第11話 魔羊ネエネエとお話のあとに。
編み編みモフモフ。ネエネエは軽快に編みものを進めていた。
ネエネエと特別宿泊室担当者のいる別室の窓からは、あたたかな日差しがそそがれている。
『おひさま、ぬくぬくをありがとうですねえ』
太陽にお礼を言うために、編みものの手を休めていたネエネエ。
すると、そのモフモフ魔羊毛の中に収納されていた鍵から、ガウガウの声が聞こえてきた。
『ネエネエ、話し合いが無事に終わったよ。店主殿は夕食の準備ののちに魔法陣の再構築を開始してくれるそうだ。ありがたいね』
『そうですね。そして、すみません、ネエネエ。わたしたちは少しだけ寝室で休んでいてもよろしいでしょうか』
通信の魔道具、鍵を通じてガウガウとピイピイが連絡をしてくれたのだ。
『お話お疲れさまですねえ。もちろんお休み、どうぞですねえ。ネエネエは、もう少し編みますですねえ。編みもの、楽しいのですねえ』
『ありがとう』『すみません』
ガウガウとピイピイは寝室で休憩を取りたいという。
ゆっくり休んでくださいですねえ、とネエネエは思う。
『色々なことをお話したのですねえ』
鍵を通じて聞こえた二人の声は、ネエネエにそう感じさせるのには十分だった。
店主については、充実した忙しさを好む気質なので、きっと、これでいいのだ。
『ネエネエと一緒ですねえ』
ネエネエは、そんなふうに看破をしていた。
『お話はうまく終わったみたいですねえ。店主さんは忙しくなりましたですねえ。だから、特別宿泊室の担当者さんも、どうぞお仕事に戻ってくださいですねえ。手押し車に飲みもの食べもの、お菓子もたくさんですからねえ。それに、店主さんのお手伝いは、担当者さんが一番おできになりますですねえ』
だからこそ、頼れる助手を送ろうと気遣うネエネエなのである。
当然ながら、客室担当者は遠慮をする。
「お客様からお心遣いを頂戴しますとは……」
『いえいえですねえ。それでは、お茶のお代わりだけ用意していってくださいですねえ』
「承りましてございます」
そんなネエネエの心配り。
そのおかげで、店主はこのあと、夕食の準備を終えたあと、想定よりも早くに魔法陣の再構築を開始することができたのである。
宿泊担当者も、ある意味ではネエネエと同様だ。
主と上司という違いはあるが、自分の上に立つものを敬うもの同士。
『頑張れですねえ』
秘かに、特別宿泊室担当者のことも応援するネエネエだった。
魔法店については、一般の店員でも十分に対応ができているので心配はない。
特に、昨日の強引なお客と思われた人物が実は犯罪の被害者と知らされた新人店員などは、たいへんに真面目な勤務態度を見せているらしい。
店の受付はもちろん、工房長の体調回復の手助けなどを積極的に行い、かなりの働きぶりだという。
『ではでは、ですねえ』
いざ、とばかりに、さらに編み編みモフモフとなるネエネエ。
『できましたですねえ!』
そして、まだまだ市も賑やかな、日暮れの時間帯となった頃。
ネエネエは、みごとにガウガウの外套を編み上げたのである。
トコトコモフモフ。
『扉こんこん、ですねえ。失礼しますですねえ』
ネエネエは別室を出て、少しだけ移動をし、寝室の扉を羊蹄で叩いてから入室をした。
「ネエネエ、あなたでしたら扉を叩いて頂く必要などはございませんのに。丁寧ですね」
ピイピイは、笑顔でネエネエを出迎えた。
『ガウガウの分の外套が編み上がりましたですねえ。二人が大丈夫でしたら、夕食の前に、皆でお風呂に入りたいですねえ』
「ありがとう、ネエネエ。それは良い案だね。ところで、ネエネエは明日も編みものをするのかな。ならば、明日の昼間は我とピイピイで市にでかけようかと思うのだが」
ガウガウも寝台からおりて、外套を受け取り、ネエネエにお礼を伝えた。
軽く羽織るだけでもネエネエの技術の高さが分かる、素晴らしい外套である。
『ガウガウ、似合いますですねえ! 編みもの、楽しかったですねえ。そうですねえ、明日も編みたいですねえ。お風呂に入りまして、夕食を頂きましたら、ネエネエの分の外套を編み始めますねえ。そして、できましたら明日の昼間は店主さんと魔法陣のご相談をしたいですねえ。それから、このお宿を出る準備をしたらよいですかねえ』
「魔法陣の再構築と竜の少女たちの行き先の確認をして頂いてからのほうがよいとは思いますが、獣人王国の皆さんはわたしたちが予定よりも早く着きましたら喜んでくださるでしょうね」
『ですねえ。とりあえず、お風呂のあとにお夕食をお願いしますですねえと店主さんに言いましたら、そのあたりのお話もできますかねえ』
「そうだな。では、当初の予定からは日数が増えてしまうが、明日から出発の準備を始めて、出発予定は明後日かその次の日にしてはどうだろう」
「よいと思われます。むしろ、きちんと準備ができますから、そのほうがよろしいですよ」『ですねえ』
そして、三人組でまたまた楽しいお風呂の時間。
もちろん、ガウガウは丁重に外套を収納している。
浴室には、浴槽に浮かべるための生花の花びらも用意されていた。
ネエネエとピイピイは香りも一緒に楽しむことができて、ご満悦だ。
そして、今日はガウガウも少しだけお湯のお風呂も楽しんだ。仕上げはもちろん、ガウガウ専用の冷え冷え風呂。
そのあとは、店主特製のおいしい夕食である。鍵で頼んだら、あっという間。あいかわらず、仕事が早い。
『今日は、茸とお野菜と大きな海老さんがたくさんの、魔牛乳鍋さんですねえ、いいですねえ!』
『それに、魔牛のチーズを溶かしたものに鉄の串にさしたパンや野菜などを付けて楽しむこの鍋も、最高だな。チーズからは白葡萄酒の香りがするよ』
『こちらは、ネエネエが褒めたあの白葡萄酒ではありませんか? 優しいお味ですね』
『念話はもぐもぐしながらお話ができて、便利ですねえ。ガウガウ、ピイピイ、昼間のお話も聞かせてほしいですねえ』
『ああ、もちろん』『了解です』
ネエネエは、昼間の話し合いの内容をふむふむモフモフと聞きながらの夕食を楽しんだ。
そして、工房長が善良な職人であったことを聞き、『ネエネエが出したあの縄は痛くなかったですかねえ……ああ、よかったですねえ。店主さん、手加減をしたのですねえ』と安堵し、工房長を操ったまだ見えぬ悪しき存在には『ばちこーん! してあげたいですねえ』と羊蹄を振り、相対した際には、怒りのモフモフとなることを決意したのである。
『ネエネエのばちこーん! は……』
『さぞかし、効くことでしょうね』
ガウガウとピイピイも、笑顔だった。
実は、二人とも、店主との話し合いの間、ネエネエが怒りを覚えたところで、同じような気持ちになったのだ。
ガウガウは、『いかなるものをぶつけるべきか』ピイピイは、『どのような魔法を飛ばしましょうか』と。
二人もまた、そんなふうに考えていたのである。
やはり、似たものモフモフな、なかよし三人組なのである。
そして、夕食はとてもおいしく、楽しかった。
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