18 バイト
「我が学校は、貴族として上に立つ者も労働者階級の生き方を知っておいたほうが良いという観点から、仕事に就くことが認められており、今日から新入生は仕事ができるようになります。」
HRの壇上に立った先生は、俺達にそう告げる。
「やったあ!」
「何しようか?」
「俺は父さんの仕事手伝わねえと・・・」
そう、宣言されると同時に教室は歓喜の声に湧いた。
あれから半年経ったが、トマーゾの一味は接触してこない。
最初に接触したっきりだ。
なんて小心者なんだと思うところだが、まあ無理もない。
糸の中からどこかに転送されたと思われるストマックとトマーゾは、僅か数秒で帰還してきた。
帰還してきたストマックとトマーゾは対照的だった。
ストマックはいつもと同じお調子者特有の常時ドヤ顔を展開したままだったが、その顔には僅かな喜びがさしていた。
対してトマーゾはストマックの隣に帰還するなりその場に崩れ落ち、泡を吐いて意識を失った。
それを見た取り巻きたちがストマックに攻撃を開始したので、俺とティルス組で退けたのを最期に、あの一味は接触を絶ったのだった。
流石は父に”狂気王”を持つものだと感じた。恐らく転送術はアラステアの発明なんだろう。魔法発動時のストマックのオーラの変化の仕方はこれまでの人生で見た中で一番美しい物だった。
魔法を極限まで突き詰めるとこうなるのか、とまるで他人事のように感じたものだ。
にしても父嫌いといってはばからなかったストマックが珍しく殊勝な態度をとっていて気持ち悪かった。
「バイトか・・。収入と支出がちゃんと釣り合うようにしないとね・・・。これで俺は痛い目に遭ったからね・・・」
遠い昔、サッカー賭博にハマッた俺はものすごい額を溶かしたことがある。
折角転生したんだから同じミスはしない!(確信)
「ただし条件があります」
先生が続ける。
「一、仕事に就く際は学校の時間と被らないようにすること」
ふむふむ。まああたりまえだな。もっとも俺の高校ではバイトもねえのに学校の時間と被る”用事”があったやつなんて一杯いたもんだが。
「二、必ずこの学校が認めた雇用主にし、給料についての交渉は学校で先生を仲介人にして行うこと」
へえ。そんなめんどくさい手順にしてもこの学校の生徒を雇用したいと思う人がいるってことか。
まあ当然かもな。素行が良くてよく働きそうだしな。
「三、職業について記入したカードを必ず提出すること。怪我や損害を負わせたり負わされたりした場合は、スペアの職業カードから迅速に学校に連絡すること。なお冒険者に関してはこの限りではない」
「おお!冒険者!」
ルイが声を出す。
「でも冒険者はやめといたほうが良いぜ?俺達はまだ子供だし、あっこは危険すぎる」
ルイに反応した前の席の生徒がルイに諭す。
「まあ大丈夫だろ。カイもストマックもエリちゃんもいるし」
エドワードがそういうと、ストマックが。
「まあ俺がいたら多分魔物は向こうから逃げていくんだけどね・・・」
と悲しそうな顔をする。
大丈夫さ。魔物は龍相手では逃げない。魔物が逃げるのは火と氷の魔術の結晶だけだ。お前ほんとに勉強してんのか。
「大丈夫だストマック。魔物はお前相手に逃げない。魔物が逃げるのは火と氷の魔術の結晶だけさ」
「え?そうなのか?俺てっきり・・・」
「てなワケで俺達のバイトは冒険者でいいか?」
俺がティルス組に確認を取る。
「バイト?なあに?それ?」
ジェイダが不思議そうに顔を傾げる。
しまった!前世のクセで・・・。
「仕事のことだよ」
俺は冷静風を装って返答する。
「冒険者!良いわね!」
アデレードも同意。
「どうする?エリちゃん?私はエリちゃんの意見が聞きたいな!」
エルマンダがエリに質問する。
「うーん、冒険者・・・ちょっと・・・怖い・・・」
エリが涙目になりながら言う。
おおん。破壊力が凄まじいねェ。美少女の涙目ってのはサァ。
