25 宿命
え?
「な、なぜ俺が黄龍の源流種を・・・?そもそも、なぜソゼウ王国に龍族が?」
「それがソゼウ王国が周りをオルタンに囲まれているのに落とされなかった理由だ」
源流種とは、祖先の血がとても濃い龍族の総称で、特徴としては、番がどんな種族であれその子供は龍であることだ。
「幾度となくこの国の元帥がソゼウ王国を討つための、”北伐”を行ったが、守りを得意とする”
質問に答えてもらっていないが・・・。
そんなことよりも、
「”黄龍神”?」
なんだそれ?黄龍神?
俺は龍神は知っている。前世でも天候や海流など、自然現象の全てを担っていると言われていた龍の長と呼ばれていて、それはこの世界でも同じだと伝えられている。
でも黄龍神?
もしかして6つの種、それぞれに神がいるのか。
「まあこれで気づいただろう。龍族は種類ごとにそれぞれ長がおり、他の龍種とは基本、仲が悪い。まあ打算的な同盟関係や、混血種の存在もあるがな。もっとも私の腹心であるユーリアも黒龍と緑龍の混血種だ」
「では、黒龍神が師匠だとすれば、黄龍族の龍神はどんな奴なのですか?」
我慢できなくなって俺が質問する。
「私は黒龍神ではないぞ?カイよ」
「え?」
これは失念していた。そうか。てっきりアラステアが龍神なのだと・・・。
「では、黒龍には神がいないのですね?」
「いや、そうではない。私の弟が黒龍族を束ねている・・・。いずれ会う時もあろう」
そう言うとアラステアは苦虫を噛み潰したような顔をする。
あまり弟と上手く行ってはないのだろうか。
「それぞれの龍神は拮抗し合う力でそれぞれの勢力を保っている。それぞれ黒竜は風、白龍は流れ、赤龍は炎、緑龍は自然の摂理、黄龍は大地、青龍は水に関する”世界力”を持っている」
「世界力?」
なんだそれ。ていうか白龍の”流れ”とは一体何だ。
「世界力は、龍の源流種だけが使える特別なスキルだ。
そのスキルは個体だけの単純なスキルではなく、その血筋専用の物である。
異なる龍種ごとにそのスキル、”世界力”は異なり、親から子へと継承されていくものだ。
まあ、所謂”魔法”を龍族語にしただけの話なのだがな」
「魔法?魔術ではなく?」
「ああ、魔法だ。言うなれば、お前の”無詠唱速読魔法”を感覚で行うような感じだな」
「そうなのですか・・・」
驚嘆する俺を横目に話は続く。
「この世界の天候や気温は全て龍神が操っている」
それは知っている。
この世界の常識と言って良い。
「青龍の勢力が伸びれば水は溢れ、海は荒れる。その溢れた水を飲んだ赤龍は力をつけ、全てを焼き尽くす炎を出す。焼き尽くされた水は天を穿ち、黒竜の元に届く。黒龍の蓄えた水は風に乗り、また違う場所に運ばれていく。その運ばれた水で恩恵を受けた緑龍は緑を増やし、その緑は枯れ、黄龍に力を託す。その力もやがて解け、水と共に白龍に届き、大地を駆ける。そしてまた青龍の元に届き、白龍の力のもと、漂い、また天を穿つ機会を伺う・・・」
んん〜頭がおかしくなりそうな話が始まったぞ?
ってことは、元々龍神が唯一人で天候を操っていたと思っていたんだけど、それは違って、実は六龍神の力の啀み合いのせいってことか。
その六龍神の力の暴走が所謂災害ってことか。
ん〜?じゃあ俺は暴走し始めた黄龍神にトドメを刺しに行かなきゃなんないってことなのかな?
「お話を聞いている限りですと、私はこれから暴走する黄龍神に引導を渡しに行くということになるのですか?師匠」
「ああ、その認識で間違いない」
やはりか。
しかし聞きたいことがいくつもあるぞ。
「まず、なぜ黄龍神はソゼウ王国に肩入れするのですか?」
「それはソゼウ王国が黄龍族にとって過ごしやすい場所だからだ」
そう言うと、アラステアは遠くを流れる大河川を指差す。
「この国を流れる川の源はソゼウ王国だ。大河川ファージ。黄龍神が根城とする河だ。黄龍神がこの河この国一番の流域面積を誇る川で過ごすほう黄龍神が力を及ぼす範囲が大きくなるのだから、大河川の源流に住まうのは当然だろう。それに龍族は基本迫害を受ける種族だ。迫害されずに住める場所を提供されると動きにくくなるのだろうな。まあそれに関しては私も同じだが・・・」
「わかりました。ではなぜ黄龍神は暴走を始めたのでしょうか?」
それを聞くと、アラステアは慮るように、だが、確実な芯を持った話を始めた。
アラステアの芯はボロボロで、いくつも折られた痕が見える。
その痕を見せないようにするかの如く、アラステアは話す。
「・・・恐らく創造神の復活が近いのだろう。そこで黒龍神との意見の相違があった」
は?創造神?ここで?
