第3話 魔羊ネエネエと素敵なお友達。
『ネエネエは地面さんを走りますから二人のほうが先かも知れないですねえ。待っていてくださいですねえ!』
森の魔女様とのしばしのお別れを惜しんだあとは、あっという間にいくつもの街を走り抜けたネエネエ。
実は、ネエネエも転移魔法を習得してはいる。 伝説級であられる三人の魔女様方の転移魔法の簡易版。簡易版とはいえ、それでも相当な魔法である。
だが、今回はさすがに距離が遠すぎるし、魔力を過剰に消費するのはよろしくはない。もしものときのために魔力は温存するべきだ。
道中には馬車用の道も多く、それは広めに整備された道なので走りやすい。魔羊が走ることを想定されてはいないだろうが、管理された魔獣が走ることは認められているので違反ではない。
『お仕事中の魔馬車さん、馬車さん、失礼しますですねえ』
たまに出会う魔馬や馬を刺激しないように注意を払いながら四つ足で走るネエネエは、速い。
まさに、魔力を込めた魔石の
そんなネエネエが数日でたどり着いた集合場所は、森と雪原と山の中間地点。大きめな商業街の一角にある、
魔石、薬草、
だからと言って大いに目立つ店舗ということもなく、どちらかと言えばひっそりとした店構えであった。
実際、普通に野菜や花の種などを求めて来店する一般のお客もいるほどだ。
『よっこらモフモフ、ですねえ』
商業街の門をくぐる少し手前で、ネエネエは速度を落とした。
急停止は難しい速さなのだが、そこはネエネエ。
モフモフの黒い魔羊がおつかいに来ましたよ、というふうに装ったのである。
『無事に商業街に着きましたですねえ。ガウガウは雪原の魔女様がつくられた飛行用の魔道具、
ネエネエは、目がとてもいい。
魔女様から頂いた
『ガウガウとピイピイですねえ、嬉しいですねえ!』
おつかいモフモフのふりをしているネエネエは、既に四つ足から二本の足での直立になっていて、手足には清浄魔法もかけていた。
スタタタモフモフがトコトコモフモフになり、さらに、うきうきモフモフにもなっている。
『ガウガウ! ピイピイ! こんにちはですねえ!』
ネエネエの大切なお友達、志を同じくする従魔仲間、ガウガウとピイピイ。
白いモフモフの愛くるしい小熊と青いモフモフの美しい小鳥。
そんな二人が立っていたのは、待ち合わせ場所の魔法店のすぐ近くだった。
魔力が込められた特別な
魔力を持つものたちが称賛する質の高い薬草や魔石を取り扱い、各国の冒険者、職人の組織たちからは買い取りと優れた判別を謳われ、魔女や魔法使い、魔術師たちだけではなく優秀な従魔にも深い敬意を払う、まさに優良店。
この魔法店はネエネエたちもお使いの常連である。
以前は、魔女様のお使いで三人が鉢合わせて、それがなかよし従魔たちへのお休みと休養の贈りものであると知り、びっくりモフモフモフの嬉しいお泊まり会で時を過ごしたこともあったほどだ。
そして、今回。
優秀なモフモフ三人組の
獣人王国が想定した日程よりも早いので、まだまだ余裕がある。魔女様方はそのあたりも把握済でいらしたのだ。
『『ネエネエ!』』
モフモフな黒い魔羊、ネエネエ。
フカフカな白い魔熊、小熊のガウガウ。
フワフワな青い魔鳥、小鳥のピイピイ。
魔法店の前では、モフモフでフカフカでフワフワな三人が揃って、楽しそうに仲よくわいわいと旧交を温めている。
その様子に、道行く人族も獣人も他の種族も、かわいらしいなあ、とにこにこ顔だ。
『ネエネエは相変わらず、すごい速さだね。見ていたよ、あの速度から急停止ができるのも、大したものだ。魔馬車と競争をしながらここまで来たのかい?』
『はいですねえ。馬車さんと一級魔馬車さん、さらに上の特級魔馬車さんにもネエネエが勝ちましたですねえ。もちろん、皆さんのお仕事の邪魔はしないようにしたですねえ。ガウガウは雪原の魔獣をたくさん討伐してますですかねえ』
『ああ。いつもどおり、雪原の魔女様に大きな雪玉を出して頂いて、たくさんぶつけているよ。ドカドカドカッとね。我は力の加減がうまくないから、魔女様に助けて頂きながら相当数を倒してきたんだ。魔女様のお力をお借りして、かなりの人数を倒してきたから、任務に専念できるよ』
白いモフモフの小熊は、ガウガウ。
黒のモフモフ、ネエネエと並ぶと白と黒の白黒フカフカモフモフ。その様子は周囲をたいへんに和ませる。
ただし、皆には聞こえない会話の内容はかなり激しめではあるが。
『ピイピイは、密猟者の討伐に勤しんでいましたですかねえ』
『ええ、そうです。もちろん、命までは奪ってはおりませんから、ご安心下さいね。親愛なるお二人よ』
『さすがだなあ。手加減が上手なんだね』
『ですねえ。立派ですねえ、ピイピイ』
ガウガウとネエネエは感心しきり。
小鳥のピイピイの声は、優雅で、例えるならば一流の歌い手の歌声のように美しい。
聞こえる声は、まるで、豊かな音楽のようだ。
かわいらしい外見の、三人組のモフモフ。
その声は、周囲にはネエネエ、ガウガウ、ピイピイというそれぞれの鳴き声に聞こえている。
和やかだったり、きれいであったりする鳴き声と、モフモフ。和みと癒しのその姿。
その実、三人組にしか聞こえない念話での会話は、過激なものではあったが。
『今日の予定は夜になるまでに獣人王国へ連絡をすることですねえ。そして、大事なことはお互いの魔女様へのご報告ですねえ。では、合言葉を言ってから、魔法店さんに向かおうですねえ』
『うむ』『ええ』
『合言葉は』『ネエ』『ガウ』『ピイ』!
モフモフ三人組は、改めて再会を喜び合う。
獣人王国が想定する依頼開始日からはまだ十日以上も残っていた。
あちらがネエネエたち優秀な従魔の代わりにと偉大なる魔女たちに人材や物資を届けてきたのは、あくまでも今回の依頼は魔女様側が上であることを示したにほかならない。
モフモフモフ。トコトコトコ。
ガウガウもピイピイもネエネエと同様、二本の足で器用に歩く。
そんな三人は、魔法店へと歩みを進めるのだった。
話したいことは山ほど。おみやげも、たくさん。
だが、まずはお互いの魔女様から頂いた貴重な情報の報告会からとなるのだろうか。
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