第5話 冒険者と盗賊団の戦い

「皆、聞いてくれ。盗賊の討伐専門でやってきた俺のギフトは知ってるよな。【隠遁ハーミット】だ。実は精神力をかなり使うから嫌なんだが、俺以外の人にも効果を付与できるんだ。」


「グラフト盗賊団の砦に着いたら、みんなに【隠遁ハーミット】を付与する。効果は三十分だ。その間に盗賊たちに奇襲を掛ける。」

「おお。さすがシーフハンター。盗賊たちとの戦い方を熟知してるな」


 冒険者たちは俺の計画に満場一致で乗った。


 ――よし。これでいい。


 ***


  グラフト盗賊団の砦。丸太で作られた門から少し離れた所に冒険者たちが並ぶ。総勢一〇〇人を超える冒険者たちは圧巻だ。未だかつて、この人数が参加した依頼はない。


「これから皆に【隠遁ハーミット】を付与する。目を瞑ってリラックスしてくれ」


 俺は一人ずつ頭に手を翳し、ギフトを発動していく。

 

 ――「ふう。これで完了だ。効果は三十分程度。盗賊たちは皆に気付かないから、その間に仕留めていってくれ」


 冒険者たちは門に縄梯子を掛け砦に潜入していく。数名の見張りが砦の広場を歩き回っている。剣を構え盗賊に寄っていくが、まるで見えていないようだ。冒険者は盗賊の胸に剣を突き刺す。苦悶の悲鳴が響き、盗賊たちがゾロゾロと砦の小屋から出てくる。


 しかし、冒険者たちを視認できない盗賊たちの断末魔があちこちから発せられる。

 死神が舞い降りたかのように、盗賊たちは次々と命を落としていく。

 盗賊たちは間もなく全滅寸前。一二人の幹部と首領が冒険者の前に跪く。


「頼む……。この砦から、いや、このフォレス領から出ていく。命だけは助けてくれ」


 ひれ伏し、懇願する首領の言葉は届かず、首領と幹部全員の首が刎ねられた。

 さらし首にするため、残りの盗賊たちの首を切っていく冒険者たち。

 ――その時、辺りを濃霧が包む。伸ばした腕の先も見えないほど濃い霧に困惑している冒険者たち。

 

 暫くすると、風が吹きはじめ、霧が晴れた。

 辺りには、盗賊たちの胴体とおびただしい量の血が地面を汚している。しかしどういうわけか首が無くなっていた。


「ん? 首が一つもない……。どこに行った!」

「クソ。これじゃあ報奨金が出ない! 皆探すぞ」


 慌てる冒険者に俺が意見を述べる。


「ここに証人が一〇〇人もいるじゃないか。全額にはならないが報奨金は出るはずだ」

「そうか! そうだよな。よし、街に帰って祝勝会をしよう」

「おう!」


 


 ――これが冒険者たち全員にかけた俺のギフト【記憶改竄フォルサファイド】だ。



 

 幻覚の中で、盗賊団と戦う冒険者たち。

 脳内で英雄譚の一場面のように、彼らは勇猛に戦っているのだろう

 盗賊のいない砦で呆然と立ち尽くしていた冒険者たちの目に光が灯る。

 

「そうか! そうだよな。よし、街に帰って祝勝会をしよう」

「おう!」


 溌溂とした表情の冒険者たちが一斉に街に向かって歩き出す。

 道中の会話は、何人仕留めたかとか、幹部の首を切り落としたとか、各自の自慢話だった。

 勝利の凱旋行進のように、彼らの足取りは軽やかだった。

 

 

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