33 ちえくらべ

「デジャヴだなあ」


 眼の前のアサシンは随分と既視感のある死に方をしていた。勢い余って殺してしまったが、まずかったか。


「いっでえ!なかなかやるみてえだな!」


 あれ?生きてる?眉間って人の急所だろ?

 あ、こいつ魔族か。


 そうだよな。こんな角を生やした人族なんているわけ無いもんな。


「ッと!」


 蹴り。

 とっさに避けるも、体が痛くて思うように動かない。

 ギリギリで避けきり、俺は浮いた足に伸ばすように植物を生やす。

 鉄みたいな土由来の足場でも良かったが殴られると崩落するからな。



 重い体を揺すってジャンプすると、俺の植物の足場は切られた。


 ドテン!!


 俺は傷口から地面に叩きつけられる。

 動けない。痛い。


 アサシンは俺の前に立ち、閃光弾を溜めている。


 ヤバい!


 死ぬ!


「チィッ!」


 ドンッ!


 地面が抉られた。


 そこには人影が来たが、元々居た人影はない。


「フン!今回はこんなところだ!サラバ!」


 城壁の上に身を躍らせたアサシンは告げる。


「我が名はファルコ・エルドスタ。またの名を”行灯あんどん”また合うこともあろう!」


 そういって鬼族と思われる男は角と漆黒のマントをひけらかし、そこから飛び降りていった。


「舐めるな!次に姿を見せた時は命はないと思え!」


 俺の助太刀に来てくれた人・・・コレも魔族か。目が赤いサファイアのようだ。髪も赤色。この人も黒い服装がよく似合う。


 それを見て俺は痛みに苛まれながらもなんとか立つ。


「ああ、怪我は大丈夫か?」

「あ、助けてくれてありがとうございました。その・・・お名前は?」

「俺の名前か?先にそちらが名乗るべきだろう。私は上官だぞ」


 やっべえ。殺される。

 上官にタメ語は厳罰だぞ。


 ああ、なにを言われるんだろう。


「あ、えと、カイ・ブラッドリー傭兵団長です!」


 それを聞くと赤髪の魔族は目を瞬かせ、跪く。


「これは失礼した。カイ殿。私はティルス軍が参謀、ライアン・ウリアス・スペーサーだ。スペーサー族。まあ族に言う蜘蛛族だ。よろしく頼む」

「え!ちょっと!頭を上げてください!それに参謀なら俺と同じ地位でしょう?」

「いや、確かに同じ参謀だが、君は準男爵で時期地方自治領主、私はただのしがない騎士爵だ。こうさせてくれ」


 ええ〜やりにくいなあ。

 まあいいや、怒られなくて済んだし。


「ま、まあ私は若輩者なので、年長者からそのような態度を取られると少々・・・」

「む、すまん、分かった」


 はっ。こういうのは肩が凝るぜ。


「時にカイよ。何故お主は暗殺者に襲われていたのだ?」

「まあ、多分俺がティルス救済の旗印だからでしょうね」

「む?そういうものなのか?」

「そういうものです」


 どうやらこの人はあまり知略の方に明るくないみたいだな。


「俺を殺したらティルス軍の士気は下がるし、俺はアラステア様の側近扱いです。それに俺がいることにより大軍を率いてティルス、もといソゼウ王国を攻撃する正当な理由になる。そんな重要な人物を殺す価値は、言わなくても分かるでしょう?」


 俺が諭すと納得した表情を浮かべ、ライアンは頷いた。


「要するに、お前殺す、戦負ける。こういうことだな」


 おおん、めちゃくちゃ端折ったな。


「ま、まあそういうことです」


「して、何故殺されれば負けるような人物が一人で外出しているんだ?」

「それはですね――」


「アサシンギルドか?なんだその傷は」


 アラステアだ。


「これは大公殿下。暗殺者を取り逃がし、申し訳なく思っております」

「よい、ライアン。奴は恐らくアサシンギルドの一員。むしろお前程の豪の者で無い限り追い払うのは困難だったろう」

「ハハッ!もったいなき御言葉!」


 ライアンは深々と頭を下げた。


「時にカイよ。相手の暗殺者は誰であったか」

「ハッ!名をファルコ・エルドスタ。コードネームを”行灯”。これは”行灯”の靴底の刃物により付けられたものとなります」

「ふむ、やはりアサシンギルドか。アサシンギルドは名と二つ名を名乗るからな」


「ならいい。早く全体治癒魔法陣を持ってきなさい。恐らく刃物には毒が塗ってある。早めに治療しないと大変なことになる」

「ハハッ!」


 ライアンに言いつけると、アラステアはしゃがんで俺と目線を合わせる。


「よく生きていてくれた。礼を言う。二回も死地を逃げ延びたのだ。もしもお前が死んでいたらこの遠征は失敗に終わっただろう」

「いえ、これも己の弱さが招いたもの。お役に立てるように更に精進していく所存にございます」

「うむ、励み給え」


 よし、ひとまず一件落着だな。


「もう夜遅い。お前はもう休め」

「はい、あ・・・」

「なんだ?」


 そうだ、聞き忘れていることがあった。


「ここはどこでしょうか?」

「おお、伝えるのを忘れておった。ここはエル・コスタ城だ。無論安心したまえ。ここは防衛の最前線だが、まだ敵は到着しておらん」


「エル・コスタ・・・?」


 え、じゃあ


「家族に会えるということですか?」

「あー、そういうことになるな。まだ日は沈んだばかりだ。会ってくればいい。上級士官の詰所にいる筈だ」

「わ、わかりました!ありがとうございます!」

「護衛を連れて行け。また襲われればたまったもんじゃない。ライアンを貸し出そう」

「ハハッ!」


 俺はライアンなど一瞥もくれずに駆け出していた。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 タッタッタッタッ


 俺は夜の廊下を疾走する。


 ついに家族と対面できる!

 父様と母様は元気かなあ。

 ロペスとクリスは大きくなったかなあ。


 みんなが元気なら良いなあ。


 ガチャ


「お父さん!お母さん!ロペス!クリス!僕です!カイです!」


「キャアアアアアアアア!!!!!!!」


 あ。


 お、きがえ、さ、れてるみたいですねえええ〜。


「申し訳ございませんさようなら!」



 えー。気を取り直して。


「お父さん!お母さん!ロペス!クリス!僕です!カイです!」

「カイ!元気だっ――」

「カイ!!」

「グへえ!」

「ドワア!」


 俺の方に歩いてきたダンにキレイにチョップを仕掛けてエリナが俺に突撃する。


 く、苦しい・・・。

 くそう、傭兵仕込のサーキットトレーニングで鍛えたこの体でもかいくぐれんか・・・。


「大きくなったわね〜カイ〜会いたかったわ〜」

「あ、母さん、苦し――」

「ああんもうかわいいわね〜」

「苦し」

「ウリウリ〜」

「ギャアアアアア!辞めて!痛い痛い!頼むから頭をグリグリするのは辞めて〜」


 騎士団所属のエリナ様の怪力が炸裂・・・痛い痛い痛い!!!!!


「父さん助けてくださ―」

「済まない。俺は先に逝く・・・」

「父さーーーん!」



「ご、ごめんなさい・・・」

「はい。反省してください。いくら久しぶりに会ったからって調子に乗りすぎないでください!」

「そうだぞ!そんなので俺を吹き飛ばすのはマジでやめろ」


 ふう。一件落着だな。


「お兄様!」

「んお?」


 俺の足元に抱きつく小さい女の子。

 俺の妹、クリスだ。


「おお、クリスか。元気にしてたか?」

「はい!お兄ちゃん!」

「おーよしよし」

「えへへ〜」


 俺はクリスの綺麗な茶髪を撫でる。

 よーしよーし。ういやつじゃのう。


 妹は可愛いのう。初めての妹はこんなに可愛いものであるのか・・・。


「フンッ!」

「おりょ?」


 見ると銀髪の俺のそっくりさんが俺から目を背けた。


 ロペスだ。


 なぜか嫌われたらしい。

 お、弟よ・・。


「もう!ロペスったら!お兄ちゃんにそんな態度しないの!」

「だって嫌いなんだもん!」

「どうしてそんなことを言うんだ!」

「そうよ!お兄ちゃんも嫌がってるでしょ」


 ロペスの言葉にダンとクリスも怒る。


「ま、まあ俺は気にしてないしやめてくださいよ・・」


 俺、必死の調停。


「うるさい!なんで馬鹿兄ばかにいに助けてもらわないといけないんだ!」


 馬鹿兄、馬鹿兄・・・。


 あ、俺のことか!


 え?俺が馬鹿兄?馬鹿兄かあ。


 馬鹿兄だよなあ。


「そんなことを言ったらダメよ。ロペス」

「なんでさ」

「だいたいなんでカイが馬鹿なの?」

「馬鹿兄は馬鹿兄だい」


 そういって三角座りのロペスは顔を背ける。

 なんじゃあこのガキ!図に乗りやがってぇ・・・


 だがしかし、俺は偉大なる御兄様であらせられる故、ナマイキな弟にも手を差し伸べるのだ。


「なあロペス。俺と模擬戦しないか?」

「もぎせん?」

「そうだ。模擬戦。実際の戦闘みたいに戦うのさ。俺は馬鹿兄なんだろ?もちろん勝てるよな!」

「なっ・・・」


 そういってロペスは顔を三角座りに沈める。


「まさか怖いなんて言うんじゃないだろう?」

「も、もちろん!うけてたつ!」


 こうして伝説の兄弟対決が始まったのであった。


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