詭弁の華

ルーココ

邂逅

 若月信玄は「虚」である。

 もし仮に、若月信玄とは何か、一文字で答えなさい。と言う問題があったら、俺は迷わずそう答えるだろう。虚構を構築し、虚言を吐き、虚勢を張ってきた俺にはぴったりだと思う。そんな僕の始めた高校生活は、ぼっちで虚ろで虚しいものだった。

「ちょっとインタビューに答えてくれないかしら」

…彼女に話しかけられるまでは。


 踊り場にいる俺のことを見下している彼女は俺のクラスメイトの上杉穂乃果。入学して早々、自らの頭の良さを惜しみなく発揮している天才だ。高嶺の花であり、一匹狼でもある。また、美しい外見をしており、長い黒髪が美しい。そこまで考え…。

 「残念なことに、先約が入ってるんだ。またのお越しを。」

俺は一目散に逃げるつもりだった。こちとら、初日から課題を出さなかったり、授業態度も悪いと話題の問題生。彼女にどんな事を言われるかわかったもんじゃない。そう思っていた。彼女の言葉を聞くまでは。

 

 「貴方、嘘を本当にできるのね。」


 足を止めざるを得なかった。ソレは僕が、密かに持っていた、切り札にして、最大のアドバンテージ。それを彼女に把握されている、というのはとてつもない驚きだった。

 「あら?そんなに驚くことかしら?ヒントはいくらでもあったけれど」

さも当たり前だと言うような彼女に、俺は悔しくなり、少しばかりの抵抗を試みることにした。

「バレてしまっては仕方がないな。俺には確かにその力がある。この世を何でも思い通りにできる、魔法の力だよ」

俺は自分がまるで神になったかのような態度をとった。…はずなのに。

「これはあくまで私の推測何だけど。」

彼女は階段を降りながら、宣告するかのように俺に近づいてきて、彼女のシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる距離になった時。

「貴方の能力、そんなに便利なものじゃないでしょ」

またしても俺の嘘は破られたのであった。

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