30 力と責任
「君はあの馬鹿邪龍になんと吹き込まれたんだい?」
「馬鹿邪龍って・・・俺の師匠だぞ?」
「君はそんなに思入れはないだろう。気にするな」
ええ〜。確かに一回しか授業受けてないけどその言い草はないだろう。
そんな俺の思いを汲み取ったのか、ルシファーはため息をつく。
「甘すぎるし致命的に考えなしだね。君は」
「グッ」
冷たく発せられた言葉に反論ができない。
ああ、そうだよ。考えなしだよ。悪かったな。
「それで、なんと吹き込まれたんだい?」
面白くなさそうにルシファーが呟く。
へーへー。悪かったよ。
説明してやんよ。
「まず最初に、自分の寿命はもう短いから、俺にその志を引き継いで欲しいって」
「うん。それで?」
「俺に、戦争を無くすために大陸統一をしてほしいだとさ。あ、あと研究を始めた理由は師匠が愛した人で、その人が殺されたからアラステアは革命をしようと考えたらしい」
「愛した人?」
「ああ。深くは教えてくれなかった」
それを聞くとルシファーは少し考え、顎に手を当てながら俺に言う。
「色恋沙汰はわからないなあ」
「じゃあなんで聞いたんだよ。俺もわかんねえし」
「あれ?わかんないの?君魔人だよね?」
「魔人?」
魔人?どういうことだ。俺はただの人間だぞ。
「魔人を知らないのか?」
「知らない」
「知らない?」
聞くとルシファーが口をポカンと開ける。
そして笑う。
「フハハハハ!人間というのは面白いな!自分以外の種族には詳しいのにいざ自分の種族となるとわからなくなるのか!」
「早く教えろよ」
俺はルシファーのほっぺを引っ張る。
早くしろよ。なるべく多く学んで帰りたいんだ。
「痛い痛い痛い!なんで引っ張るのさ」
「早くしろ」
「分かった!分かったから!言うから!離して!離してくれ!」
そう言われたので離した。
「魔人ってのはこの世界の人族だ。さっき君が走馬灯を見た世界があるだろう?」
「あの、ガブリエルとか言う天使がでてきた世界のことか?」
「そう、その世界の人族のことは電人って言うんだ。面白いだろう?」
いったい何が面白いんだろう。全くわからない。
うーん、電人、魔人って。
意味がわからない。
両方とも同じ人間でいいだろ。
「ささ、僕は教えたんだから、今度は君が教えてよ!」
目をキラキラさせながらルシファーは俺に詰め寄る。
犬みたいだ。ハッハッって言ってそうだな。
全く。コイツが偉いやつってことを忘れそうになるぜ。
「ああ。まあそれで、俺に黒龍族秘伝の術や知識を教え込んで・・・。俺に何をしてもらいたかったのだろう」
「ええ〜?そこが聞きたかったんじゃないか〜」
つってもな〜。まだ俺と師匠が接した時間は少ないんだから、伝えきれてないことが多いのも必然なんだよなー。
「まあ仕方ないね、それで――」
「あ、あと五大王の話について聞いたぞ」
「五大王?」
「世界最強の五人って聞いた」
「世界最強?」
「あと魚人族のワンダラッカー家とエトフーホト家のしがらみについても聞いたぞ」
「ええ・・・」
そう言うとルシファーは眉を潜める。
「そもそもなんで五大王が世界最強って教えたんだろ?確かに五大王は強いがアラステアとマーカス以外は大したこと無いだろうに。変だな」
「え?有名だろ。五大王は世界最高で――」
「あのなあ。五大王ってのは名ばかりだぜ?本当の世界最強は・・・。そうだな。世界中にあるデアルタル族の遺跡に刻まれてるし見たいならなら見に行けよ」
「ええ・・・」
なんといういい加減さなのだ。
思わず俺は聞き返す。
「そ、その何?デアル族みたいなの」
「デアルタル族」
「デアルタル族ってのは、一体何なんだ?」
ルシファーはまた後ろにのけぞり、「Oh My GOD」と呟く。だからどの口が言うてんねん。
「君はこの世界をなーんにも知らないんだね!」
起き上がったルシファーが俺を小馬鹿にしながら、さながら小悪魔のような笑みを浮かべる。
「うるせえ。これが俺の学べた最大限だ」
「へえ。最大限」
俺の言葉を聞いたルシファーは落語のように話し始めた。
「これ、割と何処の図書館にも書いてある内容だと思うんだけど」
「は?」
「タイトン貴族学校の図書館にも置いてあるんじゃない。多分オルタン語じゃないし真魔族語だから解読には時間かかるだろうけど」
「ちょ、ちょっとまって!なんだよオルタン語とか真魔族語って!」
「はあ?」
一瞬間を置いたルシファーはまた呆れる。
そしてデコピン。
「あがっ!イテッ!なにすんだよ!」
「るせえ!何が最大限だドアホ!お前の精神年齢的に擬態してるんだろ?少年の姿に。全く。大人のくせしてなーんにも知らないじゃないか!」
「ああ。悪かったな。それと俺は転生者だ。あんま勘違いすんなよ」
それを聞くとルシファーはまた体をのけぞらせ「Oh My GOD」と以下略。
「テテテ転生者あ?」
「そうだ。見えるだろ?このナイフ。俺は一回死んだんだ。そうだな、お前の言葉を借りると俺は元、”電人”だ」
「元電人?」
ルシファーが驚いて体を・・・あー、わかった。わかった。お前のそのジョークはすごく面白い。ありがとう。だからもうこれ以上そのギャグはやめろ。