「黄龍神が狙うのはこの世界の覇者、”
は?
「え、帝王?」
困惑して話についていけない。
いやちょっと待てって。
そんな立て続けにそんな情報を言われても納得できんって・・・。
「お前は伝承について知ってはいないのか?」
「知らないですね」
知っとるわけ無いやろ!大体六龍神についても知らなかったんだぞ!
「そうか・・・。ならまあいい。お前がやるべきことは暴走を始めた”黄龍神”シトラス・サイファ・グラファイトを始末することだ。良いな!」
「は、ははっ!」
え、ええ・・・。そんなんでいいんか・・・。
ヤバい。コミュ障過ぎて質問できない・・・。脂汗が俺の額に張り付いてる。このままじゃ理由もわからずに戦場で戦うことになってしまう・・・。
おいおいココに来てまた前世と同じ間違いをするのか。言い寄られて反論できずにそのまま借金背負って蒸発するしか無かったのと全く同じじゃないか!
ぜええええったいこのまま黄龍神とやらと闘えば死ぬ。絶対に死ぬ。
なあなあで戦って良い相手じゃない。
「あ、あの・・・」
「よし、これでお前は・・・なんだ?」
何かを言いかけたアラステアは俺の質問に耳を傾ける。
「なぜ黄龍神を俺が殺さなければならないのですか?」
そう、何故俺か。なのだ。
俺が殺さなければならない理由は全く無いどころか普通にアラステアが殺すべきだろう。
俺が戦うと負ける。絶対負ける。
俺よりも龍族のほうが強いとは絶対に思えないし、確実にストマックよりもシトラスの方が強いでしょ。
無理よそんなん。
「俺は黄龍神に一対一でもう勝てないからだ」
「は?」
え?いまなんて?
アラステアはムッとしてもう一度言う。
「俺には、もう、黄龍神を殺す力が残っていないのだ」
その金色の目をらんらんと光らせ、アラステアは確実に、そして言葉を選びつつ言う。
「私は随分衰えた。死期が近い。恐らく今が全盛期のシトラスよりも、”弱い”。これからシトラスと戦っても、勝てん。もう私は世界最強ではないのだよ」
そう言うと、アラステアは何か決意したように笑い、言う。
「言い方が悪かったな。カイよ。私の代わりに黄龍神を討伐してくれないだろうか?」
「つ、つ・・・」
慎んでお受けいたします、と言おうとして、踏みとどまる。
危ない危ない。まーた短絡的に依頼を受けて後悔するところだったよ。
うーん、どうするべきか。
「勝算は・・・ありますか?」
俺はなんとか質問をひねり出す。
「ふむ、勝算とな」
アラステアは漆黒の手袋を顎に当て、考える。
「よし、この戦の概要について話すか」
五分は経っただろうか。そう言ってアラステアは魔法陣である紙を召喚し、指差す。
これは地図だ。ブルガンディ地方、それもティルス周辺の
でもなんでティルスの
「決戦の場所はティルス近郊、ワーナー台地。ここに敵軍を誘い出し、叩く」
アラステアはティルスよりもタイトン側の何も無い草原を指差し、作戦を話す。
「最初は敵兵を罵る。罵った後、しびれを切らしてティルス城を攻めたように見せかける。そのスキに・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで敵兵はティルス城から出撃をするのですか!?」
この世界の城は、城塞都市タイプと局地防衛タイプの二種類がある。
城壁を囲む城塞都市タイプは盗賊からの街の被害を防ぎ、街を栄えさせるには好都合だが、防御力は幾分かは低くなり、金もかさむ。
その点局地防衛タイプは、市街地とは別の場所に城を建築する方式なので、防御力は高い。
基本山城にすることで相手騎士団の歩みを遅らせ、かつ上から魔術を打ち下ろせるようになっていることで防御力はとても高くなるのだが、戦争の際に市街地がめちゃくちゃになり、かつ盗賊相手には弱くなる。
さらに民を逃がしにくいのも弱点だ。
ティルスは局地防衛タイプで、防衛拠点は市街地からそう遠くない所に建てられたティルス城なのだが、そこから敵が出撃とするということは・・・
「ああ?それはだな・・・」
バアン!
アラステアが口を開きかけたところでドアが開き騎士が入ってきた。
「も、申し上げます!て、ティルス城が・・・」
切羽詰まった様子の兵士は告げる。
「ティルス場が、落城しました!」
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