22 均衡

改題しました。だって無双してないんだもん。 




そんなこんなで一年生は修了。俺達は春休みになった。


 二ヶ月ほど前、ダン達にも会った、ダンとエリナはなんと妹たちを連れてきてくれていた。

 珍しく爺ちゃんまで繰り出してきていた。

 妹や弟はまだ二歳のおこちゃまだったが、良く俺に懐いてくれていた。

 久しぶりに家族団らんを楽しんだ。



 あいも変わらず俺達ティルス組の悪評は消えない。

 裏でゲオルグが暗躍しているのかは知らないが、俺達のダンジョン攻略についての悪い噂が耐えない。


 他人の魔石を奪って納品しただの、虚偽の報告でギルド員を困らせただの。

 根も葉もない噂が広まっている。


 はっきりいって子供だましだ。

 だがそれにトマーゾが乗っかっているのが厄介なのだ。


 トマーゾはどうやら現三頭議長の次男坊らしい。

 そいつが実しやかに囁くのだから、俺達よりもそっちの方が信用されるに決まっている。


 最も俺達にはノーダメージだし、俺の周りの一年生もそれがただの嘘で、トマーゾが気を良くしたいだけの妄言でしか無いことが分かっているのだが。


 前世でもあったが、負け惜しみを自分が負けた分野でしか出来ないのは非常に滑稽だし、そのコミュニティの精神年齢があからさまに低いことを周りに見せつける行為に過ぎないことを俺は分かっているしな。


 ・・・まあ、前世の俺が負け惜しみをほぼしなかったから、今の俺があるわけだ。

 人生において無駄なものなんてなにもないってことだな。



「さて、ダンジョン行きますか!」


 冬の寒さもなんのその。いつもと変わらない薄い服装のストマックが元気に声を張り上げる。

 龍ってつくづく羨ましい。



 俺達は南のダンジョンの中層階に早速潜入した。

「よし!陣形を崩さずにそのまま突破するぞ!」


 俺達の陣形は


  エドワード アデレード

 ストマック    ジェイダ  

 ルイ ヘルマンダ   エリ

     俺


 防御戦士が敵の攻撃をいなし、エリとストマックの攻撃魔術で敵を攻撃し、俺とジェイダが仕留める。

 敢えて位置を前後していることにより、様々な斜線から敵を攻撃できる。

 この陣形のウィークポイントは後ろにある。

 前は突撃陣形だが、後ろが潰れているため、後ろからの波状攻撃には耐えきれない。


 この陣形は魚鱗の陣という超攻撃陣形で、日本の戦国時代に使用された戦法だ。

 中学時代の俺は本と勉強の虫だったし、図書館においてある日本の戦国時代を扱う本には必ず乗っているほど有名な陣である(俺調べ)

