第12話 予感

 意気揚々と食材を手に入れ、家路を急ぐ。

 帰宅すると、早速料理の支度にとりかかる。

 

 鉄のフライパンに油を垂らし、ニンニクとスライスしたリンゴを投入する。するとたちまち、食欲をそそる香ばしい匂いが部屋中に広がった。焦げ目がつくまで火を通したら、今度は牛肉を投入する。ジュージューと音を立てて、肉が焼けていく。

 

 表面に焦げ目がついたら一旦取り出し、予熱で火を通す。それからもう一度強火にかけ、香ばしく仕上げる。フライパンに残った油で、葡萄酒と塩、胡椒を加えてソースを作れば、メインディッシュの完成だ。

 

 皿にリンゴとニンニクを敷き、切り分けた肉を盛り付ける。サラダを添え、パンを並べて、テーブルに料理を運ぶ。

 

「おおお。ライアス! すごいな! こりゃぁ美味そうだ」

 

 父親が目を輝かせ、ナイフとフォークを構える。

 

「ライアス兄さん、依頼達成お疲れ様」

 

 バロンも笑顔で父親とおなじ行為をする。さすが親子だな。

 

「で、今回の任務はどうだったんだ?」


 ご機嫌な父親が肉を頬張りながら言う。

 

「めずらしいな、父さんが報酬額以外のことで興味を持つなんて」

「ちっ。なんだよ、俺だって息子の事に興味を持つことだってあるんだぜ」

「マウンセアまで行ってきたんだ。商会の護衛でね。途中、盗賊に襲われたんだけど、正体はフォレス領の領主、キンダー伯爵とその私兵だったっていう顛末さ」


 話を聞きながら父親の顔がみるみる歪んでいき、訝しげな表情に変わる。

 

「そうか……。それはちょっとだな。荒れるぞ。暫く身を隠したほうがいいかもな」


 こんなに真面目な父親の顔を見るのは初めてだった。ライアスは忠告に頷き、複雑な心境を抱えながらも、目の前の料理に意識を向ける。家族との団欒に、しばしの安らぎを感じるのだった。


 

 ***


 後日、ライアスはキンダー伯爵の一件について、情報を探る。

 フォレス領の領主、キンダー伯爵がマウンセアに監禁されている。たとえ領主であろうと、他領での犯罪行為は重罪に問われる。王都まで連行され、貴族院で裁かれる可能性が高いという。

 

 一方、領主不在のフォレス領は混乱を極めた。臨時の支配者として、王都の大貴族が派遣されるとの噂もある。

 父親の忠告通り、当分は身を隠しておくか。

 グラフト盗賊団のことも気になるしな。

 

 やがて大きな事件に巻き起こすことを、俺のの勘が告げていた。まるでそれは、嵐の前の静けさのように、心は不穏な予感に満ちていた。

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