仰け反らせた状態から戻ったルシファーは俺に問い詰める。
「じゃあ、君が救世主ってことか?」
「ああ、ウチの父さんにも言われたよ。なーにが救世主だ。俺はこの世界では普通に過ごしたいんだよ」
「ふーん。父さんね。君は転生したから本当の父上は――」
「黙れ」
俺の自分でもびっくりするぐらい低い声を聞いたルシファーは目をパチクリさせて、呟く。
「なるほど、ワケアリってことね」
「そうだ。俺の父さんと母さんはダン・ブラッドリーとエリナ・ブラッドリーだけだ」
「へえ、そう」
「あのね?知ってるかい?」
「何を」
ルシファーは空中に玉座を出して座り、話を続ける。
「この世界の創造者、賢神と呼ばれる人物、ガイウス・オリジネーターはこの世界を法則で満たしたのさ」
急に真面目な話が始まり、テンションの落差についていくことができない。
「その法則は様々な賢神の
ルシファーは飛び上がって腕を広げて、言う。
「僕さ」
「え?お前?」
「そう、僕を始めとする、
12徙の神々?ああ、頭が痛くなる。どんだけ二つ名多いんだよこの世界は。
「十二徙の神々は最初、ガイウスの身の周りの世話をしていたんだよね」
「その後、我慢ができなくなった十二徙の五、テーラーが己の力を見誤ってガイウスに挑んだ」
テーラー、テーラー?あれ、テーラーって
「ものの見事に負けたテーラーはガイウスが作り出した世界、”自然界”にある、ガイウスから派生した生物、”精霊”シナチルが作り出した『アース』のお守りをさせられるハメになったのさ」
ああ、前世界のことは自然界って言うのね。
いやいやそれより、
アース・・・って、地球?
十二徙の五、テーラーは地球のお守りをしていた?
読めたぞ。
テーラーは、テーラードラゴン。おそらく最初の龍神だ。
「”覇龍神”テーラーは最初の頃はちゃんとアースを管理していた」
覇龍神、か。
いやでも待て、じゃあなぜ今現在、覇龍神って称号を聞かないんだ?
「その後、その仕事は新しく出来た自然界で死んだ魂の受け皿、”冥界”の管理さえも任された。その頃僕たちの周りはすごかったよ。テーラーが抜け駆けしてガイウス様のご寵愛を受けている!ってね」
「でも、テーラーは飽きて辞めちゃったんだ。まあ当たり前だろうね。ガイウスはテーラー自身のことは全く見ていなかったんだから」
飽きる?そんなんで覇竜神やめれるの?
「あの野郎はなーんにも見ていなかった。自分が作り出した者が苦しみ、悶えるのを舌なめずりして見る。それだけのくだらない野郎だったよ」
「だから、簡単に部下を殺した。テーラーは”天罰”を背負い、瀕死になった」
「だから僕たちはその上司を殺した」
ゾゾッ。
そんな効果音が聞こえてきそうだった。
その冷ややかな声は、俺の心を氷の矢で穿くには十分すぎた。
「半魔人ファルカス。救世主」
固まる俺など意に介さず、続ける。
「僕達、冥界の住民は大反乱を起こした」
「ある日、信仰の対象だったテーラードラゴンが瀕死で発見され、魔人は怒り狂った。
またある日、自分たちの心の拠り所だった魔王、魔龍王アルカンテスが惨殺され、魔族達は怒り狂った。
そしてまたある日、賢神に見捨てられた堕天使、もとい悪魔は怒り狂った」
「その全ての血を引く、冥王ファルカス。その指揮により賢神は打倒されたのだ」
「ファルカスは被、差別者だった」
「自然界から転生し生を受けたものの、ファルカスは
「異物を排除しようとする自然の摂理により、ファルカスは不遇の時代を過ごした」
一体何が言いたいんだ。頭がこんがらがってきた。
「だが、その後、ファルカスは英雄になった。不遇の時代の反発だ。しかしいざ、英雄になったファルカスはガイウスを滅ぼした後、調子に乗った」
「自分を差別してきたものを殺し、挙句の果て、勝手に新しい”賢神”を名乗ったのだ。そして案の定、部下に殺された」
ええ・・・。なんと愚かな。
やはり、身の丈に合った、ということか。
「分かるかい?君が前世で何があったのかは知らないが、確かに不遇な時代を過ごした人物は、それ相応の恵まれた人生を送るべきだろう。しかし、その己の力量に見誤った力を持たざる者は、必ず滅びる」
「君がアラステアに誓ったことは、アラステアにとっても、君にとっても、身の程知らずだ」
ぐっ・・。
「君は、その世界に飛び込もうとしている。覚悟は出来ているのか?明らかに正気の沙汰ではないアラステアの甘言を真に受け取り、知識の足りていない頭ではじき出した答えが、己に持たざる力の魔法を使って死にかけることだ」
おい、待てよ。その言い方は無いだろう。俺だってれっきとした理由が・・・。
「覚えておくがいい。己をごまかし、持つべきでない力をもった人物には、必ず外野から刃物が投擲され、息絶える」
「考えろ。この考えなしが」
そう残すと、ルシファーは部屋から去っていった。
ベッドの上で歯ぎしりする俺を残して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます