第4話 グラフト盗賊団の砦にて

 食事を終えたバロンは眠そうに目をこすった。


 「さて、僕は明日も学園だからもう寝るね」

「お。うん。おやすみ」


 程なくして、 けたたましくドアが開いた。父親が酒を飲んで帰ってきたのだ。

 

「おお! 長男殿! いつも小遣いありがとうな。今日もご機嫌だぜ。ヒック」

「それはよかった。父さん、風呂沸かしておいたよ。ご飯は……その感じなら食べないか」

「ういぃ。ひとっ風呂浴びてくるわ」

 

「俺もう寝るから。バロンが寝てるから静かにね」

「わあってるわい」


 いい気なものだ。吐き気すらしない。

 誰が見ても毒親だ。だが……。まぁいいか。


 自室で武器の手入れをする。この時間は好きだ。

 俺の武器、二本の短剣はミスリル製だ。課外授業のとき、A級冒険者ロベルから奪った剣を元に父親が鍛え直した。申し分のない。ミスリスの鍛造なんて、そこらの鍛冶屋ができるものではないらしいが。


 俺が冒険者として、盗賊として、ここまでやってこられたのも、この短剣があってのものだ。この男。自分の父親ながらに、何か引っかかる。

 風呂から上がった父親は大いびきをかいて寝ている。


「――行くか」


 俺は、家を出て、グラフト盗賊団の砦に向かった。フォレスの街から峠を越え切り立つ岩の合間にあるこの砦の門の前に立つと、丸太が束ねられた門が開く。


「ノル様、おかえりなさいませ」


 衛兵役の盗賊が頭を下げる。「ノル」とは盗賊としての俺の偽名だ。幹部を集め冒険者ギルドの情報を伝える。


「そうか。ノル。ご苦労だった。皆も聞いた通り、明日から随時冒険者共が我らの砦に攻め込んでくるだろう。その数は一〇〇を超える。さて、どうしたものか」


 序列一位のクライドが言う。俺を気に入りグラフト盗賊団に入れた男だ。基本、この盗賊団はクライドが仕切っている。

 

「総力戦であれば勝てるだろうが、こちらの被害も甚大だろうな。この砦を捨ててもいいと俺は考えている」


 俺が提案をすると、序列十位の幹部エンキが大きな声で言う。

 

「おいノル! てめぇは街で暮らしてるからいいよな。だがよ、この砦は俺らの家なんだぜ?」

「エンキ、俺は立場上、冒険者として明日ここに来るんだ。なるべくなら戦った振りでもしたくないんだ」

「ふん。ったく、どっちの味方だよ」

「そんなこともわからないのかエンキ。脳筋はこれだから……」

「てめぇ。このクソガキが! 表出ろ」


「やめないかお前たち!」

 

 序列一位のクライドが怒鳴る。

 

「とにかくだ、せっかくここまで増やした仲間を削る訳にはいかねぇ。ノルの言った通りこの砦から一旦身を隠す。いいな」


「「はい」」


 幹部たちが応じる。

 さて、俺の仕事はここからだ。冒険者ギルドに向かうとするか。

 

 砦を出ようとすると、不意にエンキが話しかけてきた。


「おい、ノル。さっきは……その、怒鳴ってすまなかったな」

「気にすんなって。情に厚いエンキの気持ちもわからなくない。脳筋だけどな」

「てめぇ」

「あはは」


 俺は、背を向けエンキに手を振る。

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