推理

 昼休みは意外と短い。これは、ここ数日ボッチであることで分かった事実の一つだ。彼女の推測は決して無視できないものだが、弁当を食べなければならない。そう思い、自分の席で弁当を広げる。ご飯、おかず、スープ。いつもならば、美味しい食事が俺を至福の時間へと運んでくれるのだが…。

「ちょっと前、失礼するわね」

そう言うと、彼女は自分の椅子を俺の机の前に置き、昼食を食べ始めようとした。

「あのー上杉さん。何でここでご飯を食べようとしているのでしょうか?」

「さっきの話の続きをしたかったのだけれど、もしかして貴方は私と食事をしたくないのかしら?」

これはマズイ。一筋の冷や汗が背中に流れる。彼女は、才色兼備、優美華麗、それでいて一匹狼という、学年のアイドルの適正てんこ盛りのような人だ。そのお方からのお誘いを、問題児でボッチの俺が断ったということが広まってしまえば。

「若月とかいうやつ調子乗ってるよな」

「上杉さんからのお誘いを断るなんてあり得ない」

「元から問題児でヤバいやつだと思ってたんだよ」

なんてことになりかねない。

「一緒にご飯を食べれて幸せです」

「そう、なら良いのだけれど」

彼女が、若干不機嫌そうに見えたのは気のせいだろうか?

 

「貴方の能力には二つの弱点がある、私はそう見えるわ」

彼女の推測が始まった。

「まず一つ目は、事実は曲げることができないということかしら」

「…理由を聞かせてもらおうか」

「貴方、委員長に立候補して惨敗してたじゃない」

「ヴッ」

俺の心に強烈な右ストレートが入る。別にそこまで狙ってはいなかった。うちのクラスには、始まって3日足らずでリーダー格になった藤田、という男がいた。勝てないことは分かっていた。分かっていたはずなんだが。

「もし、貴方が事実を曲げることができるなら、両親に自分が委員長になった、と言えば良いだけだもの。」

「…正解だ。」

彼女の得意げな顔が憎たらしい。

「二つ目は、嘘を信じてもらう必要がある。貴方、私に先約があると言ってなかったかしら?あれ、嘘でしょ。」

「いや、あれは本当に…」

「やっぱり嘘になってる」

息を呑む。俺には確かに、能力で作ったくだらない予定があった。それを完全に見透かされているとは。…いやまさか。

「ここまで能力がバレたのは初めてだよ。一体いつから疑ってたんだ?」

「自己紹介の時から。貴方、四割嘘だったじゃない」

「なるほど、上杉さん」

俺はたっぷりと間を開けてこう言った。

「君もまた、能力者なんじゃないかと、僕は思うんだけど」

こうして、俺は反撃の狼煙を上げるのであった。

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詭弁の華 ルーココ @rukoko09261228

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