第21話 モフモフ三人組、今後の予定を確認する。

「国王陛下、わたくしが御使い様方を離れの邸宅へご案内申し上げたいのですが、いかがでございましょうか」

 水と魔牛乳とともに温めたのちに魔蜂蜜を入れた花香が素晴らしい紅茶と、おいしい焼き菓子。

 御使い様方から頂いたお茶とお菓子はほんとうに素晴らしいですと、獣人王国の姫君は、その素晴らしさから、皆様にご滞在頂く離れの邸宅へは姫たる深緋こきひが自らご案内申し上げたいと父である国王に申し出るほどに感激をしていた。


「姫よ、それは皆様方にご確認をせねばなるまい」

 国王たる父、千波が三人組に確認をする。

 国王は赤葡萄酒、王妃は白葡萄酒を頂いている。一瓶だけというのが惜しい思いがするほどに深い味わい。肴も良質なものを頂戴していた。

 もてなすべきお方達にこのような歓待をして頂いているのだ。できうる限りの誠意を尽くさせて頂かねばと国王は思っている。


「姫君はこののちも明日の件など、国王とのお話が必要にございましょう。離れの邸宅の場所をお聞きできましたら、我々は三人で向かうことといたします」

 ガウガウは国王にこう答えながら、二人にも確認をする。


『先ほど、我が国王陛下と内々に念話にて会話をしておいた。とりあえず、二人に伝えておきたい件は、工房長殿は王配候補の可能性があるということだ。それから、本日のこちらでの密談はこれくらいでよいかと思う。なかなかに有意義であったと感じたが、二人はどうであろうか。もしもこれでよければ、離れの邸宅に移動してから三人で情報を共有いたそう』 

『そうですね、よろしいと思います』『はいですねえ、ひそひそなお話、さすがはガウガウですねえ』

『二人ともありがとう、では』


 ピイピイとネエネエが、ガウガウの提言に賛同をする。

「それがよいでしょう」「ですねえ」


 そこに、宮中医師が遠慮がちに挙手をした。

「失礼をいたします、それでは、僭越ながら、この宮中医師が御使い様方のご案内をさせて頂くのではいかがでしょうか。途中にございます宮中の図書のやかたにも皆様をご案内申し上げたいのです」


 ガウガウが、それは、という表情をする。

「それはありがたい。国王陛下、我々の貴国の宮中の図書についての閲覧権限についてはどのようになっているのだろうか」

「女王陛下の呪いにかかわる書物、巻物、書式に限定をすることなく、すべてのものを皆様方に自由に閲覧頂けますと申し上げたいのですが、ご希望頂きますものすべてにご対応ができますかどうかが……。初代女王陛下の御世からは既にかなりの年数を経ておりますので、宮中司書もすべての蔵書を把握してはおらず、申し訳なく存じます」

「それは構いません。ですが、利用に際しましての許可証のようなものはございますか」

 そこに、ピイピイが確認をする。


「皆様が御使い様であられますことをあまり示さないほうがよいかと存じますので、ここは恐縮ながら、商業街の魔法店店主殿のために職業訓練の皆様がいらしたという形ではいかがでしょうか。宮中司書も店主殿が魔法法律家であられることは承知をしておりますので、禁書につきましては目録がご覧頂けます。こちらは王である私が同席、または許可をお出しすることでご覧を頂けますので、ご参考になさりたいものがございますときには、どうぞご遠慮なくお申し出くださいませ」

 国王の答えに、王妃が続く。

「店主殿から王宮へと頂戴いたしました報告書から、皆様が魔法店の職業訓練を装われます可能性を示唆頂いております。それから、姫。あなたは明日、皆様に真竜の姿をお見せするのですよ。それまでに王、そして騎士団長に心構えや様々なことをうかがっておきなさい。あなたの警護のものたちにもこの会談が終わりましたら招集をかけますので」

 王妃の言葉に、姫は姿勢を正してうなずく。

 そして、宮中医師に向かってこのように伝えたのだった。

「了承いたしました、王妃様。では、宮中医師、斑雪はだれ殿。わたくしの分まで皆様をご案内してさしあげて」

 姫君のその言葉に、宮中医師は緊張した様子で回答する。

「はい、命に代えましても」


「それはいささか大げさではなかろうか」

「ですねえ」

 これには、ガウガウは笑い、ネエネエも続く。

 国王はははと笑い、王妃と姫もまたふふ、と微笑んだ。


『なるほど、そのような……』

 なるほど、と感じていたものは、小部屋の内ではピイピイだけである。

 そして、ピイピイは珍しく念話で独りごちるのだった。

『あの薔薇の花弁は、今、宮中医師殿の服の隠しの中でしょうか』と。

 その独りごちる念話は、魔蜂蜜の瓶を持つネエネエからの確認で終了した。


「ピイピイ、魔蜂蜜はどうしますですねえ。蜂蜜にしますかですねえ」

「ありがとうございます、ネエネエ。それでは、魔蜂蜜を少し、干し葡萄の焼き菓子にお願いいできますか」

「はいですねえ」


「それでは、明日の朝に我々の滞在いたします離れにいらして頂きますのは、姫君と宮中医師殿と、記録をなさる文官殿でございますか」

 ネエネエがきれいに整えてくれた焼き菓子を食べ終え、ピイピイが聞く。


「いえ、宮中医師は先ほど宮中薬師の権限を一時的、しかもあのような形ではございますが得ることになりましたので、宮中医師が残します記録は公式の記録となります。我が国では高官二名、または高官同等の資格者二名の記録は宮中文官の記録と同等となりますので。ですから、姫と宮中医師とが離れにうかがわせて頂きます。それから、申し訳ございませぬが、姫の警護のものたちも同席をよろしいでしょうか」


『商業街のあの人たち、狼さんの獣人騎士さんたちですかねえ』

『恐らくは』『そうでしょう』

「構いませぬ、が、人数は少なくお願いいたしたい」

 これには、ガウガウがこう応じた。

「はい、そのように取り計らいます。王妃よ、すまぬが姫の警護のものたちの呼び出しを頼みたいのだが。私は、先に宮中薬師の謹慎事項について、騎士たちへの指示をしておきたいのでな。調薬道具は保管庫に預け、私が鍵の対処をいたすつもりだ。そして、宮中医師よ、宮中薬師の調薬材料は其方に預けるので、宮中薬師の謹慎中は自由に扱うとよい。鮮度が大切な薬草や魔草などもあろうからな。調薬道具は大丈夫であるのか?」

「ありがとうございます、私の部屋にございますもので足りてございます」

「うむ、それではこちらを頂いたら、そのようにいたそう」

「陛下、私も了承いたしました。姫もよろしいですね?」

「はい、了承いたしましてございます」


「そうですな、そのように」「はい」「ですねえ」


 姫君の言葉に、三人組もうなずきあう。


 どうやら、三人組と獣人王国国王たちとの密談用の小部屋でのこのやり取りは、順調に終了しそうな気配である。



※隠し……ポケットの古い表現です。

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