おじちゃんいつもの強気な態度からのギャップで萌え萌えしちゃうワ♡。
「てかアデレードはもう血を見ても大丈夫なのか?」
俺が質問する。
アデレードは一回ゴブリンの血を見てホームシックになった。
「ええ!もう大丈夫よ!王都に住んでる親戚に沢山見せてもらったもの!」
そういってアデレードはドラキュラみたいな笑い方をする。
ヒエッ。エリで興奮した分を返してくれ今すぐ。
「カイくん・・・」
「ん?」
俺がそういって振り向くと上目遣いで俺を見上げるエリの姿があった。
「カイくんなら私を守ってくれる?」
「ああ、当たり前だ」
俺は間髪入れずに答えた。
「やったあ!ありがとう!」
そういって屈託のない満面の笑みで笑うエリ。
俺はその姿に見惚れてしまっていた。
もうロリコンでもいいかもしれない。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
俺達は放課後、早速冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドは街の中心にある。
魔物から採れる魔石を取り扱う公的な組織で、この世界の約7割の国が加盟しており、魔石を全世界に融通する役割がある。
魔石は魔道具を作る原料となり、杖など魔法関係の品のほぼ全てに使用する超貴重資源だ。
元の世界で言う石油資源のような物だろう。
ダンジョンでは魔石以外にも貴重な資源が沢山採れるので、国ではない第三者が管理をしているのだ。
ダンジョンの争奪で起こった世界大戦もあったようだし、ギルドの果たす仕事は計り知れない。
「えーと、あなた達が新しい冒険者候補・・・の方々ですか?」
そういって受付のきれいなお姉さんが俺達に聞く。
「はい」
俺が小さく頷く。
「おいおいおいおいおいこんなちっちゃいガキが冒険者だってよ。お前ら!信じられるか?」
「ココは小学校じゃないぜ?」
後ろにいた先輩冒険者達が茶々を入れてくる。
「あ!貴族学校の方だったんですね?失礼しました!王都近郊のダンジョンについて説明いたします!」
俺達の学生証を確認したギルド組合員がそう言うと、周りは静まり還った。
それもそのはず。俺達は貴族なのだ。
この学校に入学した時点で準男爵の称号が与えられる。
それに逆らったり変な態度を取ったりするのは完全な国家反逆罪である。
「おいおいあの坊っちゃんいいとこらしいぜ?」
「だから言ったじゃねえか!ああいうガキにはちゃんと接しないとダメだってさ」
「ちゃんとどころじゃねえよ下手すりゃ死刑だぜ?」
後ろが騒がしいな。
「それで、冒険者になるためには何をすれば良いのでしょうか?」
ルイが聞く。
それを聞いて少し赤くなった受付嬢があたふたして答える。
「え、えと、こちらのエルフ印の冒険者カードに情報の記入をお願いします!」
そういって渡されたカードに手をかざすと、情報が浮かび上がる。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
《解析結果》
個体名 カイ=ブラッドリー
評価 S
スキル
適正役職 パーティリーダー(C) 魔術師(遊撃)
固有呪文
総合魔力 ----
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「こ、これは?」
俺の聞いたことのない文字列の羅列に俺は目を丸くする。
「な、な、な・・・・」
お、おや?受付嬢の様子が・・・。
「なんですかこれはーーーーーーーーーーー!」
受付嬢が大声を出して卒倒してしまった。
「え?ちょ?大丈夫?」
エドワードが困惑する。
「う、嘘ですよね?」
「いや、見てくださいよ」
「あ、ホントなんですね、へえ〜」
ノックアウトから復活した受付嬢が俺のカードを見てぶどうみたいな顔色をして呟く。
「いやでも、魔力量カンストは見たこと無いですね。へえ〜こんなことになるんですねカンストって」
興味深そうに俺のカードを見る受付嬢に、ストマックが話しかける。
「俺のカードもカイみたいになってるんだけど、これもカンスト?」
「へ?」
受付嬢の本日二回目の卒倒で現場は騒然となった。
「まあ、流石にカンストは二人だけでしたね・・・」
ぷしゅ〜みたいな効果音が出ていそうな受付嬢は、俺達全員のカードを確認し終わったあと、そう呟くと椅子にへたり込んだ。
俺はストマックのカードを盗み見ようとしたが、どうやらそれができるのはギルドの中でただ一人らしい。
俺以外のティルス組はもれなく全員優秀だったらしいのだが、まあそれは貴族なら当然だろう。
俺とストマックだけが異常らしい。
小学校のときだけでも俺達についてこられたエリは本当に称賛に値するだろう。
「・・・では、パーティの役職決めをお願いいたします」
パーティは6人から9人で組むダンジョン冒険部隊のことだ。
役職は回復魔術師、攻撃魔術師、
俺達はそれぞれ得意な役についた。
ルイとヘルマンダが回復魔術師
エリが攻撃魔術師
エドワードとアデレードが防御戦士
ジェイダが攻撃戦士
ストマックが盗賊
俺がパーティリーダーだ
何故かストマックがシーフだが、本人曰くやってみたいとのこと。
そして俺のパーティリーダーとは、パーティの責任者で、遊撃だ。
魔術と剣術の両方が得意である必要があり、基本は味方のウィークポイントを埋めつつ、戦術的な指示を送る。
傭兵時代と変わらない。これなら上手く出来そうだ。
「わかりました。では、今日行くダンジョンはどちらになさいますか?」
受付嬢は俺達に地図を広げて説明を開始する。
「最近、”創造神の気まぐれ”が発生した箇所がいくつかあります」
”創造神の気まぐれ”か。
”創造神の気まぐれ”とは、新しくダンジョンが出現することだ。
存命だった創造神というこの世界の創始者が気まぐれでダンジョンを創出したことに由来するらしい。
王都近郊の大型のダンジョンは4つ。
それぞれ王都からの方角で名前がつけられており、最近見つかり、王都近郊のダンジョンで一番大きいと考えられているのが「南のダンジョン」。
今、南のダンジョンは冒険者で溢れており、功を立てるのには向いていないが、初心者がキャリーされるのにはもってこいの場所らしい。
「・・・ということで、私からは南のダンジョンをオススメします!」
「全員で全部のダンジョンを手分けして回ろう!」
「いえ、ギルドの認可を満たしていない方はパーティメンバー意外と個別にダンジョンを巡ることは禁止となっております」
ストマックが元気よく言った言葉は簡単にかわされてしまった。
「はーい先生!認可とはなんでしょうか?」
ジェイダが手をあげて質問する。
「あ、認可ですか。まず魔術師はギルド加盟国で魔導爵に列せられていることで、戦士は騎士爵に列せられていることが条件です」
ちゃんと仕事として魔導士か騎士である必要があるということか。
「あとパーティリーダーもこれに同じで他に特別な事情がない限りは、魔導爵か騎士爵である必要がありますね」
なるほどね。
俺も将来はティルス騎士団かティルス魔導団で働くことになりそうだし、単独ダンジョン潜入も夢じゃないってことか。
「ただ特殊なのがシーフで、シーフはギルドに雇われていることが条件となります」
雇われる?
「要するに職業盗賊です。俗に言う”怪盗”ですね」
え?か、か、
「怪盗ですって!?」
「へ?」
場が固まる。
「あ、失礼。少々取り乱しました」
怪盗?マジかよ!羨ましいぞ!ストマック!
いいなあ〜響きカッコいいなあ、怪盗。
「怪盗の仕事とは、主に獲得困難なダンジョン内の宝物の獲得と、ギルド加盟国以外の国から重要資源、もしくは重要な宝物を盗むことです」
え?そんな人道的とは思えないことするの?
「予告状を送りつけてギルドの存在を非加盟国、またはギルドに敵対する国にギルドの力を知らしめる役割がありますね」
へえ〜、これは興味深いことを聞いたな。
すげえグレーゾーンなような気もするがな。
「さて、説明はこれぐらいにして、行かれるダンジョンはお決めになりましたか?」
「あ、南のダンジョンでお願いします」
まあ一旦従って見るか。
「わかりました。では最期にパーティ名をお決めになってください!」
「え、パーティ名?」
お、何にしようかな〜どうせならかっこいいのに――
「”カイと愉快な仲間たち”はどうかしら!」
エリが悪魔みたいな案を出す。
「お、いいね!」
「それにしようよ!」
エリが出した案にルイとアデレードが同意する。
た、頼む、やめてくれ!
頼むからそんな顔をしてこっち見んな!
特にルイ!お前面白いからってこの名前にしようとしただろ!
「・・・、”高貴な意思”でどうだ?」
なんとストマックが案を出す。
「ストマック、お前・・・」
「なんだよ、カイ。まさか俺の考えた名前がかっこい――」
「そんな名前考えられる頭、あったんだな」
俺の言葉に、ストマック以外の全員が頷いた。
「よし、お前ら!武器は買ったか?」
「いや、俺はお前の作った武器で行くぞ!」
いや、買えよ。もしちゃんと作れてなかったらどうするつもりなんだ。
ストマックの俺を持ち上げる発言を完全にシカトして、全員を確認し終わった俺は、宣言する。
「では、これより、我が”高貴な意思”の初仕事を開始する!」
「いってらっしゃーい!」
受付嬢に見送られ、俺達はダンジョンに向かう。
ミッションは、
”洞窟内の宝箱の宝物を最低3個持ち帰る”だ。
記念すべき初ミッションだ。
絶対に成功させるぞ!
そう、思っていたのだが・・・
「「「メ、メンテナンス?」」」
「そんな!」
ダンジョンの前には”ダンジョンメンテナンス。只今ダンジョン調査中。誰も入るべからず by オルタン王国騎士団”の文字が。
「ええ〜残念〜」
「折角の初ミッションなのに〜」
「お前勝手にダンジョン入るなコラ」
「あ、ちょっと!俺はシーフだからいいだろ?」
ダンジョンに抜き足差し足立ち入ろうとしたストマックを魔法陣結界で閉じ込めつつ、俺は思う。
いやいやメンテナンスってなんだよ!!!!
なんのメンテナンスかよ!!!!!
そのツッコミは一旦心に仕舞い、埒があかないので一旦帰還することにした。
本職の方は野宿でもしてメンテナンスが終わるのを待つそうだが、俺達みたいな副業者にはちゃんと手当が出る。
また次にリベンジしよう。
「よーし、みんな帰る――」
「あら!誰かと思ったらカイじゃなーーーーーい!!!!!!!!」
後ろから声がしたかと思うと、俺はいつの間にか抱きしめられていた。
「グエッ」
「あらーカイ!こんなに大きくなっちゃって♡。ご飯はきちんと食べてるようね!」
「ちょっとカイくん!私という美少女がいながら浮気?その綺麗な女の人は誰なの?説明して!」
「ヒッ!いや、ぢがうんゲホッゲホッ!」
俺がものすごく低い声で問うエリに弁明しようとすると、後ろの人は俺から腕を素早く振りほどいて放り投げ、エリの周りを彷徨き、値踏みするように見回す。
「あはーん、カイったら!この私を差し置いて、こーんなかわいい子を彼女にしたのねー!あー、私傷ついちゃったー!やっぱりカイも若い子なのねー。」
そうしてこっちをジト目で見る女を、エリはものすごい目で睨みつける。
「ちょっと母さん、冗談はやめてよ!」
とても三児の母とは思えないプロポーションと顔を維持したままのエリナは、口に手を当て、いたずらっ子のように笑って言った。
「あはは!エリちゃん?だったっけ?始めまして・・・じゃないか。もう一回会ってるよね。まあどうでもいいけど。私の名前はエリナよ!そこのカイの母親です!」
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