第四章

——ショウ視点——

 衝撃だ。疑問符がいくつも浮かぶ。

「なんで、アカネさんも同じ夢を……。意味がわからない」

 もし本当に自意識だとしたら、なぜ他人が入り込むのか。それも文字通りだ。

「自意識だろうが、そうでなかろうが、そもそも、同じような夢を見るのが、おかしいだろう……」

 答えの出そうにない疑問が、際限なく溢れ出る。どれも同じ内容の疑問が。


 少し、と言うかかなり疲れを感じたので、今日は湯船に浸かることにした。

「温かい湯に浸かって、少し考えをまとめよう……」

 湯船に浸かりながら、ぼうっとする。

 思考が鮮明になるような、ぼやけていくような、よくわからない状態になる。微睡んでるな。寝たらダメだぞ。

「……自意識……」

 そもそも、自意識なんてあるのだろうか。それをもてる人間なんて、数えるくらいだろう。僕を含め、ほとんどが社会の歯車になる。自分を知らずに、人生を終えていく。

 人生って、そういうものだろう?

「何を言ってるんだ……僕は……。中二病か?」

 最後にシャワーを軽く浴びて、風呂を出た。


——アカネ視点——

 思っていたよりもスッキリしている。今となってはどうしてあんなにも気になってモヤモヤしていたのかすらわからない。

「彼には、悪いことをしたかもね……」

 でも、仕方ないと割り切ってもらおう。私もそうなのだ。


——ショウ視点——

 また、昨日と同じ夢だ。ああ。僕はイカれたのだろうか……。

「また、会ったわね。ご機嫌よう」

 何がご機嫌ようだ。僕はお前のせいで、全くご機嫌じゃない。

「お前は、僕の自意識か? なぜ昨日の夢を他人も見たんだ?」

 夢に問うなんて、本気でイカれたか。だが、こうでもしないと、モヤモヤは発散されない。

「あら、気づいたのね。早かった。ただの夢。でも、それは夢の中でのあなたの具現」

 何言ってんだこいつは。本当に意味が通っているのかも怪しい。

「であれば。どうしてその姿なんだ。僕の自意識なら、僕の姿をしてるもんじゃないのか?」

「そうね。どうしてかしら。あなたはそれを知ってるわ」

「? 何を言ってる」

「大丈夫。すぐに、わかるから」

 くそ。夢が覚める——。

「…………。なんなんだ……一体……」

 目覚ましを止めて、起き上がる。洗面台に向かい、顔を洗う。

「おはよう。父さん」

 挨拶をして、トーストを焼く。

 焼いたトーストにジャムを塗って、マヨネーズをかけたレタスを頬張る。炭酸水でそれらを流し込んで、制服に着替える。

「じゃあ、行ってきます」


 校門をくぐり、昇降口に向かう。階段を昇って、教室へ入る。

 HRが始まり、終わり、早速一限目の授業が始まる。疑問は絶えないが、昨日よりかは幾分か気分はマシだ。 

「(昨日のアレが効いたのか……?)」そんなことを思いながら授業を受けた。


——ミカ視点——

「今日は、昨日より元気そう。よかった……」

 相変わらず、私は遠くから彼を眺める事しかできない。でも、それが幸せなのかも知れない。彼に知られず、彼を知らないからこそ、ノイズなしで彼を眺めれて、それだけで幸せになれるのかも。そう。私は、これでいい……。


——ショウ視点——

 木漏れ日が揺れ、水面の反射がゆらゆらと美しく周りを照らしている。

 小沢の音と、葉の擦れる音。風が頬にあたる感覚に、どこか懐かしさを覚える。

 僕は、この場所を知っている——。

「——んん……」

 昼休み。微睡む意識をそのままに、眠りについていた意識が現実に戻ってくる。

 懐かしい夢を見ていた気がする。でも、その内容は思い出せない……。

「でも、どちらかというと、落ち着く夢だった気がする……」

 

 数日経ったが、あの夢を再度見ることはなかった。

 あの謎の焦燥感といえばいいのか、ドロッとしたモヤモヤは、なくなっていた。

 結局、あれはなんだったんだろう。もう答えが出る気もしないし、出そうとも思わない。変な出来事だった。それで終わらせてしまうのがいいだろう。


——ショウ父視点——

「もしもし——。うん。久しぶり。——え? ああ、確かに。もうずっと行ってなかったね。はは、うん。そうだね。そしたら、近いうちにでも、休みを取って行こうかな。——うん、うん。うん、じゃあね、また」


——ショウ視点——

「ショウ。おじいちゃん。覚えてるか?」

 夕食中。父が唐突にそんなことを言い始める。

「おじいちゃん? いたっけ……?」

「お前——、それはひどいぞ……」

 呆れた顔で父が言う。

 だが仕方がない。本当に記憶にないんだ。

「いや、本当に覚えてないんだよ。父さんから振られたことも特になかったし。僕も会ったことあるの?」

 言うと顎に手を添えて考え込む。

「確かに、お前はまだ小さかったな。覚えてないのも無理ないか……?」

「何歳くらい?」

「三、いや、ニ……?」

 無理だろう。その年齢の出来事を覚えておくのは……。

「おじいちゃんって、どこにいるの?」

「長野」

 いや知らん……。

「全く記憶にない。行ってくるの?」

 いい具合の味噌汁だ。今日のはよくできている。

「いや、ショウと一緒に行こうと思ったんだが」

「——は?」

 ——は?

 カラン、とコップの氷が奏でた。

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