20 固有魔術と俺とスキルと俺とデートと母と俺

 俺は寮に帰ってから早速試し打ち場に向かった。


 そこで俺は的に向かって杖を向ける。


 というのも俺は冒険者カードで気になる文面を発見した。


 このカードもストマックの父さんの”狂気王”アラステア・ジルス・グラックスが発明したものだ。

 伝承によれば、他の五大王による要請で、大王同士の格付けをするためにアラステアが自ら開発したそうだ。


 世界最強の生物と言われ、五大王の中でも最強のアラステアだが、それ以外の五大王の序列は決まっていなかったので、他の五大王による争いが絶えなかった。よって、序列を決めるためにエルフの技術を活用して、エルフしか見えない魔法光線を加工し、人族でもステータスが見えるようになったのだ。


 これはアラステアの3大発明の内の一つである。

 隠された血筋によるスキルや自分しか使えない固有呪文を見つけ出せる、とても画期的な。


 残りの2つは、魔法陣結界と、風魔法の開発だ。


 そのどれも、俺達が日常的に使っている。

 アラステアは本当に人族の生活を一変させた偉大な龍なのだ。


 それを父に持つストマックの苦労がよく分かる。

 アラステアは強すぎるので龍族の呪いによって自分の名前を隠す必要の無い、”無敗の生物”だ。


 その息子なのだからさぞプレッシャーだろう。



 まあそんなことは置いておいて、カードに書いてある固有魔術と俺のスキルの欄だ。


 カードには、


 スキル 魔法力マジックパワー感知センサー 無詠唱速読魔法ファストマジック 身体ダイナマイト強化フィジカルEX 指揮者マエストロ


 それと


 固有呪文 裁きのライトニングオブ稲妻ジャッジメント 天の怒りヘブンズワース


 と書いてあった。

 これがもし本当なら、とんでもない力が俺にあるってことだ。


 正直雲を掴むような感覚がする。

 本当に俺にそんな力が?


 今、俺には割と性能のいい杖がある。

 杖なんぞ俺が魔法を発動するのには必要ないが、魔力を制御し、精密に目標に向けるのには優れている。


 ということで早速バカ広い学校の中にある野外の試し打ち場で試し打ちをすることにした。

 まずは固有魔術。そう、固有魔術。


 本で読んだ知識が正しければ、固有呪文は一人に2つ、生まれながらについてくる。

 そして固有魔術に同じものはなく、唯一人しか所有できないが、固有魔術自体は所持者が死亡した後に生まれてきた子供にランダムで付与されるものらしい。


 要するに、俺だけの、お一人様専用の魔術だ!


 よっしゃ!俺の、俺だけの魔術を、とくと見よ!


「”裁きの稲妻”!」


 あれ?


「”裁きの稲妻”!」


 ・・・・


 あれ?

 発動しない。

 魔術が発現する魔法則の条件を満たしていないのか?じゃあどこで使えるんだ?


 まあいい。次だ次。


「”天の怒り”!」


 ほわわわわわーん


 俺が念の為唱えると、俺の周りを光が包みだした。

 うわなんだこの音、すげえなんか、癒やされると言うか、こう包容力があると言うか・・・。


「おい!こんな時間にお呼び出しってどういうことだよ!」

「うおっ!」


 音に包まれてボケっとしていた俺は急に話しかけられる。


「だ、誰?」


 俺は困惑することしか出来ない。

 俺の視線の先は空中に向いている。


 そこに浮遊するのは、神官の装飾をそのまま黒くしたような服を着る、オレンジ色のたてがみみたいな髪と、金色の瞳孔を持ち、俺と同じぐらいの男の子。頭には金色の環がある。


「あれ?俺のこと知らないの?」

「うん。知らないね」


 そいつは首をかしげて俺に聞く。

 くっそ美少年じゃねえか。羨ましいな。


「え?そんなら帰って良い?眠いんだけど」

「い、いいよ」

「おっけー。そんじゃまたねー」

「ま、またねー」


 ほわわわわわーん


 困惑する俺を尻目にそいつは帰っていった。


 ・・・


 いや誰だよ!

 え?え?え?

 ホントにどちら様?俺知らないよアンタのこと。

 なんでそんなに馴れ馴れしいの?初対面だよ?俺。


 てかオーラがなかった。オーラがない相手とは俺は付き合えない。

 何考えてるかわかんない相手と付き合うなんて無理だ。いつ裏切られるか怯えて過ごすのはゴメンだ。


 と、とりあえずこれは迂闊に使用しないほうが良さそうだな・・・。


 まあ、ということで俺の固有呪文は役に立たないことがわかりました。


 次!スキル!


 俺もストマックとかルルみたいにカッコいいの使いたい!


 取り敢えず無詠唱速読と魔力感知はもういいだろう。

 問題は身体強化と・・・なんだコレ?まえすとろ指揮者

 まあ良い!使ってみよう!


「スキル!”身体強化EX”!」


 あれ?何も変わらないぞ?

 そう思って俺は一歩踏み出してみた。


 ベキッ


 俺はその驚異的な一歩で、的を破壊し、建物の壁を突き抜けていた。

 あー、これは不味いな。板で隠しとこ。的は勝手に復活するからいいや。


 よいしょ、よいしょ。


 ふう。


 いやいやいやいや!

 は?

 聞いてないよこんなの!身体強化されすぎだって。

 精々呪文と魔法陣で強化するよりちょっと効果が上なのかなーって思ってたのに。

 この惨状はもう使えんやん。制御できんやん・・・。


 次!マエストロ!


「スキル!”指揮者”!」


 あれ?発動しないな


「スキル!”指揮者”!」


 うーん、発動しない・・・。

 もしかして指揮者って、なにかを指揮するんでは?

 うーんとマエストロマエストロ・・・。


 あ!確かサッカーで見たことあるぞ!俺が子どものころの選手が確かマエストロって呼ばれていたっけ・・・。

 名前は忘れたけど、ちょっとサッカー好きだったから覚えてんだよな。ピッチ上の指揮者って呼ばれていたっけ。


 じゃあこれは誰かに命令するためのスキルなのか。よく覚えておこう。



 さて、使えるスキルも固有呪文も何もなかったな!寝よう!



 俺はその夜、枕を涙で濡らした。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



「あら!なんなのその服!もっとおめかししてきなさいよ!」

「仕方ないじゃないですか。これしかなかったんですよ!」


 放課後、俺は噴水の前でエリナと待ち合わせしたのだが・・・。


 エリナはめちゃくちゃ気合を入れてきていた。

 メイクは薄いが、服装はバッチリ決めている。

 白いコートに下は水色のスカートで、その年齢錯誤フェイスと合わさってとても清楚な仕上がりになっている。


 対して俺は、全身真っ黒!


 だってこれしか無いんだもん!


「貴方ね・・・これでエリちゃんともデートに行く気?折角素材は良いのに勿体ないわ!よし、今日はこの私が見繕ってあげるわ!」

「いや、いいですよお金も勿体ないし。それになんで勝手にエリとデートに行くことになってるんですか」

「よし!ついてきなさい!」

「いや、その・・」

「返事はハイ!」

「え、いや」

「返事はハイ!」

「ハイ!」


 こうして俺と母のコーディネートデートが始まった。

 俺はまだ9歳で成長し続けているので、折角買っても使うことがあるのか聞いたのだが・・・。


「大丈夫よ!女の勘を信じなさい!」


 だとよ。なーにが女の勘だ!クソ食らえだ!着せ替え人形になる男の気持ちも分かれ!