 前方からへ繰り出す攻撃をするのには好都合な陣形だが、三角形の潰れた後ろを突かれると簡単に崩壊してしまう。


 本来なら後ろが崖などの障害物であることや城攻めなど、後ろを突かれることのない環境でしか使用することができない。


 だが、後衛に俺を置くことでその問題は全て解決する。


 近づいてくる魔力に対しては俺一人で十分だ。常に足止めの為の罠魔法陣を後ろに展開している。

 敵は基本ほぼ全て屠っているし、俺がこのパーティメンバーの中で一番強いのだから、取り敢えずはこの陣形が最強なのだ。


 もっとも俺にも倒しようのない魔物が来た時点でおしまいだが。

 そんなこんなで俺達はいつもどおり魔物を討伐し、帰宅の道についた。


 食堂でご飯を食べ、寮に帰る。


 そして寝る前に勉強をして寝る。


 そんな普通な生活。

 これがずっと続いていけばいいなと思っていたのに。


 生きとし生けるものはいずれその姿を失う。

 この世に生きるものの、唯一の絶対の法則。


 儚くも”永遠”は俺の前から姿を消す。




 ドンドンドンドン



 みんなが寝静まった寮のドアを叩く音がする。



 んだよ。こっちは気持ちよく寝てんだぞ。


 俺はドアを開ける。

 するとそこには俺の顔見知りのティルス騎士団の兵卒が血相を変えて俺に跪いた。


「どうしたんだこんな夜遅くに」

「か、カイ様!ぶ、ブルガンディが・・・」

「どうしたんだ。ゆっくり喋れよ」

「ぶ、ブルガンディ地方にソゼウ王国が停戦協定を破り侵攻を開始!地方都ティルスは陥落間近です!」



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 俺達は急いで女子寮に同伴していた女性魔導士に伝言を頼みティルスの女性陣も呼び出し、男子寮のリビングにストマックを除いた全員が集合する。


「おいおいどういうことだよ!オルタンとソゼウは停戦していたんじゃなかったのかよ!」

 夜分にも関わらずエドワードが叫ぶ。

「ええ、でも妙ね・・・。何故このタイミングで停戦協定を破るのか・・・」

 ジェイダが不思議そうに呟く。


「と、取り敢えず私達もティルスに戻って戦わないと・・・」

 エリが泣きそうな声で言う。


 そうなのだ。基本この世界で働けるのは9歳から。

 例え軍とはいえ、10歳ともなると流石に出なければならない。


 俺達は将来を嘱望されてティルスから送り出されてきたし、何より俺はティルスの将来の領主であり、現領主の孫だ。


 俺が尻すぼみだと他の領民に示しがつかない。


「よし、俺はティルスに帰る。お前らは好きに決めてくれ。無理やり付いてこいとは言わない」


 俺は椅子から立ち上がり、自分の部屋に向かって歩き出す。


「出発は明日の朝。集合場所はこのリビングだ。ニーカさんは明日の朝、来たいといった女子たちを護衛しながらここに連れてきてくれ」


「以上だ!装備はダンジョン用のやつで構わないし、正装で来る必要もない。では解散!」


 いったん解散を掛けて俺が二階に上がろうとすると、リビングのドアが開く。

「カイ。少し話がある」

 ストマックがつかれた顔で俺に歩み寄り、告げる。


「2人で話がしたい。外に出てきてくれ」



 俺とストマックは談話室からでると、ストマックが見たこともない真剣な顔で話そうとするので、思わず笑けそうになる。

「ッ〜ククッ」

「おい、なんだよ。真面目な話をしようとしているのに」

「いや、すまん。真面目なお前なんか初めてみたからつい・・・」

「今回の首都のタイトン共和国軍の本軍のティルス遠征が議会で承認され、三頭議長が執行命令を出した。」


 ちゃんと真面目な報告じゃん!

 俺も真面目になる。


「魔導団と騎士団からそれぞれ5万ずつ。大規模な軍隊だ。それぞれ精鋭の”餓狼大隊”と”賢狼大隊”が本陣を司り、総大将は俺の父、アラステア・ジルス・グラックス大公」


 矢継ぎ早にストマックは続ける。


 おいおいマジかよ。タイトン共和国は完全に今回の戦争を口実にソゼウ王国を取り込む気じゃねえか。


 唯の戦争ならもっと別の指揮官を総大将にするだろう。

 でもそれが今回は国内でも重鎮、長老の”狂気王”アラステアだ。

 圧倒的な知名度と頭脳を持つ、さらに古のタイトン王家の血筋であることを表す、”公爵家”のアラステアを派遣するということは、明らかにソゼウ王国に攻め込み、そのままアラステアに統治してもらうという野心の現れである。


「そして俺は秘密裏にグラックス公爵家を既に継いでいる。先程叙爵された。これがどういう意味かわかるか?」


「俺の父さんは俺達が18歳になる頃に死ぬんだ。これは龍の掟で、龍は必ず2000年しか生きることが出来ないという縛りによるものだ。俺の父さんは恐らく、今回の侵略戦争を最期の仕事だと考えている」


 アラステアは一呼吸をおく。


「父さんは参謀にお前を指名した。カイ。俺の父さんの最期の雄姿を、見届けてはくれないだろうか」

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