第6話 ファルマン商会の男

 冒険者ギルドへの報告は各自済ませ、報奨金の計算方式を決定するため一旦ギルド預かりとなる。冒険者たちはその足で酒場に向かっていった。


 酒場は冒険者たちで大いに盛り上がっている。パーティーを組んでいるものは互いの手柄を称え合い、単独で討伐に臨んだものたちは、自分の手柄をひけらかし合っている。

 酒場の端のほうで飲んでいた十人の男たちの一人が立ち上がった。


 恰幅が良く、高価そうな上等な衣服を纏った髭を蓄えた中年が話し始める。


「冒険者の皆様! 今回のグラフト盗賊団の討伐の話しを伺いました。」

「ん? なんだ? お前たち商人か?」

 

「はい。隣国マウンセア領の商団でございまして、最近このフォレス領に進出してきたのです。商品を持ってくる際、何度も盗賊に襲われて困り果ててた所、冒険者の皆様が討伐してくださったという話しを聞き、私どもも大変喜んでおったところです。」


「ささやかではございますが、ここの酒代はすべて、私どもの商団にお任せ下さい」

「おおお! 気前がいいな。」

「よし! この店の酒を全部飲み干すぞ!」


「今後とも、私ども『ファルマン商会』をご贔屓によろしくおねがいします」


 そういうと、商団の長らしき男は席に戻っていった。


 ――ファルマン商会。フォレス領の北西部に位置するマウンセア領に本拠地を構える大きな商会だ。フォレス領にも多くの商会や商団がある。一番力を持っている商会はゴルデア商会。商会や商団を束ねる商業ギルドのギルドマスターもこのゴルデア商会の会長だ。


 ゴルデア商会の後ろ盾はフォレス領の領主、キンダー伯爵であり、この街で商売をするにあたり、ゴルデア商会は決して敵に回してはいけない存在であった。他の街の行商に関しては問題ないが、進出してくるとなると話しは別だ。

 実際、商業ギルドでも冷遇され、嫌がらせも少なくない。



  ――それにしても、おかしい。

 俺たちグラフト盗賊団は民を襲わないし、フォレス領では商団を襲いもしない。

 これは、調査してみる必要があるな。


 ***

 

 朝日が窓から差し込む。キッチンからは、美味しそうな匂いが漂う。

 

「ライアス兄さん、おはよう」

「おはよう、バロン。もうすぐ朝飯できるからな。顔洗っておいで」

「うん」


 焼いた鶏卵とスライスした燻製肉を薄切りのパンに乗せ、お茶を淹れる。


「父さんは?」

「まだ寝てるみたいだな」

「まったく、兄さんは昨日も遅くまで頑張ってるっていうのに……」

「ははは。まあ良いじゃないか」

 

 パンを頬張りながら、バロンが話す。

 

「昨日はグラフト盗賊団を討伐しに行ったんでしょ? 倒した?」

「ああ。グラフト盗賊団は壊滅さ」

「ライアス兄さんは本当にすごいな。僕も鼻が高いよ」


「さて、俺はもう出掛けるから、学園に行くときにちゃんと鍵を閉めてな」

「どこいくの?」

「昨日、酒場に忘れ物をしてしまってね」


 ***


 ――チリン。酒場のドアに掛けられた鈴が鳴る。昼食の仕込みをしている店主が厨房から顔を出す。

 

「少しいいか?」

「はッ! ノル様」

「街ではその名を呼ぶなって」

「はッ! 申し訳ございません」


「ファルマン商会を知っているな? この街に潜んでいる奴らの誰か適当な者に潜入させろ」

「はッ!」

「そうだな。腕の立つ者がいいな。頼んだぞ」


 後日、ファルマン商会の交易の用心棒として、諜報員の中でも体躯の良いガイアンが潜り込んだ。

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