第五章

「夏休みにすまんな。ショウ」

 高速を走る車の中。父さんと祖父の家へ向かっていた。

「特にこれといって大事な予定もなかったし、大丈夫だよ」

「ショウ……」

「——父さん」なんだかすごく失礼な誤解をされている気がする。速やかに訂正しないと。この憐れみの表情が本当にうざい。生類憐みの令を出した徳川ですらここまでの表情はしていないだろう。「——帰ったら友達との予定はあるから」

「あ、ああ! もちろん、わかってるよ! そ、そうだよな。ああ!」

「……何がもちろん〜だよ。まったく……」

 溜め息ひとつと共に呟いた。


 ——そのまま車を走らせること数時間。ようやく祖父の家に到着した。

 如何にもな和の家といった印象だ。玄関はスライド式で、周りは田んぼや畑で囲まれている。

 裏手は山になっていて、普通に野生動物とご対面が叶いそうだ。

(あまり叶ってほしくは、ないな……。)

「よし、着いたぞショウ。悪いな、遅くなって」

「ううん、運転お疲れ様。渋滞ハマったもんね」

 車を降りる。誰かが近づいてくる。

「おう、ようやく着いたか」

「遅くなった、親父。渋滞に捕まっちゃって。参ったよ」

 父に親父と呼ばれた老人は仏頂面でふんと鼻を鳴らす。

「遅かったじゃないか。よく来たな、ショウ。まあ上がれ」

 促されるまま、車から荷物を降ろし、家へ上がる。

「————?」

 視界の端で、白い布がはためいた気がした——。


「もう墓には行ったんか」

 荷物を置き、僕と父さんが座布団へ腰を下ろすや否や、ポットに入った麦茶とコップを三つ運びながら、祖父は言う。

「いや、まだだよ。明日にでも行こうかなって」

 ありがとう、と受け取りながら父が答える。それを聞きながら麦茶を一口、飲み込んだ。冷たくて美味しいな。

「そうか。なら、挨拶してこい。きっと喜ぶだろう」

 言いながら祖父は奥へ消えていく。

「墓って、誰の?」

「ん? ああ、お前のひいじいちゃんだな。父さんのじいちゃんだ」

「へー」

 また一口、麦茶を飲み込む。

 どこかから、歌声が聞こえてる気がした。

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