第三章 ティルス奪還 アラステア師事編

24 初講義

 翌日。


「では!行って参れ!」

「仰せのままに」

 ユーリアがアラステアに言う。


 あえてユーリアの方がアラステアよりも序列が上だと見せかけることで、ユーリアがアラステアの腹心であると見せかけないようにしたのだろう。



 正直現実味がない。

 昨日、俺はアラステアの弟子になった。


 あっさりと人生に関することを決めてしまった。

 俺のこの世界でのキャリアは大陸統一に決定した。


 俺の悪いところだ。

 あまりにも思慮が浅い。

 現場で働こうと思うのも、傭兵になろうと思うのも、全部即決だ。


 今回も、もう少しゆっくり考えても良かったのだろうに。

 ああもう、全く成長出来ていないじゃないか!


 そんな自分に無性に腹が立つ。

 イライラする。


 こんな常態で俺は大切な人を守れるのだろうか。

 前世では守るべき者や物は無かった。

 人間という生き物を殺すための生き物として生きていた。


 でも本当は分かっていた。



 俺はただ、俺の周りで差も当然かのように人との交流が行われることに、妬いていたのだ。

 俺以外の人がみんな敵に見えたのだ。



 だから俺は転生した時から、人に頼りまくった。


 嬉しかった。


 構ってくれる人がこんなにも俺の周りにいることに。



 でも、それは結局他の人に頼りっきりで、何も成長していない。

 知った知識も上辺だけ。


 人間関係の構築さえも自分の天賦の才スキルに頼りっきりだ。


 成長しているはずがない。



 やはり自発的に動かなくては、俺は弱いままだ。


 でも、なんと言えばいいのか。この感情は。

 家族が危機に瀕しているというのに、何故か気分が高揚するこの感情は。


 少しでも人間と交わると、裏切りという言葉が鎌首をもたげ、俺の首を狙っているというのに、俺自身もスキルに頼りっきりだと言うのに。


 ああ、もっと、もっと知りたい。この疼く感情が何なのか。この眼の前の、俺に関わること全部!全て知り尽くしたい!



 この城はどうやって作られたのか?


 そもそも創造神とは誰なんだ?


 なんで龍族は2000年しか生きられないのか?


 龍族以外の魔族は何がいるのか?



 ああ、なんだ。知らないことだらけじゃないか。

 俺、折角転生したんだろ?


 ここで何も探さず、何もせず、ただ朽ちていく人生なんておもんないだけだろ!



 俺は師匠アラステアに師事する決心をした。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 俺達は今、盛大なお見送りを送られながら、タイトン城を後にする。


 目指すはブルガンディ地方。俺達は故郷の救済に出発する。

 俺達を乗せる馬車列は、軍の至る所に散りばめられている。


 準男爵や子爵、伯爵が全員馬車に乗ることで、総大将の馬車を隠すことができるのだ。


 もちろんティルス組も馬車だ。

 ちくしょう俺以外で修学旅行の新幹線気分を味わってるんだろうな。


 あ、いやでも故郷が攻撃されてるからそんな考えは出ないな。


 俺がどれだけ卑屈な考え方をしているかを嫌と言うほど思い知らされるな。

 普通の人間ならこんな考え方は出ないだろうしな。



 さてと・・・

「なぜ俺はアラステア様と同じ馬車なのでしょうか?」

「気にするな。ハゲるぞ」


 ええ・・・


「冗談だ。お前は私の弟子となった。お前が私からこの世の理について師事を受ける時間は残り少ない。効率よく知識の継承をするには馬車の中でも勉強する必要があったのだよ。大丈夫だ。酔わないようにはなっているし、お手洗いもこの馬車の後方にある。頼む、俺の講義を受けてくれ」


 あー、なんだろう。休日に競馬に行くことを許可してもらう父親が思い浮かぶな。

 なんで競馬なんだろう。


 あ、そうか、俺の前世の価値観が影響してんだろな。

 そもそも前世の俺の父親ってどんな感じなんだろ。


 あー、ほんとに競馬にかまけてるかも知んねえな。


 無責任な子作りで蒸発する親だもんな。



 まあいい、家族のためだ。

「わかりました師匠」

「師匠などと・・・」

「俺が呼びたいから呼んでるんです」

 

 だって締まり悪いんだもん。


「・・・好きにしろ」



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 こうして、アラステア塾の個別指導が開設された。

 馬車の中の世界地図が広げられた机を挟み俺達は座っている。


「さて、基本知識だが、お前は五大王の基本知識は知っているのか?」


 昨日に比べてややフランクな口調になったアラステアが俺に問う。

「はい、強さ順に並べると、師匠”狂気王”アラステア様、”太陽王”マーカス・セリコソロ、”勝利王”アントン・ジャックス・ポルワルド、”懺悔王”ゲッティンゲン・フロスト・エルマーダ、”殉教王”ベアタ・タクスト・エトフーホトですね」


「うむ。だがその一人一人の種族までは知らないだろう」

「そうですね。師匠が龍族であること以外は知らないですね」


「では分かった。”太陽王”、”勝利王”、”懺悔王”、”殉教王”はそれぞれ長耳族、人族、海月族、ワーテルワルド族だ。」

「ワーテルワルド族?」

「ワーテルワルド族とは、魚人の一種なのだ。特徴は青色の髪色で半魚人であることだ」


 ああ、半魚人か。えーと、半魚人半魚人・・・。

 そういえばたしかエレメンタリースクールの先生が半魚人だったな。

 名前なんだったっけ。


 えーと、で、で、あ、デルヘンだ!

 いやでも確かデルヘンは名字エトフーホトじゃなかったような。

 なんかワンちゃんみたいな名字だったよな。

 あ、そうそう、ワンダラッカーだっけ?

 デルヘン・ワンダラッカーか。


「あの〜つかぬことをお聞きしますが、ワンダラッカーというファミリーネームに見覚えはありませんか?」


「ワンダラッカー?どこでその名字を聞いたのだ」

「あ、えと、私のエレメンタリースクールの先生の本名が、デルヘン・ワンダラッカーです」


 俺からその話を聞くと、アラステアは目を見開く。


「それは、ティルス中心部のスクールか?」

「いや、多分郊外だと思いますよ?」

「そうか・・・」


 ブツブツとアラステアは腕を組みながら一人言を呟く。


「あの〜、ワンダラッカーというファミリーネームがなにか?」

「ワンダラッカーは先代の”殉教王”の死の後、エトフーホトと”殉教王”の座を巡って争ったワーテルワルト族の中でも有名だった家だ。結局タクスト家のエトフーホトが勝利したが、敗北したワンダラッカーと他のエトフーホトの行方は分かっていない」


 アラステアは続ける。


「もし、お前の話が本当なら、そのデルヘンとやらはワンダラッカー家の生き残りの可能性が高い。ティルスにつき次第、接触を図ろう」


「まあ話を戻す。私についてだ」


 思慮からいったん意識を引き上げ、アラステアの話に耳を傾ける。


「龍には6種の種族がある。白龍、黒龍、赤龍、緑龍、黄龍、青龍の6つで、私は黒龍だ」


 そりゃ黒龍でしょうね。髪黒色だし。

 でもなんでそんな分かりきった話をするんだ?


「端的に言う。お前はこれから黄龍黄龍の源流種を殺さなければならない」

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