19 エリナin 首都

「え?お母様なのですか?てっきりお姉様かカイの恋人かと・・・」

 ルイがびっくりして聞いた。


「そうよ〜♡よ〜」

 それを聞いてあからさまにエリナは機嫌を良くする。オーラもピンク色だ。


 まあ実の息子(?)である俺もそれについては認める。明らかにエリナは若すぎる。アラサーとは思えない。どう考えても高校生ぐらいの年齢に見えるよな。


 これで騎士団所属なんだからギャップ萌えだろうな。


 俺は萌えないけど。


「さてと、エリちゃん?」

「は、はい!なんでしょうかさま!」

「た〜っぷりとカイについてのお話を伺ってもいいかしら〜」


 ヒエッ。回避回避!


「えーと、母さんがでてきたってことはダンジョンのメンテナンスは終わったんですか?」

「ああ、今終わったわよ!」

「じゃ、じゃあみんなレッツゴー!!!」


 そういって俺は強引にダンジョンに入ろうとする。


「あら、これからダンジョン探索?いいわ!私もついていくわ!」


 げげっ。まずい!


「僕たちはパーティメンバーなので・・・」

「あら、忘れたの?私は騎士爵よ?」


 あ。


「いや、しかしその・・・」

「エリちゃん?私とダンジョン探索したい?」

「もちろんです!お義母さま♡」


 そういって俺とエリナの方を向いたエリはココぞとばかりに満面の笑顔を向ける。が、俺の方に向いた目は笑っていない。


 お、オーラからどことなく圧力を感じる・・・。


「おいおい〜お母さんと一緒に行きたくないのか?親不孝な子供だな〜」

 エドワードが俺に言う。


 いや親不孝って、あんた!俺もお前もまだ9歳になったばっかりだよ?まだ七年間ある内の一年生だよ?


 あーもう、調子狂うな・・・。


「わかりましたよ。一緒にいきましょう」



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



「スキル・”幻惑の糸”」


 シュルシュルシュルパキン!


 宝箱の蓋を糸で取り外したストマックが、箱の中身を持ち上げて言う。


「とったどーー!!!!」

「「「おー!!!!!」」」


 ダンジョンは俺達の手であっという間に踏破されてしまった。

 ココはダンジョンの3階層。取り敢えず初めての冒険者が来れるところまではきた。


 部屋のボスもジェイダの剣で瞬殺だった。

 回復魔法組は出番がなくて不満そうだった。


「で、それは何?」

「これは・・杖か?」


「どれどれ?お姉さんに見せてご覧なさい?」

 そういってエリナはストマックの手から杖をもらい、眺める。

「お、これは良いわね!ドワーフ製の金属杖ね。ビギナーズラックよ!初心者層ではかなり高レベルの代物ね!まあ低階層だから素材は鋼だけどかなり常態も良さそうね!」


 そういうとエリナは杖を軽く振る。


 どおおおん!


 炎の弾がエリナの目線の先に叩きつけられる。

「わあ!」


 女性陣から歓声が上がる。

「カイのお母さんって騎士団なのに攻撃魔法も使えるのね!」

 アデレードが目をキラキラさせながらエリナに言う。


「そうよ〜お姉さん騎士団だけど魔法にも自信があるの」


 そうしてエリナは得意げな表情を作る。

 それでも流石に一人称お姉さんは痛いよ・・・。


「ドワーフの杖か・・・、珍しいな・・・。母さん。冒険者ギルドに報告すればこれは持ってかえられますか?」

「あら?持って帰りたいの?」

「はい。ちょっと気になることがあって」

 そういうとエリナは俺の頭を撫で始めた。

「あら〜、気になるわよね〜もうそんなお年頃よね〜。かっこいい魔術、使いたくなっちゃうわよね〜」


「ごめん、これ俺がもらっていいか?試してみたいことがあるんだ」

 俺はみんなに一応確認を取る。


「いいよ。ほぼお前とストマックの手柄だし」byエドワード

 それに皆さんが同意したので、晴れて俺は杖ゲット〜っと思ったらエリナに呼び止められました。


「あ、ちょっと待って。ドワーフ製よね?それ。ドワーフ製は厄介よ?冒険者ギルドの悪い大人があの手この手で買い取ってこようとしてくるの。それこそそこのギルドでは働けなくなっちゃうかもしれないわね・・・」

 い、いや悪い大人って・・・。

 でも事実なら厄介だぞそれは。


「・・・そこを何とかなりませんか?母さん」

「うーん、そうね。貴方が「エリナお母様。私はダンジョン踏破記念にこの杖が欲しいです」って言って、そして私が「ダメ」って言うの。それでも食い下がらないかわいいカイくんは「・・・ダメですか?」ってウルウルしながら聞いて、それで私が「しょうがないわねー」って言うから、「やったあ!お母様大好き♡」って言うっていうのをやってくれたらなんとかしてあげるわ!」


 なんだそれ!みんな見てるのにそんなことしたくないよ!

 ・・・だけどドワーフの金属杖は気になるな。


「しょうがないですね・・・。一回だけですよ・・・」


 こほん。


「え、エリナお母様・・・ボクはしょの・・ダンジョン記念にこの杖が欲しいです!」

 やっばい噛んでる!舌が回らない!

