第15話 モフモフ三人組、王宮へ?
三人組は、モフモフトコトコ。
国境詰め所で国境通過証となる札を渡してもらったので、昼食を取ることができる場所を探して歩いていたのだ。
すると、もう少しで街に、という辺りで広い平原を見つけた三人組。
背中の背嚢をおろして、保存食ながら焼き菓子などもある充実した昼食を取り、魔牛乳の瓶をみんなでごくごくと飲む。
そのあとは、昼のモフモフ体操をして、最後に荷物を確認する。
王宮に向かう前に、それぞれの背嚢の中身をもう一度きちんと把握しておくためだ。
「はい、確認できました。お二人とも、こちらを」
「ピイピイ、外套をありがとうですねえ。ネエネエもお荷物、大丈夫ですねえ」
「うむ、こちらも。必要なものは即座に出すことができそうだ」
荷物確認を終えて、ピイピイが背嚢から取り出したのは、ネエネエが編んだ魔絹糸の外套。
黒、白、青。それぞれの色の外套を着て、背嚢をもう一度背負ったら、準備完了である。
あとは、速さを少しだけ抑えた飛行用箒で飛んで、飛んで。
そうして、まだ昼の太陽が輝いているうちに三人組が着いたところ。
それは、獣人王国の王宮門である。
獣人王国の王宮は、堅牢な城壁に囲まれていて、石造りの門もどっしりとしていた。
ところどころに細かな魔石が混入されていて、三人組は、そこはかとない魔力を感じている。
『ついに、獣人王国の王宮さんに来ましたですねえ。これはいい城壁ですねえ。ネエネエがどすん、としても壊れなさそうですねえ。魔力を込めたらどうですかねえ』
『ネエネエ、それは城壁がかわいそうだからやめなさい。まあ、冗談ではあろうが。ふむ、門に秘かに仕込まれている魔石も、なかなかのものだな』
『ええ、城壁、城門、どちらの色彩も落ち着いていて、それでいてその造形は、外敵が身を潜める場所を作らせないようにしておりますね。これならば王宮にも期待をしたいですよ。時間ができましたら、空から全体を眺めたいですね』
『それはいいですねえ』『心が躍るな』
実際、これは世話になったあの魔法店の煉瓦のようなもので、王宮にはここ以上の魔石による防御がされているのだろう。
『外敵にはそうとうに強い印象だ。逆に、中からの攻撃に対しては脆弱性を否定できまいが』
『ガウガウらしい分析ですね、素晴らしいです』
『ですねえ』
なんとも言えないモフモフ三人組らしい感心の仕方をしていると、門番に声をかけられた。
「こんにちは。熱心に見てくれていますね。モフモフな皆さんは、王宮見学をご希望なのかな?」
獣人国の王宮の門を守る、屈強な
こちらは国境詰め所の騎士とは違い、簡易騎士服ではなく、正式な騎士服を着用していた。
正式な騎士服は簡易騎士服よりも濃い赤の色で、履き物は人型獣人や人族の騎士用の
国境詰め所で対応をしてくれた騎士は人型の穴熊獣人で、声が大きくて明朗だった。
そして、こちらの犀の獣人騎士にはかなりの迫力があるが、気さくで、観光客、しかも子どもの魔獣人に見えるであろうモフモフ三人組への対応も丁寧であった。
ガウガウは既に箒を収納済みなので、荷物は背中の背嚢だけである。
よって、三人組の姿は高級そうな揃いの外套と使いやすそうなやはり揃いの背嚢を背負った、まさに、お揃いのなかよしモフモフたちにしか見えないのだ。
祖国である獣人王国を誇りに思う門の番人、犀の獣人騎士。
彼は、城壁や城門を観察する外の国、恐らくは魔獣人国から観光客として来てくれた子どもたちの熱心さが嬉しかったのである。
『どうする?』
『そうですね』
『……見学、楽しそうですがねえ』
三人組がどうしようかと念話で会話をする間にも、獣人族はもちろん、それ以外の種族も粛々と見学者用の通路に入っていく。
無事に着いたからには、早めに国王陛下に連絡をし、会談を申し込むべきなのだが、この流れで「国王陛下からのいつお越し頂いてもという
この約定は、あの紙の蝶に実際に書かれていたことだ。よって、三人組が持つそれぞれの主である魔女様方からの紹介状にはその旨が明確に記されている。
だが、魔女様方はもちろん、三人組も派手な歓待などは御免こうむる。
だからこそ、魔法法律家の立場から書状を直接王宮に送ることが可能な魔法店の店主も配慮をしてくれていて、先触れを出してはいないのだ。
それに、見た目からすれば、ほかの国から王宮見学に来たなかよしモフモフ三人組にしか見えない三人組。
そのほんとうの素性を伝えてしまうと、この真面目そうな獣人騎士は上役に叱られるかも知れない。
偉大なる魔女様方の名代と看破するのは難しいモフモフ三人組であるのだから、それはかわいそうだ。
「どうしますか。お子さん向けの解説者をつけることもできますよ。もちろん、無料です。我が国は、お城を見学したいと思ってくれるお子さんからお金を取るようなことはしませんからね、安心してください。ああ、そうだ。国境でお渡しした札だけ、よろしいかな。おや、商業街方面の国境だね。遠いところからだ! はい、ありがとうございました」
先ほど国境で渡された札を見せると、屈強な獣人騎士はにこりとした。
確かに、遠いと言えば遠い距離なのだが、ネエネエたちはかなりの速さで着いていることをこの獣人騎士は知らない。
『……真面目で、親切ですねえ』
『観光国としても素晴らしい姿勢だな。称賛に値する』
『立派ですね。先ほどの国境詰め所の人型獣人騎士殿の対応もよいものでしたし』
三人組は、皆それぞれの主たる魔女様からの紹介状を持っているのでそれを出したら
どうしようかと思い始めた三人組。
『何か、ないですかねえ』
よっこいモフモフ。背中の背嚢をおろして、中を探るネエネエ。
すると、まさに今、というものが羊蹄に触れた。
『ガウガウ、ピイピイ、これですねえ』
ネエネエの希望の品は、一枚の魔紙だった。魔法店の店主の署名入りである。
『さすがは店主殿だ』
『なんと、これは素晴らしい。国境以降にも配慮をしてくれたのか』
『ですねえ。ピイピイ、お願いしますですねえ』
『畏まりました』
「門番をされています獣人騎士様、我々は商業街の魔法店の職場体験者なのです。こちらの王宮でのお使いの品をお持ちいたしました」
ピイピイが丁寧に礼をして、羽で器用に挟んだ魔法店の店主からの書状を見せる。
すると、獣人騎士はいかつい顔を破顔させた。
「これはこれは、若いのに職場体験とは偉いお子さんたちだねえ。たいへんに失礼をしました。待っていてくださいね。今、代わりの門番と交代しますから」
すぐに対応をしてくれていている。やはり、親切だ。
ネエネエが見つけたのは、魔法店店主からの紹介状。
『ネエネエたち、お子さんなのですねえ』
『小魔熊扱い。やはり、楽しいものだな』
『お子さま魔獣三人組で、ですからね』
犀の獣人騎士に案内してもらい、どうぞ、と商用の正式な別門から中に入れてもらった三人。
「ここの
柱に付いている釦は、恐らくは音声の魔道具につながっているのだろう。
「分かりましたですねえ。ありがとうございますですねえ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「どういたしまして、頑張ってください」
親切な犀の獣人騎士の姿が見えなくなると、三人組は相談を始めた。
『その内容に異存はない。よいと思う』
『では、ネエネエ。魔紙の準備をお願いいたします』
『分かりましたですねえ』
教えられた釦を押す代わりに、ネエネエはもう一度背嚢を探り、魔紙と鉛の筆を取り出す。
『書き書きですねえ』
羊蹄を用いて、さらさらモフモフ。ネエネエは達筆だ。
『ガウガウ、確認してくださいですねえ』
『みごとな字画だな。文章も精緻だ』
『ありがとうですねえ。では、ピイピイ、お願いしますですねえ』
『はい、承りました』
ピイピイが魔力で魔紙に折り筋を付けていく。
やがて、それは紙の鳥となった。
『鳥になりました。ネエネエ、お願いいたします』
『はいですねえ、紙の鳥さん、いってらっしゃいですねえ』
ピイピイから紙の鳥を預かり、ネエネエがそれを飛ばす。
『……さて、これからだな。まあ、二人がいてくれるから、さほど心配してはいないが』
ガウガウは、嘆息した。
『ですねえ』『はい』
三人組の視線を集めながら、王宮の中枢へと飛ぶ、紙の鳥。
それは、偉大なる魔女様方の名代の到着を知らせる、紙の
※深靴……ブーツのことです。
※約定……何かをする約束を取り決めること、また、その取り決めのことです。
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