第16話 モフモフ三人組、王宮へ。
『紙の鳥は確かに宮中の国王陛下のところに向かっております。案内の方にいらして頂くまでには少しだけ時間がかかるかも知れませんから、その間に、お二人とも、こちらをどうぞ。先ほど荷物の確認をしましたときに、これを見付けましたので。さすがは、魔法店店主殿ですね』
『これは、
『なるほど、獣人は素足でも正装となるけれども、念のためにと店主殿が用意をしてくれていたのだな』
獣人や魔獣人、従魔たちは公の場において靴を履かずに素足であったとしても、蹄などに清浄魔法をかける、または足を清拭するなどを行えばそれは正装と同等となる。
魔法店の店主は、それでも、と万が一に備えておいてくれたのだろう。
ピイピイも先ほど背嚢を確認した際にその心遣いにはたいへん驚き、そして胸中で深く感謝をしたのであった。
『ええ、今のうちに履いておきましょう』
いそいそモフモフ。
三人組は、二本足を順に藁沓に入れていく。
そして、藁沓を履き、背嚢を背負い直して、できあがりである。
そうしていると、急ぎ足でこちらにやって来る人影があった。
「ようこそお出でくださいました、偉大なる三人の魔女様の御使い様方。宮中医師が皆様方をご案内に参りました」
紙の蝶を確認した国王陛下が獣人王国の宮中医師を使いにして、三人組を出迎えようとしてくれたのだろう。
『宮中医師である、という言葉に嘘はございませんね』
『宮中医師さん。宮中に常駐しているいちばんすごい医師さんですねえ。お姫様を診察している人なのかも知れないですねえ』
『そうだな。だが、姫君のご病状については国王陛下の前で聞くべきであろう。それにしても、この魔力からうかがえるのは我らへの、というよりは魔女様方への敬意であるな。素晴らしい』
三人組が魔力で確認をすると、嘘偽りや害意はなく、御使いであるモフモフ三人組へ、ひいては魔女様方への敬意を感じる。
当然ながら、三人組の正体を知っているため、ひじょうに丁寧な挨拶でもあった。
中肉中背、清潔感があり、温和な雰囲気の青年である。
『人族のようだな』『ですねえ』『ええ』
それ以上の名乗りがないことから、お互いの紹介は国王陛下の前で改めてということなのだろうと考えて、三人組はそのまま宮中医師についていく。
「恐縮ながら、留学中の王子殿下は不在でございます。獣人王国国王と王妃、それから騎士団長が皆様をお迎えをいたしまして、私もその末席に控えさせて頂きます」
魔女様の名代たる従魔三人、無事に到着をいたしました。
できましたらば、我々三人は国王陛下と姫君とにお目にかかれましたらと考えております。
無理を申してはおりますが、可能なかぎりのご配慮を頂けましたらと存じます。
三人組が相談をして、ネエネエが魔紙に記し、ピイピイが紙の鳥とした内容。
無理だとは思っていたが、国王は紙の鳥が届けた三人組の要望を聞き、できるかぎり少ない人数にしてくれたらしい。
騎士団長は警護のため、宮中医師は姫君の体調を伝えてくれるためであろう。
だが、肝心の姫君が不在とは。
「姫君はどうなされたか? 我々は何のために来たとお考えか」
この問いを放つガウガウは、にべもない。
そして、魔力にも、わざと緊張感を持たせる。
もちろん、ガウガウはこの宮中医師には怒りの感情などは持ってはいない。
むしろ、お役目ご苦労と思っている。
『お姫様がいてくれないのはいけませんねえ。宮中医師さんのせいではないですがねえ』
『ええ、そうですとも。もしも、ガウガウが怒りを持っておりましたら、このような問いかけではございませんね』
『ですねえ』
ネエネエもピイピイも、ガウガウの意図を理解しているため、念話で無言のやり取りをしている。
姫君の呪いを解くこと。これが紙の蝶の手紙が魔女様方に届けられた第一の理由であり、願いであるというのに。
三人組を遣わされた魔女様方のご威光に影響するならばと、心の中でモフモフと団結をする三人組なのである。
「その件につきましては、誠に申し訳ございません。理由は、陛下が直接皆様にお伝え申し上げますので、どうか、共にいらしては頂けないでしょうか」
宮中医師は、これでもかというくらいに深々と頭を下げる。
「そういうことでしたら。こちらも、唐突に失礼をいたしました」
「よろしくお願いします」「ご案内ねがいますねえ」
『仕方あるまい』『ええ』『宮中医師さん、お疲れさまですねえ』
ガウガウが、魔力を平らなものにする。
それに続くかのように残る二人が軽くうなずくのを見て、宮中医師は明らかにほっとしていた。
「いえ、御使い様を派遣頂くという偉大なる魔女様方のお心遣いに対しまして、失礼をいたしておりますことは事実にございます。そして、御使い様方のご厚情、誠にありがとうございます」
再び頭を下げた宮中医師は少しの時を経てから姿勢を戻し、どうぞこちらに、と壁際の細い通路を指し示した。
「こちらは、密談用の小部屋への通路でございます。ここは、代々の宮中医師用の通路です。私にお続きくださいませ」
『要職のみに代々伝わる隠し通路ですか。王族殿はもちろん、騎士団長用、宮中薬師用などがまだまだありそうですね』
『そうですねえ。確か、王族殿は王様と王妃様とお姫様と、王子様でしたねえ。王子様は遠くの国に留学中ですからお目にかかるのは難しいですねえ』
『……そうだな。そして、この宮中医師殿の前ではこの念話の密談は有効だな』
三人組が内々だけで話す念話での会話。それを聞くことができるのは相当な魔力の持ち主である。
さすがの三人組は、王族の名前、人数、そして宮中の主だった人物たちの役職などは把握している。
ちなみに、三人組の念話が聞こえているのに聞こえないふりをしていたとしても、モフモフ三人組は魔力の揺れでそれを見抜くことができるのだ。
『もしかしましたら、何かのときにはこの通路を使いなさいということですかねえ』
『そうだな、ネエネエは鋭いな』
『ええ。では、風の向きなども把握しておきますね』
「それにしましても、素晴らしい魔絹糸のお召し物と背嚢であらせられます。そして、靴をお履きくださいましたことにも、ご配慮を誠にありがとうございます」
三人組が色々と打ち合わせながら付いていくと、宮中医師は笑顔で振り返った。
『ほう。見るべきところを見ているな』
『ええ』
『はいですねえ、藁沓、いい感じですねえ。馬の獣人さんは蹄の
やはり、宮中医師へのガウガウからの評価はなかなかに高い。
それでは、とばかりにガウガウはたずねる。
「うむ、こちらこそ、そのように言ってもらえると嬉しいものだ。ところで宮中医師殿、お褒め頂いたこの我々三人の背嚢には姫君のご病状をお治しするための様々なものが入っているのだ。背に置いたままでよいだろうか」
「どうぞ、そのままでいらしてください。そして、皆様方、よろしいでしょうか」
「うむ」「ええ」「ですねえ」
密談用の小部屋までは、あと数歩。
獣人王国の国王陛下は、モフモフ三人組をどのように迎えられるのであろうか。
※藁沓……藁で編まれた靴のことです。
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