第11話 黒幕の貴族

 ライアスは賊に寝返って交渉したというのは嘘で、実際は、捕縛した全員に『襲撃でファルマン商会の一行を殲滅し、売上金を含む荷馬車を森の茂みに隠した。

 それを後日回収するために貴族も連れて来る』という【記憶改竄フォルサファイド】をしたのだ。

 

 巧妙な罠を仕掛けるかのように、ライアスは慎重に計画を進めていく。

 一方、マウンセアの冒険者ギルドには緊急クエストが貼り出された。

 

 『ファルマン商会を狙う賊の拘束』

 

 報奨金は六〇万ゴルドと高額だった。

 報奨金を目当てに、三〇名もの冒険者が我先にと志願したのだ。まるで、金に飢えた野獣のように、彼らはこのクエストに飛びついた。

 

 出発の日、ファルマン商会はマウンセアからの商品を荷馬車に積み込み、護衛である冒険者たちと共に街を後にした。隊列は、まるで巨大な蛇が這うように、緩やかに進んでいく。

 先日襲撃に遭った場所に到着すると、一行は馬を荷馬車から外し、離れたところで待機した。そして、荷馬車が見える茂みに、冒険者たち三〇名とファルマン商会の人々が身を隠した。

 

 森の中は静まり返っている。鳥のさえずりや虫の音も聞こえず、まるで世界から切り離されたかのようだ。皆、息を潜めて待機している。時折、風に揺れる葉の音だけが聞こえてくる。

 

 ふと、ライアスの鋭い感覚が、何かが近づいてくることに気づいた。

 ――そろそろだ。

 

 そのとき、鎧に身を包んだ騎士の一人が、低い声でつぶやいた。


「閣下、この辺りです」


 ――まさかキンダー伯爵自ら来るとはな。

 キンダー伯爵一行が姿を現した。囮の荷馬車を確認している彼らを、マウンセアの冒険者たちが一斉に取り囲む。キンダー伯爵は驚きと怒りに顔を歪めた。


「なんだ! お前らは。私をフォレス領の領主と知っての狼藉か」


 冒険者たちは口々に言い返す。


「ここはマウンセア領だぜ? キンダー伯爵様。なんでファルマン商会の荷馬車を調べているんだ?」

「たった五人の騎士で俺達に敵うと思ってるのか?」

「ここは大人しくお縄についたほうがいいんじゃないか?」


 キンダー伯爵は憤慨したが、三〇名もの冒険者を前に、観念した彼らは、冒険者たちによってマウンセアの街へと連行されていった。

 俺たちファルマン商会は、そのままフォレスの街に向かう。


 ***


 ファルマン商会からの指名依頼を達成し、報酬を受け取った。

 ――今日は豪華な晩飯を作ろうかな。バロンも喜ぶだろう。

 

 そう思いながら、街の市場へと向かう。五日ぶりの我が家で、家族と美味しい料理を囲みたい。そのためには、良い材料を選ばねば。

 

 市場を歩きながら、目を皿のようにして食材を物色する。やがて、ちょっと良い葡萄酒と、きめの細かい牛肉に目が留まった。

 ――よし、これで決まりだ!

 

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