 ・・・まあ前世では経験出来なかったことだしこれはこれでありと思っている自分もいるが。


「さあ!これを着てみて!」

「あら〜お姉様。中々良いセンスをお持ちのようですわね〜。こちらのコートですとこちらのパンツと合わせるとよりスタイリッシュになりますね!どうですか?」

「あら〜良いわね!これでいきましょう!」


 割と高級そうな服屋に入った俺は店員さんに捕まり、絶賛着せ替え人形になっているのだ。

 やめろよその乙女のキラキラ笑顔。店員さんもキラキラしちゃってるじゃん!


「では、こちらを着てみてください」

 そうして俺は服を一式渡される。


「わかりましたわかりましたすぐ着ます・・・」

 そうして俺は子供用のコートとジーンズに白いシャツをあわせる。


「まあ!イケメンだわ!あー、でもこうしてこうして前髪も整えて・・・」

「まあ!とても可愛らしくなりましたわ!」

「でしょでしょ?イケメンでしょー!」


 そういって女性陣ははしゃぎまくる。


「まあデート用は一式だけでいいわね〜じゃあ店員さん。これ買います!」

「わかりました。お会計はこちらになります!ちょっと貴方!この方をお会計へ!」

「了解しました!」


 そういってエリナは別の店員さんに連れて行かれ、俺はさっきまでエリナとはしゃいでいたショートカットの店員さんと二人きりになった。


「いいお姉様をお持ちですね♪」

 そういって店員さんは俺にニッコニコで言う。


「まあそうですね。良い母さんですよ。俺には勿体ないぐらいのね」

 俺は自嘲を込めて店員さんに言う。


 そう、勿体ない。これは事実だ。こんなに無愛想で息子らしくもない息子なんて嫌だっただろう。もっと積極的に構って欲しいアピールをする子のほうがエリナにはお似合い・・・というか、エリナは好きだろう。


 そもそも幼少期の記憶が俺にはほとんど無い。それほど家族に無関心だったからな。


「あらあらお母様なんて御冗談を〜」

「いやいや本当に母さんなんですよあれは」

「ウフフフフ♪。もう反抗期ですか〜いけませんね〜」


 あーもう、腹立つ。


「よしカイ!会計終わったわよ!」

 俺がムカムカしているとエリナが買い物袋を携えて帰ってきた。


「貴方もありがとうね〜お陰でウチの息子もイケメンになったわ〜」

「え?息子?」

「あら?そうよ?この子は私の息子よ?」


 そういってエリナは店員さんに笑いかけるが・・・目が笑っていない。あれ?俺なんかやった?


「あ、いや、その、てっきりお姉様かと・・・」

「あら?」


 その言葉を聞いたエリナはまた喜のオーラを放つ。


「だってとてもお綺麗ですし・・・」

「そ、そうよね!よく言われるのよ!」


 ふう。なんでこんなに元気なんだ・・・。



 そんなこんなですっかり夕暮れ。

「今日はどっか適当にご飯済ますわよ!」

「適当はやめてくださいよ適当は」

「冗談よ」


 俺はエリナに連れられ店に入り、肉の炒め物を注文して席につく。


 じーーっ


 席につくなり、そんな効果音がつきそうなほど、エリナは俺のことを見つめている。


「ど、どうかしましたか?顔になにかついてますか?」

「ついてないわよ?」


 じーーっ


「そ、その、弟と妹は元気ですか?」

「元気よ?」


 じーーっ


「父さんは?」

「元気よ?}

「里のみんなは?」

「元気よ?」

「爺様は?」

「元気よ?」


 じーーっ


「あ、あの、ホントになにか付いてるんだったら言ってくださいね!」


 そう、俺が言うと、エリナは急に俺の頭を優しく撫で始める。

「え、えと、あの・・・」


「あなた、学校で結構派手にやってるそうじゃない」


「はうっ!」

 いきなり痛いとこやめて・・。


「いや、それは・・・その・・・」

「わかっているわ。貴方のことなんですもの。友達やエリちゃんを守ってのことでしょう?」


 お見通しってか?


「え、えと、はい」

「いい子ね。私は貴方のことを誇りに思うわ」


 そういって、俺の頬をちょっとつまみ、エリナは続ける。


「本当にいい子ね。こんなガサツな私の息子には勿体ないぐらいだわ」

「いえ!それは違います!」


 自分でも驚くぐらい大声になった俺にエリナはびっくりするが、構わず進める。


「俺こそこんな偉大な両親には勿体ない息子です!無愛想ですし、敬語ですし、勝手にバイトするし・・・」

「最期のバイト?が何なのかはわからないけど、ただ一つ言えることは、貴方は優しい男の子だってことよ」


 俺が優しい?


 冗談じゃない。


 前世での俺の職業は傭兵。人殺しだぞ?人殺してなんの良心が咎めないただの殺戮兵器だぞ?

 ありえない。そんな優しかったら今頃友達100人はいるわ。


「俺は・・・そんなに優しくないと思います」

「どうして?」

 エリナは不思議そうに首を傾げる。


「だって、無愛想ですし、簡単に建物壊しますし・・・」

「そうやって素直に言えるところが、やさしいのよ」


 エリナは俺の目を真っ直ぐ見る。

「きっとあの子もそんな貴方に惚れたんだと思うわ」


「そう・・ですか・・・」

「うん。絶対にそうよ。あー、まあでも、イケメンもちょっとはあるかもね?」


 そういっていたずらっぽくエリナは指を唇に当て、笑う。


「少し触らせて?」


 おもむろにエリナは俺の頬を触る。

 少しくずぐったい。


「学校で不安はない?」

「今のところは、ない、ですけど・・・。偶に上級生に絡まれますね・・・」

「それはきっと貴方の血筋と才能が憎いのよ」


 血筋?


「なぜ俺の血筋が?」

「貴方のおじいさんは前々三頭議長だからよ」

「え?そうだったんですか!?」

「そうよ」


 へえ〜だからあんなに家の装飾は豪華なのか。


「まあ、血筋もあるけど、大方貴方の実力が憎いのよ。きっとそういってくる奴らは大した努力もしてないわ!蹴散らして黙らせなさい!」

「わ、わかりました」


 そういって俺は微笑む。


「いい子ね」

 そういうとエリナは俺のおでこにキスをする。


「貴方はきっと大丈夫よ・・・」

「はい」

「・・・また貴方とあえなくなるのね。寂しくなるわ」

「定期的に手紙は出しますよ」

「そうね。そうして頂戴・・。さて、そろそろでましょうか」


 俺はエリナに連れ立たれ、校門の前まで帰る。

「じゃあね。カイ。いい子にしているのよ?」

「はい!・・・。あの、次王都に来られるのはいつになりますか?」

「そうね・・・多分次は半年後ね!その時はダンも一緒よ!」

「じゃあ、その時は俺にちゃんと知らせてくれますか?」


 そういうとエリナは破顔して答える。


「もちろん!楽しみにしているわ!」

「わかりました。母さんもお気をつけて!」

「ええ。でも最期に!」


 そういってエリナは腕を広げる。


「ええ・・・恥ずかしいですよこの年にもなって」

「あら?貴方はまだ9歳でしょ?それに子供は何時まで経っても子供よ?」

「仕方ないですねえ」


 俺はエリナの胸に飛び込む。母親の匂いがする。安心する。このまま眠りたい・・・。


 しかしそれは永遠には続かない。エリナは俺から離れて、言う。

「元気でいるのよ?」

「母さんも」



 手を振り、エリナと別れる。


 初めて母親と二人っきりで街を出歩くことが出来た。


 大分”愛”にも慣れてきた。次はもらった服でエリをデートにでも誘うか。でも9歳児にはハードル高いよ母さん・・・。


 そう考えながら俺は眠りについた。


 多分眠りに就いているときの俺はとてもいい顔をしていたと思う。

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