「あらー。でもダメよ〜」


 エリナがニンマリと笑う。


「そこをなん――」

「あら?」


 ふう。


「だ、ダメ・・ですか?」

「しょ、しょうがないわねー」

 そういってエリナはニッコニコの笑顔でOKを出す。


「あ、ありがとうございます!エリナお母様だ、大好きです・・・」

 俺は最期は消え入りそうになりながらも言ってのけたぞ!

 勇者だぞ!褒め称えろ!


「あら〜カイ〜私も大好きよ〜」

 そう言い終わると今度は俺に抱きついて頭をもみくちゃにし始めた。


「ちょ、母さん!みんなの前でそんな恥ずかしいことしないでよ!」

「ええ?いいでしょ〜かわいい息子がこんなに殊勝な態度でお願いをしてくれたことなんて初めて何だもの〜」


 エリナは俺をもみくちゃにする手を緩めない。

 ああ、愛が重い・・・。

 俺に注ぐ愛のオーラで貴方の顔がほとんど見えなくなっちゃってるよ。

 俺は女性陣の歓声と男性陣の好奇の目に焼かれつつ、俺から離れないエリナをなんとかいなしてダンジョンから脱出したのだった。



「なんでダンジョンをメンテナンスなんかしていたのですか?」


 ギルドへの帰り際、俺はエリナに聞く。


「聞きたいの?」

「はい」

「ダメよ〜」


 そういってまたエリナはニンマリと笑う。


「そこをなん――」

「あら?」


 ふう。よっしゃ腹たってきた。


「・・・ダメですか?」

「もう!仕方無いわねーー!」


 そういってまた俺をもみくちゃにする。

 ティルスで小学校入学前の俺もこんな感じだったなあそういや。忘れてたけど。


 きっとその思い出を忘れていたのは俺が家族愛を忘れていたからだろう。


 二度目のチャンスなんだからもっと、俺の前世の”忘れ物”を取り戻しに行かなくちゃな。


「あの中で強い魔物が湧いたからよ。偶に起こるのよ。低階層でありえないぐらい強い魔物が湧くこと」


 へー。そんなこと起こるんだ。魔王ぐらい湧くのかな。そんなことないか。


「んで、ちょうど私、自治区が持ち回りで派遣する首都防衛隊の持ち回りの登板で偶々王都にいたの、それで依頼されたから行ったわけ。大変だったわー。まさか大鬼オーガとは思わないもの」


「それは・・・。でもこっちに来ていたのなら俺に一言ぐらいあっても良かったんじゃないですか?」

「うーん。それも考えたんだけどねー。やっぱり勉強の邪魔になったり、ティルスが懐かしく感じちゃうかもしれないからやめとこうかなーって思っていたの」


「じゃあなんでダンジョンの前にいた俺に抱きついて来たんですか」

「えー、だって我慢できないじゃなーい」


 その程度で揺れる覚悟なんて今すぐ捨てちまえ。元傭兵からのアドバイスだ。


「まあ次からはちゃんと言ってくださいね?絶対に時間作りますし」

「良いの?」

「もちろん!なんなら明日とかどうです?母さんと首都デートしましょうよ!」

「まあカイったら。女泣かせね!いいに決まってるわ!」


 そういってまた俺はもみくちゃにされた。


「・・・お義母さんだけずるい・・・」

 後ろからなにか聞こえたような気がした。



「ねえ?今回息子がどーうしても欲しがっているの。それでも買い取らなくちゃダメなの?」


 そういって微笑みながら、俺の持つ杖を無理やり買い取ろうとしたギルド員を脅す母。

 目は笑っていない。

 やはり美人が怒ると怖い。


「すすすすすいません!!!わかりました!どうぞご自由に!」

「あと言っておくけど私の息子とその友達に無礼なことを働いたら私が許さないから覚えておいてくださいね?まあ息子は貴族ですし、私も貴族夫人なのでどうとでもできるのをお忘れなく♡」


 その年齢錯誤フェイスからは想像できないようなセリフを堂々とギルド員にぶちまけた後、俺達の方に歩いてきて、言った。

「こんなかわいい息子だけど、自慢の息子なの。これからもどうぞよろしくね!」


 色々と間違えたセリフを言うと、エリナは扉に手を掛けて俺と向き合う。


「それじゃ。またね母さん」

「そうね。明日は何時にどこに集合するのかしら」

「うーん、そうだね・・・。貴族学校の前の噴水のところとかどうかな?」

「わかったわ!それじゃあね!体に気をつけるのよ!」


 バタン


 扉が閉じた。

「明日も会うのに何故体を気遣うのだろうか・・・」

「ねえカイくん」


「ん?」


 俺が呼ばれた方を振り返ると、俺を見上げて頬を膨らませるエリの姿があった。


「私もお義母さんみたいにしてよ!」

 そういうとエリは俺の方に頭を突き出していた。


「ハハハ、分かったよ」

 そういって俺はエリの頭を撫でてやる。


 まだ9歳なのに、ほんの少しだけ青春を感じた瞬間だった。



 因みに他のみんなは生暖かい視線を送ってきていた。

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