で、三人組は邸宅の中を確認していく。

 さながら、モフモフ探検隊である。


 邸内全体には、清掃の必要がないように浄化魔法がかけられているようだ。

 天井と床にもたくさんの魔石が加工された縞模様となって配置をされていたので、そこに多くの魔力が込められているのだろう。


 まずは、寝室。

 三人には多すぎる数の寝台と、寝台近くの籠に入れられた予備の布たち。布たちは白く、清潔なものであった。

 洗濯。浄化魔法をかければモフモフらくちんだが、先に邸宅を飛んで回ってくれたピイピイによると、広い邸宅の裏には干し場もきちんと配置されていたという。

 家事全般大得意で大好きな三人組としては、時間ができたならばぜひとも自分たちで洗濯をしたい、という設備である。

 

「ネエネエ、こちらの空の籠の底には魔法陣がございました」

 ネエネエが、ピイピイの声がするほうを見ると、たくさんの洗濯済の布のとなりに空の大きな籠がある。


「これは、汚れた洗濯ものを入れておくと、宮中の洗濯室に届く仕組みですねえ。いってきますの籠ですねえ。この、きれいな布がたくさんのほうは、きれいになった洗濯ものが戻ってきたほうで、お帰りなさいの籠ですねえ。多分、こちらの籠の底にも魔法陣がありますですねえ」

「では……どうであるかな」

 ガウガウが肉球ですべての布を持ち上げ、ネエネエが底を確認する。

「やっぱりですねえ。きれいになったものを移動させるための魔法陣がありますですねえ。お帰りなさいの籠ですねえ」

「なるほど。ありがとう、ネエネエ」

「ガウガウ、いえいえこちらこそですねえ」


「お二人とも、ありがとうございます。食堂にも飛んで参りましたが、大きな台所につながっていて、そちらには冷蔵魔道具と冷凍魔道具が。中には新鮮な食材が。食堂の卓上には魔法陣がありまして、おそらくはわたしたちの昼食と思われます、焼きたてのパンや焼けた腸詰め、新鮮な野菜などがお皿にのせられました形で、魔法陣の上に大量にございました。瓶の飲みものもです。食堂はこちらです」

 ピイピイに続いて、ネエネエとガウガウも食堂に入る。


 主人の用事の部屋はすべてが上階というわけではなく、一階でもかなりのことを済ませてしまえそうな邸宅である。玄関には、大きな広間。突き当たりには書斎や書庫もあった。

 王族の住まいとしてはかなり異例であろうが、三人組には大助かりな邸宅だ。


「食堂……ほんとうですねえ。転移の魔法陣と、状態保存の魔法陣ですねえ。あ、蝶さんではなくて、普通のお手紙がありますねえ。読みますねえ。王妃様からですねえ! 初代女王陛下の碑と邸宅への来訪や見学は無期限のお休みに。理由はお姫様の魔法練習の練習場とするため、としてくれたそうですねえ。さっきの籠さんたちとか、色々な説明もたくさんたくさん書いてくれていますねえ。いちばん大切、明日の朝のこともちろんですねえ。二人も読んでくださいなのですねえ」

 ネエネエが昼食に添えられていた王妃からの手紙を読み、それを二人に渡す。

 高級な魔紙に丁寧にしたためられた、三人組への敬意が溢れる文だ。


「このようにして頂けましたら、魔法店の職業訓練のわたしたちがこちらにおりますことも最低限の方々にしか伝わることはございませんね」

「ですねえ。ごはんやお洗濯ものを色々してくれる皆さんにも、そのあたりをうまく伝えてくださるみたいですから安心ですねえ」

「ありがたい。それにしても、どうやら、こちらを使われていたのは、我らと同じく、身の回りのことをできるかぎり自分たちで行いたいという王族殿でいらしたようだな」

「ですねえ。水回りを確認しましたら、魔女様へのご報告をいたしましょうねえ」

「そうですね。水回りはわたしが確認いたしますから、お二人はご報告の準備をお願いいたします。集合は、玄関の広間にしましょうか」

「そうだな。大きな卓も存在したし、とてもよいと思う。では、ピイピイ、お願いする。ネエネエは我と広間に向かおう」

「はいですねえ」

 まずは魔女様方へのご報告を。三人組の意見は一致した。


「お待たせいたしました。浴室は広く、氷の浴槽と、お湯の浴槽。魔法店の浴室の倍程度とご想像ください。冷蔵魔道具もございまして、魔牛乳の瓶と、果実水の瓶がございましたよ。ご不浄も三つ、洗面台にも余裕がありまして、素晴らしいですね。わたしたち三人にとりましては、ありがたくも完璧な住まいとなりますよ」

「ピイピイがそう言うならば」

「安心が特大ですねえ!」

「光栄です。そちらの用意も完璧ですね」

「うむ」

「ですねえ」

 広間の大きな卓に特別な魔石の置き石をのせ、その上に鎮座した特別な水晶。

 あとは、ネエネエが編んだ魔蚕の魔絹の揃いの外套に浄化魔法をかけあってから、くるくるくると回り、お互いの身だしなみを確認モフモフ。

「よし」「はい」「ですねえ」


 今回は、通信と映像の大型水晶を三人の魔女様に同時にお届けすることにした。

 まずは、通信でそれぞれがそれぞれの主の魔女様にお伝えして、待つこと数分間。


『……なるほど。初代女王陛下の碑にご挨拶ができたのだな。無事の到着も含めて、たいへんによかった。三人とも、ご苦労であった』

 最初は、森の魔女様がお姿を示してくださった。

 そこで三人は、無事の到着と、国王陛下たちとの密談の小部屋でのあれこれ、姿はかわいらしいが、な兎の獣人である謹慎中の宮中薬師のことなどと、それからこの氷の邸宅に着いてからをあれこれをお伝えしたのだった。

 この水晶ならば、映像はなくとも、三人組の声は確実にお二人の魔女様にもお届けできているからである。


『背嚢たちは役に立っているのだな。よかった。そして、花の国からの花の束の現物とはよいものが存在したな。百合の花やほかの花たちが皆の眼前で瑞々しく、とは。初代女王陛下とそのそばにある精霊からの励ましだろうか? さすがは三人だ。ところで、その邸宅の庭の広さはいかほどだ? 真の竜化には耐えられそうか? 式典に列席した大きさは、巨大竜というほどではないのだろう? 大丈夫であろうか』

 次は、雪原の魔女様である。

 お二方ともに、三人組のご報告を心から喜んでくださっているご様子でいらした。


『明日は、三人がこの水晶を用いてくれるのですね。嬉しいですよ。ところで、人族の立ち会いですが、公式の記録を取ります宮中医師兼宮中薬師代行殿だけではなく、もう一名ほどがいたほうが症状が分かりやすいかも知れませんね。騎士を付けるということでしたね、ならばこのあと、わたしから国王陛下か王妃殿に詳しく伝えておきましょう。この報告が終わりましたら、皆はとにかくちゃんと食事を取り、ゆっくりと休みなさい。明日のために、ですよ。わたしのほうでも色々な書物などを揃えておきますからね。そして、できましたら……』


『山の魔女様、ご助言を誠にありがとうございます』

『明日はどうぞよろしくお願い申し上げます』

 三人組は、明日、水晶を通じて状況をご覧くださるご予定の山の魔女様にお礼を申し上げていた。

 山の魔女様は和やかな表情でいろいろな助言もくださったのである。

『ですねえ。あ、山の魔女様、それはネエネエが編みましたピイピイの編みぐるみですねえ。モフモフですかねえ?』 

 その時、ネエネエが自分が羊蹄で編んだピイピイの編みぐるみを見付けたのだった。

『ええ、森の魔女が魔法陣で届けてくれましたよ。そして、その三人お揃いの外套もとても素敵ですね。この報告の最後のご挨拶のときには、皆さん、わたしたちのために、くるりと回って頂けますか?』

 山の魔女様のお言葉に、三人組はすぐにうなずいた。

『もちろんですねえ』

『はい』

『我らも、ネエネエの腕に感謝を申し上げてございます』


 そこに、雪原の魔女様もネエネエへの礼を、と声を上げた。

『ネエネエ、我もガウガウの編みぐるみに感謝をしておるぞ! 素晴らしき腕だ! そうだ、我の作りし通信の鍵と、山の魔女がピイピイを通じて皆にと渡した水晶の玉は使い分けるように。鍵のほうが遠距離に届くが、水晶の玉のほうが声を保存するのにはよいのだよ!』

 何か三人組のためになることを、という雪原の魔女様からのご助言である。三人組は、頭を軽く下げる。


『ネエネエ、二人からネエネエが以前預かった魔熊毛と魔鳥の羽毛の編みぐるみ、あれはきちんと森の魔女の魔法陣が雪原と山の魔女のもとへと届けたので心配をしないように! それから、それが噂の外套か! 素晴らしいな、さすがはネエネエ! 二人もまた、よく似合っているぞ! 今からくるりと回ってもらうのはどうだろうか?』

 すると、ただお一人だけ、外套の様子をまったくご存じではなかった森の魔女様が今から、と仰られたのだった。


 その森の魔女様に、雪原の魔女様はこのように言われたのである。

『森の魔女の気持ちは、痛いほどに伝わる。確かに、三人組の外套姿は素晴らしく、モフモフがたいへんに上昇している。だが、これからのことを我らが三人組に示唆してやらねば、な?』

『そうでございます。まずはきちんと三人組の話をうかがいましょう』

 山の魔女様も、このようにお伝えした。

 すると、森の魔女様は静かに三人組を見つめられたのだった。

『確かに……。三人とも、すまなかった』


『いえいえですねえ。ネエネエたちも、魔女様たちにお喜び頂けて嬉しいのですねえ。そして、雪原の魔女様、お言葉と素晴らしき魔道の品々をありがとうございますですねえ。皆様からのお心遣いに感謝をいたしながら任務を果たすこと、三人組できちんと全力で、ですねえ』

『森の魔女様が従魔にして得難き友人ネエネエに我らが預けし魔熊毛と魔鳥の羽毛。こちらを活かしてネエネエが編んでくれました品々を我が主と山の魔女様にお届けくださりしこと、誠にありがとうございます』  

『魔力を持つものの憧憬の対象たる偉大なる森の魔女様の魔法陣をお使い頂きましたことに厚く御礼を申し上げますとともに、此度の任務のご報告を続けますことのご許可をありがとうございます』

『うむ、ネエネエ、ガウガウ、ピイピイ。其方たちの意気や、よし。であるな、雪原の、山のよ』

『ああ。三人には、鍵と水晶、外套たちをこれからも役立ててほしい』

『もちろんですよ、わたしたちも皆さんのお役に立ちたいです。協力は惜しみません。それでは、ピイピイ。続けてください』

『はい、それでは』

 歌うような声で、ピイピイが続ける。


 明日の朝には、獣人王国の姫君の呪いを確認するのだ。

 その様子を水晶を通じて山の魔女様にご確認頂ければ、調薬に取り組むまでの時も短縮されよう。


 獣人王国において、陰謀といえるものが錯綜していること。

 それには、ここでやり取りをする全員が気付いてはいる。

 だが、まずは、姫君の呪いを。

 その思いを新たにする、モフモフ三人組と、三人の魔女様方なのであった。

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