第9話
9
仲間の警察官に洞窟での事を話した。すると、急いで帰って来いと言われた。零と共に車に乗った。
「零、さっきは助かった。君が警察官になったら、私の相棒として働いてくれないか?」
ルーカスは、零に本音を告げた。この2日間、犯罪者である零の過去を知って、色々なことを学んだ。犯罪者にも人生があり、犯罪を犯さなければならなくなった理由があるのだ。そして、きっと改心する事ができる。
「お前の相棒かぁ。俺とお前は真逆のタイプだから、喧嘩が絶えないだろうな」
零は楽しそうに笑った。だが、すぐに何かを思い出したかのように窓の方を見て押し黙った。窓の外では、親子がハンバーガーを食べている。
「そうだ、ハンバーガーも食べような。だから、刑務所では模範囚として大人しくしておくんだぞ?」
「……うん」
ルーカスが話しかけても、零からは生返事しか返って来ない。緊張しているのだろうか。
「零、大丈夫だ。お前の殺した死体は3体しか見つかっていない。それに、お前の過去から情状酌量もあるだろう。私からも言っておく」
柔らかい声で、慰めるように言った。だが、零はかわらず、浮かない顔をしている。
ルーカスの警察署にたどり着いた。零は大人しく手錠をつけられ、項垂れたままルーカスに着いてくる。零になにか声をかけようとしていると、数人の警察を引き連れた、小太りの男が近づいてきた。
「こ、これは!警察庁長官殿!私は」
「ルーカス君だね?こんにちは。君のことは国民達から聞いているよ。正義を重んじる、とても良い警察官らしいじゃないか」
長官の目線は、零に注がれている。あまり、気持ちのいい視線ではない。ルーカスは、零と長官の間に立った。
「彼は犯罪者ではありますが、人身売買組織の1人を」
「ルーカス君!その話は、後でゆっくりしよう。まずは、その犯罪者を渡してくれ」
再度、言葉が遮られた。長官は、微笑みながらルーカスに手を差し出した。
ルーカスは振り返って零を見た。いつものような、生意気そうな顔ではなく、しっかりとした目でルーカスを見つめている。
「彼には辛い過去があります。それに、今は改心してもいるのです。どうか、酷い扱いだけは止めてやって下さい」
長官に逆らうことはできない。ルーカスは、零を引き渡した。
「ほぅ、お前が赤目の殺人鬼か。名前の割に可愛い顔をしているじゃないか」
長官は、太い指で零の頬を挟んで、零の顔をあげさせた。零は逆らうことなく、その行動に従っている。ルーカスは、無意識に長官の腕を掴んでいた。
「あ、申し訳ございません。ただ、犯罪者と言えども無抵抗の者に危害を加えるのはよろしくないのでは?」
ルーカスは急いで手を離した。長官は怪訝そうな目をした後、ため息をついて歩いて行った。零は、一度も振り返ることなく、長官に連れられて行ってしまった。
ルーカスも、少し離れて警察署に入った。長官と零は、窓のない部屋に入った。ここの建物を知る人々の間で、拷問部屋と呼ばれている場所だ。中から話し声が聞こえる。何とかできないか、
「あ、ルーカス先輩!」
後輩達が話しかけてきた。額には汗が浮かんでいる。
「そんなに焦ってどうした?」
「先輩が左遷って聞いたので……心配で……」
後輩達の話に驚いていたが、すぐに理解した。ねずみ捕り男の話が本当なら、殺されないだけマシだろう。安堵と同時に、零の身が心配になった。
「実は、先輩を消すという話も上がっていたらしいです。ですが、有名な官僚の夫婦が先輩を助けたいと言って、左遷に落ち着いたらしいですよ」
「先輩がなにしたのかわかりませんが、先輩の人助けが自分に返ってきたってことですね!先輩はどこに行っても我々の憧れる先輩です!」
後輩たちがルーカスを褒めたたえている。官僚と繋がっているというねずみ捕り男の話は本当だった。いつか助けた夫婦が、ルーカスを助けてくれたらしい。だが、零はどうだ。誰が助けてくれるのだろうか。
ルーカスは、また、拷問部屋へ歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます