28 喉元の過去
「ハッ!」
気がついた。
周りを確認し、先程までの謎の生物を探す。
いない。
なーにが天罰だバカヤロウ。その手には乗ってたまるかってんだ。
にしてもこれは凄いな。
え?何が凄いかって?
あったりまえじゃないか!
ヒュゴオオオ
なんで気を失っている間に
「俺は!空中に放り出されているんだよおおおおおお!!!!!!」
落ちていく感覚。これは分かる。
だけど重心が崩れて立て直せない。
これはマズイ。
平衡感覚が・・・。
どっちが上だ?
唾だ
唾を吐け。
プッ
見えた。
俺は手を横に合わせ、下に頭を向ける。
スカイダイビングだ。
「おおっ!」
眼下は夜の東京。
俺の、故郷。
光る夜景など何年ぶりであろうか。
手を広げ、目に故郷の景色を焼き付ける。
思えば長く帰ってこなかった。
借金を背負い、俺は簡単に日本を捨てた。
後悔はしていない。
でも、憧憬の念は抱く。
日本の飯が恋しくなったこともある。
俺は、前世で何がしたかったのだろうか。
あー。ちょっとぐらい女の味知っといても良かったのかもなあ。
そう、他人事のように考えていたときのことだった。
「やあやあ。いい度胸だね。逃げるなんてさ」
「なッ!」
気づいたらさっきの・・・天使が俺の前に現れた。
あれ?さっきのやつとは若干顔が違うような・・・
「殺すよ。いいよね?兄さん」
そいつは上に向かって話しかける。
「ああ、もちろん良いとも。天界を愚弄するやつに生きる資格など、無い」
上から声がする。
「じゃ、死ね。さよなら。”
俺はまたもや気を失った。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「〜〜〜!〜〜〜〜〜〜〜〜!」
目が覚めると、俺の眼の前で産まれたばかりの子供が周りからもてはやされていた。
あーん?なんだこの言語?
どこかで聞いたような・・・。
あ!日本語!これ日本語だ!
あれ?俺いつの間に日本語を忘れていたんだ?
もしかして産まれた時に俺の第一言語がすり替わっていたのか。
うーむ、興味深いな・・・。
「ああ、よくやった麻巳子!よくやった!」
俺の眼の前には初老の男が
「ええ、元気な跡継ぎよ!
そう言って柔和な笑顔を浮かべる麻巳子はさながら聖母のようだ。
「ああ、良かった」
「それで仁さん、この子のお名前は?」
「そうだな・・・。託。おまえは託だ」
場面は暗転した。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「そんなことをしたらダメじゃないか!嫌がっているだろう?」
「るっせえよ!お前のとうちゃんが偉い人だからって調子乗るなよ!」
場面が変わり、真夏の公園。近くの田圃にツバメが飛んでいる。低空飛行だ。
田んぼにツバメか・・。懐かしいな!
「父様は関係ない!弱いものいじめをしちゃダメじゃないか!」
「なんだよ!コイツが汚い格好をしてるのが悪いだろ!」
「それでもいじめをしていい理由にはならないだろ!」
にしても小学生喧嘩の途中か。
変なところで出くわしたものだ。
このいじめっ子に関しては全く知らんが、このいじめっ子を救い出そうとしているのはさっきの赤ん坊のようだな。
仁と呼ばれていた初老の男性によく似ている。
「ちぇっ!覚えてろよ!」
いじめっ子が去っていって、そこには託と・・・今まで気づかなかったが、よく見ると蹲る女性がいた。
あれ?あの女性、どこかで見たような・・・。
俺の中に前、どこかで感じた感情が駆け巡る・・・。
バリッ!
そのとき突然、紙が破れるかのような音が響き、俺の景色に亀裂が入る。そしてそこから
あいつは・・・。会ったことがある。
「早くココから出るんだ!早く僕に捕まって!」
聞き慣れた言語で、そいつは俺に警鐘を鳴らす。
また場面は暗転した。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
パチパチ
燃える紫色の焚き火。俺は荘厳のベッドの上で寝ていた。
「やあ。気がついた。カイくん」
起き上がった俺の目に飛び込んできたのは、玉座に座る光と闇のオッドアイ、そして燃えるようなオレンジ色の髪の美少年・・・堕天使?だ。
「あの・・・ここは?」
「ああ、ここだね。ここは僕の家さ。ゆっくりしていくと良い。君は永遠の客人なのだからね」
「永遠の・・・客人?」
「ああ、こっちの話さ」
コイツは前、俺が”天の怒り”で呼び出したやつだ。
「それより、君の名前は何ていうのかな?」
俺が聞く。すると目の前のコイツはびっくりしたあと、何が琴線に触れたのかはわからないが爆笑し始めた。
「ハッハッハッハ!ほう、君の名前が?か!面白い質問をするのう!!」
コイツハイテンションすぎるだろ・・・。
「あー面白かった・・・。あ、そうそう、自己紹介だったね。僕の名前は堕天使ルシファー。巷では堕将と呼ばれているね」
は?
こいつが、ルシファー?
「へ?」
俺の間抜けな顔を見てツボに入ったのだろう。
ルシファーが笑い出した。
「アッハッハッハッハ!ホントに君は面白いね!カイ。多分君はあと一日ぐらいはここで過ごすことになると思うし、ゆっくりしていきなよ。あ、でも部屋の外にはでちゃダメだぞ!防御のための魔法陣組んでるんだから、要の君がそこから出ちゃうと壊れちゃうんだ」
「出たいならまた後日、今度は自分の足できなよ」
そういってルシファーは俺にウィンクする。
「あ、えと、よろしくお願いします」
またルシファーが笑う。
「アッハッハッハッハ!僕を子供扱いしたやつの言葉とは思えないね!」
言い返す言葉もない。
縮こまる俺に、ルシファーは助け舟を出す。
「いや、タメ語でいいさ。なにせ君は僕の客人なんだ。客人に不自由させたとなると堕将の名が泣くからね」
ルシファーは座っている玉座の裏から俺に右手を差し出す。
「よろしく」
「ああ」
こうして俺の居候生活が始まった。
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