32 アサシン
ぱち、ぱち、ぱちり
瞼が開く。
「うーん」
「・・・目が覚めた!カイくんが目を覚ましたよ!」
ドタドタドタ。俺の眼の前から誰かが去っていく。
うるせえなあ。こっちは寝てるんだよ。
「カーイくーん!!!!」
「グエッ」
抱きしめられた。
「や、やめろ!やめろ!苦しい!助けて!」
ボカッ
「痛ってえええええ!っざっけんな!」
「うるさい!何日寝てると思ってんのよ!」
殴ってきたアデレードが怒っている。
あれ?こいつこんなに怒りんぼだったっけ?
「良かったアアアアアア!!!!!」
ほぼ半狂乱でエリが叫んでいる。
「お前なあ。なに一週間も気絶してんだよ!」
「い、一週間!?」
エドワードが俺の頭をはたきながら言う。
いってえな!
「そうだ!一週間!アラステア様が気絶したお前を火葬しようとしていたんだぞ!心臓も止まって!冷たくなって!どれだけ俺達が心配したと思ってんだ!」
「ええ?火葬!?」
「そうだ。直後に小さく息しだしたから一命を取り留めたけど、どうなってるかわからなかったんだぞ!」
俺は怒るエドワードを見上げ、顔を覗き込む。
イケメンだけど、怒ってる。
あ、俺人の顔見つめるの初めてかも。なんなら目を合わせるのも久しぶりだな。
いつもオーラで気持ちを感じ取ってるしなあ。目を合わせる必要がないもんなあ。
みんな喜色と怒色のオーラだな。いやな空気だ。
「おい、聞いてんのか!」
「あ、ああ、聞いてるよ。うん、全部聞いてる」
「ならいい。お前はこれ以上アラステア様の授業を受けるべきじゃない!はっきり言って異常だろ。お前が気を失うほどの訓練って!」
「それはできない」
「出来ないって?どういうこと?ありえないわ!危険すぎる!」
後ろからヘルマンダが乱入する。
「これはもう決めてるんだ」
「決めてる?」
立ち上がったエリが眉間にシワを寄せている。
「なんで?どうして死にかけてもあの人についていくの?」
「そうよ!早くこの訓練を辞めてもらうように進言しないと!」
ジェイダとアデレードが反対意見を出す。
「できない」
そう、”龍の契約”だ。
龍の契約とは、龍族が結べる強制成約のことで、掟を破ったものは魂が壊れてしまう。
取り敢えず術者であるアラステアが死ぬまでは契約は解除できないのだ。
「理由があるんだよ。それに俺は絶対に修行を投げ出さない」
俺は濁りのない気持ちを伝える。
本心だ。
「理由?何?弱みでも握られてるの?」
アデレードがさっきから口が悪い。
「弱み?どうしたの?アラステア様になにかされたの?それなら許せないわ!絶対に捕まえてギッタンギッタンに・・・」
「待って!待って!ホントに違うから!・・・やめろ!」
エリが早合点して飛び出していきそうになったところを俺は呼び止める。
なんだコレ。なんかイライラするなあ。
ああ、ルシファーがなんか言ってた時におんなじ様な気持ちを感じたような、感じてないような・・・。
どうでもいいや。
俺は人のプライバシーに土足で分かったように入り込む奴が、嫌いなだけだ。
「なんでよ!」
エリがキレる。
「俺は、俺のやることがある。もちろん君にもだ。そしてそれは君のやることじゃないよ。エリ」
俺は地面とにらめっこしながらエリを諭す。
「じゃあどうしてさっきから湿っぽい態度をとっているの?おかしいじゃない!」
「湿っぽい?」
ああ、すこしそっけないか。
でもなあ。そっけないっても、いつもと同じ態度なだけなんだよなあ。
「じゃあ湿っぽかったら何なんだ?」
俺は喉の奥から声を絞り出す。
まるで獅子が威嚇するかのように。
「へ?」
エリの困惑する声が聞こえる。
「俺は、俺のために、やるべきことをしているんだ。それは俺の
「それは巡り巡って、お前達のためにもなるんだ」
「巡り・・・?」
「だから、口を挟むのは辞めてくれないか」
そう言うと、俺は宿舎から出ていった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
外は満点の星空だった。
道はキレイに舗装されており、針葉樹が生い茂る森が見え、炊事の煙があちらこちらで立ち上っている。
「さあ、どうしようか」
ここは・・・どこだ・・・?
全く景色に見覚えがない。
四方に城壁と塔が見える。
ここは・・・、城か。
「やあ、目を覚ましたか。カイくん」
後ろから声をかけられた。
俺は振り向く。
「どち――」
どちら様でしょうか。
そう言いかけて、俺は口をつぐむ。
その殺色、とでも言うべきか、禍々しきオーラを一点に集めた、男、シーフ用の軽装・・・格好からして冒険者か。
「おおっと、その出で立ち、ティルス、ブルガンディが長、ブラッドリー一族の嗣子とお見受けした。お命頂戴するぜえ?」
その言葉とともに放たれた魔術は、俺を襲わない。
間一髪で自然防壁を張る。
生け垣から伸びた草は壁となり、俺の視界を遮る。
風の斬撃で火魔術を覆った魔法、閃光弾は壁に当たって弾ける。
が、風魔法は確実に自然防壁に乗り移り、蔦を切り裂いて俺の元に向かう。
それを見たアサシンは俺に追撃をかける。
ナイフを抜刀し一瞬で防壁を超え、俺の元に。
「うおっ!あぶねえ!」
その斬撃を後ろにのけぞって躱す。間一髪だ。俺の前髪が切られているのが分かる。
「フンッ。貴族っ子のあまちゃんかと思っていたが、中々やんな!」
「グホッ!」
のけぞった脇腹を回し蹴り足で蹴られた。
油断した。
「だが、これでもうおしめえだぜ?」
「グッ!」
俺は痛みに蹲る。
脇腹に手を当てると、温かいものが伝わる。
ああクソ、刃物が靴に仕込まれてたんだ。
俺からしたら今すぐ治癒の魔法陣を展開したいところだが、生憎魔法陣は両手で魔力を込める必要がある。
魔法陣内のバランスが崩れるらしい。今回は片手で傷口を押さえているし、魔法陣は空中には出せない。身体全体を覆う治癒魔法陣は詠唱に小一時間かかる。よって導き出されるのは・・・。
「万策尽きたみてえだなあ坊っちゃん」
ナイフが首筋に押し付けられる。
「悪く思うなよ?こっちも仕事なんだ」
ヤバいなコレは。何処かに逃げ出す手口は・・・。
あ!ナイフを折れば良いんだ
「死ね!」
ナイフに力が入る。
「身体強化!」
俺は首の筋肉に力を入れ、相手ナイフの方に首を折る。
本来ならば俺の首のほうがちぎられるだろうが、俺には身体強化EXがあるのだ。
ボキッ
ナイフが折れる。
「なに!」
「”アロー”」
俺は左手を突き出して唱える。
矢の呪文の応用、弾丸がアサシンの眉間にヒットした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます