第9話 魔羊ネエネエとお昼ごはん。

『先ほどの一団については鍵で魔法店の店主殿に伝えておいて、宿に戻ったのちに魔石と使用済みの魔法陣についても相談をするとしようか』

『そうですね。あとは、昨日の魔法店への来店者の件ですね。箒や魔石、ほかにも色々。こちらに伝えてもらえる情報がありましたら、教えて頂きましょう』

『ですねえ』


 竜の少女との慌ただしい出会いと別れのあと。

 モフモフ三人組は、安全な店内でまずはあたたかいお茶を頼み、念話でひとしきり語り合う。

 上質な魔草のお茶には干した柑橘類が浮かべられていて、味もさることながら、見た目も美しい。


『おいしいお茶ですねえ。この干した蜜柑みかんもいいですねえ。こちらのお店のあとに、もう少しだけ市を見て、それからお部屋に戻りましょうねえ。店主さんとのお話は二人にお任せして、ネエネエは、ガウガウの外套をモフモフと編んでいてもいいですかねえ。もちろん、二人がよければですがねえ』

馥郁ふくいくとした香りの、素晴らしいお茶だな。この干した柑橘類も、とてもいい。うむ、ネエネエ、むしろ、そうしてもらえたら助かるよ。特別宿泊室の中で相談をすればよいだろう。ネエネエも別室にいてもらって、もしものときには念話でネエネエを呼び出させてもらう。店主殿の前ならば転移魔法を用いても大丈夫だろうし。とりあえず、今のところはこれでよいのではないかな』

『よいと思いますよ。ところで、わたしもですが、二人も先ほどのやり取りで疲弊をしましたでしょう? まずは、こちらで昼食を取りましょう。魚を煮込み、焼き、蒸す。わたしたちが望む調理方法すべてでご用意頂けるようですし。このお茶もとてもよいお味ですから、食事にも期待をしたいですね』


『ガウガウ、ピイピイ、そうしてくださいですねえ。ネエネエ、二人に呼ばれたら跳ぶか走るかしますからねえ。それにしましても、お魚料理、楽しみですねえ』

『よし。では、ピイピイ、我らは宿で話し合いを持てたときには、ネエネエが魔蚕の魔絹編みに集中できるようにいたそう。そして、こちらの料理。調理方法も多岐に渡り……。さすがは魔法店の店長殿のお墨付きだな』

『ええ、そのとおりですね、了解しました。それでは、さっそく食事をお願いをいたしましょう』


 話がまとまり、ピイピイがこの店の昼の料理の献立表を確認する。

 ガウガウは、卓上の鈴を鳴らして三人分の料理を頼んだ。

 卓上の鈴は、鈴型の魔道具である。

 それを鳴らすと、店長が扉を軽く叩き、礼をした。


『なるほどですねえ』『うむ』『はい』

 店長に注文を伝え、料理が来るまでの時間は、昨日話し足りなかったお互いが学んだ獣人王国の情報を共有し合う。

 もちろん、モフモフ三人組。魔法で防音を深めることを忘れてはいない。


『お料理も、すごいですねえ』

 そして、供された昼食。

 モフモフ三人組がたいへんに期待をしていた魚料理は、それぞれの希望のとおりのものであった。

 さすがと言うべきか、この商業街に近い清流で今朝採れたばかりの川魚を氷の魔石で包み、丁寧に届けられたものを使っていた。


『うむ。滋味じみが全身に染み渡るな』

 ガウガウが頼んだ焼き魚は、鱗を丁寧に落とされ、ぱりぱりとした焼き加減と塩の加減が絶妙。ともに提供されたにんにく牛酪ぎゅうらくを合わせたものを塗り、きれいに焼かれたパンとともに心から楽しんだ。


『これは……。一声、失礼いたしますね』

 ピイピイが求めた蒸し料理は、魚もさることながら、添えられた香草の香りがたいへんに爽やかで、一口食べて思わず一節歌ってしまったほどだ。

 清浄魔法をかけているとはいえ、ここは店内なので、ピイピイは卓上にのるようなことはしなかった。

 魚の身を切るのも、その身を香草とともに食すのも、すべて魔法で行う。ピイピイの無詠唱の動作はその声のように美しい。


『モフモフが高まりますねえ』

 ネエネエが希望した煮込み料理も、白葡萄酒で丁寧に煮込まれ、川魚はほろほろと口でとけるかのようである。

 おいしさのあまり、魔羊毛がもふん、とするほどの味。


「店長さん、このお料理に使われましたお酒はどちらの白葡萄酒ですかねえ」

 ネエネエが、これは確認しなければですねえ、とばかりにお茶のお代わりを入れに来てくれた店長に生産地の確認をしたほどである。


 このように、それぞれの好みの魚料理を堪能し、モフモフ三人組はたいへんに満足していた。


『……素晴らしいな。そうだ、食後のお菓子を頂く前に、魔法店の店主殿に連絡をしておこうか』

『お願いします』『ですねえ』


 ガウガウが、自分の分の鍵を介して、魔法店の店主に連絡をする。

 まずは、この店を紹介してくれたお礼と、充実した昼食を頂けたことを。

 そのあとで、宿に戻ったあと、本日中ならばいつでもかまわないので市であったことについて相談をしたいという要望を伝えた。


『ガウガウ様、皆様、かしこまりましてございます。どうぞそのまま食後のお茶などもお楽しみになってください。僭越ながら、そちらの店でございましたら、苺をふんだんに使いましたケーキは特におすすめでございます』

 無事に店主からの快諾を得たので、次は、と三人組は食後のお茶を頼むことにした。もちろん、苺のケーキも。


『苺さんがいち、にい、さん、しい、ご。五個もありましたですねえ。苺さんのケーキ、とてもおいしかったですねえ』

『ああ、苺が多く使われて、よい味だった』『はい。そして、クレームもとても素晴らしかったです』

 魔法店の店主に教えられたデザートは、大きくて甘い苺がたくさんのせられたケーキだった。

 にこにこ顔の三人組。

 最後に、新しく用意されたお茶を頂いて、 充実した昼食が終了した。


『ほんとうによい市ですねえ』『ああ』『ええ』

 店長に丁重に見送られて店を出たあとは、もう一度、市を回る。

 そして、道すがら、屋台でそれぞれの意中の品を選び、購入した。


 ガウガウは川魚を干したもの、ピイピイは砂漠の中で育つ珍しい植物の実、ネエネエは先ほどの煮込み料理に使われた白葡萄酒を。

 さすがに、モフモフ三人組が飲酒をしていたら咎められそうではあるが、酒類の購入のみであれば問題はないのである。

 最後に、三人組全員が嬉しい品、珍しい茶葉を手に入れて、ほくほくモフモフだ。


 そうして、またあの場所に戻り、鍵を使うと。


『お帰りなさいませ』

 三人組は、いつの間にか特別宿泊室の室内にいた。


 迎えたのは、魔法店の店主。


 これは確かに、まごう方なき本日中である。



※クレーム……クリームのことです。

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