第12話 魔羊ネエネエと出発の手前。
「ネエネエ様、ガウガウ様、ピイピイ様。皆様の任務のご成功を祈っております」
「皆様、当宿のご利用を誠にありがとうございました。お出かけの前に、どうぞ、こちらをお納めくださいませ」
モフモフ三人組の魔法店の特別宿泊室へのお泊まりは、合計で四泊となった。
今は、四泊が明けた五日目の朝である。
ガウガウが二泊目に想定していた出発予定、明後日かその次、が的中した形となった。
一泊目、騒動もあったが、休むを頑張った三人組。
一泊目が明けた二日目の朝には、魔女様方へのご報告。そのあと、ネエネエは編みものに励み、ピイピイの分の外套を編み上げている。これは、ネエネエの楽しみでもあるので休みとして認められた。
二日目の昼にはモフモフ三人組で商業街に出て市を楽しみ、新たな出会いや使用済みの魔法陣の入手などがあった。
宿に戻ると、ちょっとした騒動がかなりの騒動であったことが判明したが、ネエネエの編みもの、ガウガウの分の外套は完成し、さらに、ネエネエは自分の分の外套にも着手することができた。
そして、二泊目が明けた三日目。
ガウガウとピイピイは市に出かけ、ネエネエは自分の外套を編み上げた。
店主は、編みものを終えたネエネエからの多少の助言もあり、使用済みの魔法陣の再構築に無事に成功。
三泊目となる深夜から翌日四日目の早朝にかけて魔法陣の発動を行い、みごとに成功させていた。
四日目は、獣人王国への三人組での出発に向けての準備と休養日となった。
三人組は、きちんと準備を整え、モフモフゆっくりも楽しんだ。
もちろん、朝のモフモフ体操から始まり、朝食、準備、昼食、お散歩と準備、お菓子とお茶、お風呂、入浴、夕食、夜のお茶、準備。そして、寝台でのモフモフおしゃべりからの睡眠。
そんなこんなで、充実した四泊目が明けた本日、五日目。
もちろん、朝のモフモフ体操も、新鮮な魔牛乳から始まる朝食も、きちんと済ませてからの出発である。
揃って見送りをしてくれているのは、魔法店店主とその優秀な部下、特別宿泊室担当者。
二人はネエネエたちの今回の任務についてを魔女様方から知らされている数少ない存在。そして、モフモフ三人組の頼れる協力者でもある。
そんな店主は、今日は魔法店を臨時の定休日にしたという。
「ほかの店員には魔法店以外の用事をしてもらう日といたしました。遠方からの買い付けのお客様用の宿泊施設がございまして、工房長と新人店員はそちらにおります。工房長には、念のために、明日もう一度医師と魔法医師の診察を受けて頂きます。そこで大丈夫ということでしたら、魔馬車をきちんと予約しましてから、獣人王国に向かってもらいます」
店主の説明を受けて、特別宿泊室担当者が続けて説明を行う。
「皆様のことは、工房長の認識ではたまたまお買いものにいらしていたひじょうにお強い従魔様たちというものでございます。獣人王国の王宮には、魔法法律家たる店主が経緯をまとめました報告書の内容を魔女様方が精査の上できちんとお伝えくださるそうですので、騎士団やギルドにも通達が参りましょう。どうかご安心ください」
謎の連中に操られ、無実の罪で捕縛されかねなかった工房長。
無事に獣人王国に戻れるならば、本人も安心だろう。むしろ、もしも、この魔法店で捕縛してもらえていなかったらという想像をすると、その恐ろしさに震える思いかも知れない。
「とりあえずは、それがよいでしょう。とにかく、早いうちに工房長のご家族にも無事を伝えられたのがよかった。ありがとうございます」
三人組を代表して、ガウガウが感謝を伝える。
「そして、こちらを。店主が偉大なる魔女様からご依頼頂きました薬の材料、調薬道具、本、そのほかでございます。もちろん、この白の
特別宿泊室担当者が差し出したのは、上質な魔布でできた背嚢である。
白、黒、青の大、中、小。
布の高級さはもちろん、背負うための肩紐に付けられた調整用の金具までもが、見るものが見れば分かる特別なものだ。
「ありがとうございます。これはこれは……」
ピイピイが驚き、青い羽を少し広げてみせた。
もともと、三人組はそれぞれの魔女様から頂いた品々をたくさん持参している。それをさらに、ということだ。
もちろん、三人組自身もこの四泊の間に商業街や市、それにこちらの魔法店で色々と買い足をしている。
「道具などのお代金はすべて頂戴してございます。そして、こちらの大きい白の背嚢はガウガウ様の、やや小さい黒の背嚢はネエネエ様の、そして小さめの青い背嚢はピイピイ様の分でございます」
「支払い済みですかねえ。ネエネエたち、店主さんおすすめのおいしいご飯のお店のお代のお支払いと、商業街と市とこの魔法店でのお買い物のお金しかお代を払ってないですねえ。いいのですかねえ?」
ネエネエの疑問に、笑顔で応じた店主。
だが、その疑問には答えずに背嚢の中身の説明を始める。
「ネエネエ様の黒い背嚢には魔法陣用の魔紙、インキ、筆と羽のペンと
店主が一礼し、特別宿泊室担当者がそれに続く。
「ピイピイ様の青い背嚢には、魔女様方からのご依頼のございました皆様のお洋服が入っております。すべてをかぶる、または羽織る形のものにしてございます。もちろん、お色は黒、白、青。皆様のお色でございます」
「……素晴らしいですね」
自分宛の背嚢を覗いたピイピイは、ひたすらに驚いている。
確かに、小さな青い背嚢の中には、動きやすく、それでいて魔法陣などが細かに組み込まれた黒、白、青の洋服たちが何組も収納されていた。
背嚢じたいの収納の力もそうではあるが、服にも魔法付与なども完璧なのだろう。
この小さな背嚢の中によくぞこれほど、という量である。
「こちらの三色の背嚢は雪原の魔女様から皆様へのお詫びの品々と仰せつかってございます。使用前に皆様の魔力を通わせて頂きましたら、皆様以外のものはこちらの背嚢と荷物には許可なく触れることができなくなります。もちろん、皆様同士にはなんの問題もございません」
『雪原の魔女様……すごいですねえ』
『そうですね。ならば、今までの荷物も入れされて頂きましょうか。ですが、この魔道具と中の品々の価値は……』
『うむ。詫びの品という額では……ないだろう。大金貨何枚分だろうか。我が主ながら、すごいお方だ……』
『ネエネエの魔蜂蜜と蜂蜜の瓶全部と、白葡萄酒の瓶も、きっと入りますですねえ』
驚きのモフモフ三人組は、念話で会話をしていた。すごいものを頂いたという感謝の気持ちでいっぱいである。
だが、見送りの前に渡される品には、まだ続きがあるようだった。
「そして、こちらは私どもからの気持ちにございます。ご昼食と数日分の飲料ならびに軽食にございますが、ご確認頂きまして、何か不足がございますときには追加をお申し出ください」
「そのあとに、雪原の魔女様からのもう一つのお品をお受け取りください」
特別宿泊室担当者はにこにことしながら魔紙で作られた袋を三人に渡そうとしている。
だが、三人組は、店主の言葉に驚きを隠せずにいた。
店主は、言った。そう、もう一つ、と。
『ネエ……?』『ガウ……だな』『ピイ……でございますね』
モフモフびっくり。
さらに、もう一つ……? となってしまう三人組。
思わず出てしまったのは、合言葉だった。
※小刀……ナイフのことです。
※背嚢……リュックサックのことです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます