9 転生、そして

「さて、ダン様とエリナ様。あなたのお子様がどれだけ残酷な死を迎えるか、楽しみですわね♪」


 そういってこっちに近寄ってくるクールビューティー。


 俺はまずベビーカーに土魔術で覆いを被せる。そして水球を作り、さらにその上から覆かぶせた。


「まずは神童様。あなたからですわ!」



 戦いが始まった。


 まずは俺の発火。


「スキル!魔力捕食マジックイーター!」


 だがその火はあっという間に吸収された。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 私は、上級貴族の末娘に産まれた。

 産まれた時から何不自由ない暮らしをしていた。


 でも、7歳の時にそれは終わりを迎えたのだ。

 国家反逆罪で父が処刑された。


 父はどうやら当時の三頭議長に逆らったらしい。それもあるまじき方法で。


 だが、そんなのを当時の私の頭で理解することは不可能だった。


 私は大変な辱めにあった。衣類を全て脱がされ、の前に引き出された。


 そして、奴隷として売られる寸前、この眼の前のガキの祖父が私を引き取った。


 その時に私は確信した。


 コイツは私の父の仇だ、と。


 理由は簡単。私は誰が誰を殺したかを確認できるスキル、「神の思し召しラボンテデディユ」を所有している。


 そしてこの爺は私の父を殺していたのだ。


 そこからの暮らしは拷問だった。


 メイド服を着せられ、その爺の息子夫婦に師事させられる。


 虫唾が走る。かつて私と同じ立場であった者が私をこき使うことに。


 何度も命令に逆らおうとした。だができなかった。この爺は私に呪いをかけていた。

 私に奴隷魔法をかけていた。これで爺の息子夫婦に危害は加えれなくなったと同時に、その夫婦の命令に義務が生じたのだ

 でも、私は我慢できていた。嫌がらせ程度なら私は呪いの効力を受けないからだ。


 それが我慢できなくなったのはこの眼の前のガキが産まれてからだ。


 このガキは産まれた時に危篤に陥ったと聞いた。

 初めての息子が産まれて数日で死んだらきっと御主人様は不幸な気持ちになるだろう。


 そう考えると笑いが止まらなかった。


 でも、そいつは危篤から回復して呑気に帰ってきた。

 のほほんと。しかも御主人様はとても幸せそう。


 許せなかった。なんで私が、私だけが、不幸になるのか。


 そう思って、奥様からガキを抱かせてもらったので、呪いをかけようとした、が、だめだった。


 私が周りを見えていなかったのだろう。


 ガキの放つ攻撃魔法を吸収はしたが、ガキはその膨大な魔力で「泣きわめく呪いアクライングクルス」を使用した。これにより、私は、、ガキが警戒している間は危害を加えられなくなった。


 それは苦痛だった。


 いつも見えないところで花瓶を割ったり、庭に野生の魔物を放ったりしていたのもできなくなった。


 人生の最大の娯楽が失われた。許せない。


 一回、試しに壁の見えないところに傷をつけてみた。


 すると全身に痛みが襲い、一ヶ月以上部屋から出られなかった。


 それ以来、そのガキから私は距離を置いていた。


 怖かった。小さい頃から達観したガキの感性と、この私を超える魔力の才能が。

 確かにお守りの途中にガキを殺すことはできたかもしれない。

 だが、今殺したところで御主人様の怒りを買って私に自殺命令がくだされるだけだ。

 私は死にたくない。


 そのガキはずっと警戒を解かなかった。家族の誰にも。学校の誰にも。この世界の誰にも警戒を怠らなかった。


 被術者の私はガキの感情が理解できるようになっていたが、これも拷問だった。


 ずっと冷たい氷を腹に当てられているような、そんな感覚。気持ち悪かった。



 だが、機会が訪れた。祭りに行って返ってくる途中のガキは、完全に警戒心が解けていた。


 チャンスだった。だから迷わずに罠を設置した。

 命令をさせないように御主人様の口を塞ぐ。

 罠の発動条件をガキが発動装置に触ることを前提としたため、直接御主人様を拘束していない私は呪いの影響を受けない。

 条件は整った。


 このガキと双子を殺し、御主人様を拘束したまま移動させ、魔物の前で捨てて、呪いを解き、晴れて自由になる。


 ガキが産まれてこないと御主人様を殺せなかったから、コイツが死ぬ間際にお礼ぐらいは言ってやるか。


 御主人様には楽しんでもらわないとね♪



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 す、スキルだって?


 スキルはごく一部の貴族の血を引くものしか扱えない。高貴で特別な魔法であると習った。


 同じスキルは二度と無い、とても貴重な物である、と。


 一回デルヘンのスキルを受けたことがある。


 デルヘンは、通常だと回復のスキルのようだが、怒っているオーラの時は毒のスキルだった。


 憎しみを全面に押し出すコイツは、俺の魔法を吸収し続ける。

 このスキルはコイツの負のスキルのようだ。

 スキルは、まとっているオーラによって変化するものと、変化しないものがある。

 俺の無詠唱は感情には関係がないが、コイツの魔法吸収は負の感情の条件下でしか発動しないようだ。


 現に、更に負の感情が強くなるルルの魔力は、俺の体ごと魔力吸収をしようとしていた。

 このままいけば、確実に負ける。


 だが俺は右手で魔術を放つ傍ら、左手で太刀を制作していた。


 硬い材質の土を、俺に扱いやすい程度に、鋭く仕上げる。

 そして魔力を打つのを中断して、作り上げた太刀に切り替える。


「あら、太刀にいたしますのね?いいですわ」


 そういうとルルは、魔法を撃ちつつ、片手のショートソードで太刀を受け流すように体制を変化させる。



 刀同士の戦いが始まる。


 俺が太刀に魔力をまとわせながら振り下ろす攻撃を、ルルは自分のショートソードで受け流しきれない。

 ルルが放つ閃光弾もカイが太刀で余裕を持って受け流す。

 徐々に後ろにルルが後退していく。

 傍から見れば、完全にカイが有利な展開だろう。


 だが、カイは自覚していた。このままでは負ける。

 カイが太刀に送り込んだ魔力は太刀を打ち込むごとにルルに吸収されているため、もうじき太刀は壊れる。

 太刀が壊れたらルルは回復した魔力でカイに最高の攻撃を叩き込むだろう。


 だが考える時間を稼ぐため、カイは攻撃をやめなかった。



 俺は振る腕を止めない。

 ルルが閃光弾を放つが、俺はそれを片手で受け止める。

 追い打ちをかけるとルルがバックステップをして一撃避け、次いで二撃目をソードで受け流す。


 バキンッ!


 太刀が壊れる。


「クソッ」


「あら、おしまいですわね。もう少し歯ごたえがあると思っていましたけど」

 そういって待ってましたと言わんばかりにルルが閃光弾を七発程俺に打ち込む。


 俺は地面に伏せて二発避けてとっさにショートソードを錬成。

 バク宙で復帰しながら三発避けると、残り二発をショートソードで受け流した。


「スキだらけですわよ?」

 ショートソードで受け流したあと、ルルを見ると、ドームの方に炎弾えんだんを放っているところだった。


 水を一気に蒸発させ、そのまま中にいる俺の弟と妹の命を奪うつもりだ。


「させるか!」

 俺はとっさにショートソードを炎弾に向け投擲とうてきする。


 ドガアン!


 凄まじい轟音が辺りに響き渡る。前庭の地面がえぐり取られていたが、ドームには届いていなかった。

 安心した。


 瞬間、俺の首筋に冷たいものが触れる。反射神経的に俺は避ける。


 ピッ


 頬に線が走る。温かいものが頬に流れる。


 ルルが俺の首筋を狙ってショートソードを繰り出したのだが、俺が間一髪で避けたのだ。


「チッ」

 ルルが舌打ちをしながら二撃目を繰り出す。

 が、俺はとっさに暴漢に絡まれた時用である護身用の携帯煙幕をばらまいたため、標的を失ったルルは煙幕外に避難する。


「クソッ。このままじゃ負けるぞ!」

 そう、つぶやいた時、俺はある景色を思い出した。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



「ケン!ここからどうするんだ!」

 同僚がが俺に話しかける。


「どうもこうもないね。殺すだけだ」

 そういって俺はチャフを炊く。チャフとは敵のミサイルを欺いて明後日の方向に飛ばすためのもので、この時は兵員輸送車へいいんゆそうしゃにミサイルが飛んできたのだ。そしてこの車両はもう危ないと判断した俺は車外に出てAK-47アサルトライフルを構えた・・・。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 これだ。魔力も剣も効かないコイツに効く、最強の一手。

 見つけてしまった。元傭兵である俺の、魔法使い狩りのためだけに産まれてきたような戦術。



 俺は、煙幕で前が見えない中、感覚を頼りに錬成を開始する。幸い煙幕内にドームも収まっているので、落ち着いて錬成をすることができる。


 親の顔より見た物(物理)を作りあげる。何回も分解して、何回も組み立てて、何回も凶器となった。人を殺す為の道具を。


 俺は、錬成した物に、錬成したマガジンを詰め込み、膝立ちをし、反動を吸収する姿勢をとりつつ、魔力感知の反応する方向に向ける。


 霧が晴れる。


 そこには、魔力吸収を展開するルルの姿があった。


「死ね」

 俺は引き金を引いた。


 AK-47から放たれた弾丸は、訓練となんら変わりなく、真っ直ぐにルルの眉間を捉えていた。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 煙幕から身を除けたルルは、勝ち誇っていた。

 もう少しで、7年も待って。眼の前のガキは死ぬ。


 そして、一生呪ってきた御主人様をぶち殺せる。


 でも、まずはコイツに命乞いさせよう。

 命乞いさせて、少しだけ出てきた希望を私自身の手で飲み干して、この哀れな少年の短い一生を終わらして差し上げましょう。


 そう考えると、勝ち誇らずにはいられなかった。



 そして、霧が晴れた。


 ガキは、膝立ちをしていた。


 そして、筒状の物を使い、遠隔魔法攻撃をしてきた。


「死ね」

 ガキは言った。


 最期の攻撃だ。だがそれも、ルルの想定の範囲内だった。


 そういうこともあろうかと、魔力吸収を常時展開していたのだ。


 そう、思っていたのに、


 反応しない。吸収してくれない。


 なぜだ。


 魔力吸収中の特別効果によって数千倍に引き伸ばした意識の中でも、その弾丸は私の方に向かってくる。


 最早避けることは不可能だった。



 キュン!



 この音と共に弾丸はルルの眉間を打ち抜き、ルルはその場に倒れ込んだ。


 遠のいていく意識の中でも、ルルは動揺が隠せなかった。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 キュン!


 甲高い音が響くと、ルルは頭からうつ伏せに倒れ、頭のあるところに血溜まりができた。


 勝った。


 AK-47から放たれた弾丸は、簡単にルルの命を奪った。


 俺は土からAK-47を作成した。AK-47は単純な銃だ。何回も分解してきた俺だからこそ、構造を全て把握して錬成することが可能だったのだ。


 そして、あえて弾丸を火薬で飛ばした。


 おそらく魔力吸収は、相手が攻撃時に使用した魔力を吸収する魔法だ。生の魔法で攻撃すると、吸収されてしまう。


 だが俺は攻撃に物理攻撃を使った。排莢に土から錬成した火薬を入れ、弾丸も銃本体も、土から錬成した。


 火薬の力によって放たれた弾丸は、一切の魔法力の干渉を受けることなく飛んだのだ。



 俺は、この世界で最初の人殺しを決行した。



 ルルが死んで魔力の供給が途切れた蔦から脱出したダンとエリナを見て安心した俺は、気を失った。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 目が覚めると俺は、真っ白い空間にいた。



「カイ」



 俺は後ろから誰かに呼び止められた。



 ロペスとクリスを連れたダンとエリナがいた。



「お父様おとおかあさ――」



「俺達はお前を息子だとは思わないことにした」

 不別のこもった声でダンは告げた


「え?」



「じゃあな、カイ」

 そういって俺以外の家族は俺に背を向けて歩き始める。



「そ、そんな!俺はお父様とお母様の息子だよ!信じてよ!たとえ異世界から来たとしても俺はあなたたちの息子だよ!」



 俺がそういうと、エリナがこっちを一瞥して、話しかける。



「偉そうに言わないで?あなた転生者でしょ?転生する前の記憶が残っている家族なんていらないわ」



「ですってカイ様。今度は私達だけで暮らしていきましょうね?」

 耳元で囁かれて振り返ると、そこにはルルが立っていた。



「な、おまえ、生きてたのか!」

 俺は身構える。



「ええ、あんな物理攻撃で死ぬはずがありませんとも。これからは、たーっぷりかわいがって差し上げますわ!」

 口元で笑みを浮かべるルル。だが、目はおなじみの氷のように冷たい視線を送っている



「そ、そんな!いやだ!いやだ!いやだああああああああああああああ!」



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



「ハッ」

 俺はベッドから飛び起きて辺りを見回す。


「カイ?」

 隣にいるエリナが心配そうにこちらに視線を送る。


「大丈夫?すごいうなされてたわよ?」


 どうやら先程のは夢だったようだ。


「そ、その、助けてくれてありがとうね?カイ」

 エリナが申し訳無さそうに俺に言う。


「気負っちゃだめよ。お母さんたちが悪いの。本当にごめんなさい」

 どうやら俺に人殺しをさせたことを後悔しているらしい。


「いいえ、気にしてないですよ」

 俺がなるべく平静を装って言う。も、なぜかエリナはしおらしい態度を崩さない。


「実はね、私達ね、謝らなくちゃいけないことがあるの」

 エリナは続ける。


「私達ね、あなたのことをちゃんと構ってあげられなかったわよね。私達は仕事を言い訳にしてたかもしれないけれど、本当は違うの」


「え?」


「私達、あなたのことをちゃんと私達の子供だと思っていなかったんだわ。神童で、才能があって、人格もどこか大人びていて・・・。そんなあなたのことがね、怖かったの。いつ、私達が否定されるかわからなかったから。だから、カイとは距離を置いていたのかもって、十分に愛せなかったのかもって、気付いたの。ごめんね。母親失格よね」

 そういってエリナは俺のベッドの上で三角座りをして子どものように泣き出す。


 それを俺は抱きしめて、言う。

「そんなことありません。僕は、お母さんのことをお母さんだと思っていますから・・・」

 エリナが隠してきた気持ちを俺に言ってくれた。なら、俺もエリナとダンには言わねばなるまい。


「僕も、隠していたことがあるんです。お父さんを呼んできてもらってもいいですか?」


 俺は、転生のことを両親に言う決心をした。




 数分後、エリナがダンを連れて戻って来た。

「なんだいカイ?話って」

 ベッドにエリナといっしょに腰掛けて、ダンが言う。


 一瞬目を瞑って、俺は言う。

「はい・・・。あの、えと、これから僕が言う話を聞いて、僕に引かないって約束してもらえますか?」


「内容にもよるが・・・ああ。引かないよ」

 ダンが力強く同意する


「これから僕が言う話を聞いても、これまでと同じように僕を愛してくれますか?」


「いいえ、これからはこれまで以上にもっともーーーっとカイを愛するわ!」

 エリナが力強く否定する。


 それを見て、俺は自然に笑顔があふれる。そして、安心して口を開いた。

「実は僕、転生者なんです」


 ダンとエリナが目を丸くする。

「僕は前世では、親に蒸発されて、誰にも愛されることなく育って、孤独に死にました」


「でも、こっちの世界では、友達がいて、そして、両親がいます」


「僕はもう、この幸せを失いたくないんです。どうか、どうか、僕が大きくなっても、僕がどんな大人になったとしても、ここを僕が返ってくる場所にしてくれませんか?」

 そういって俺は、深々と頭を下げる。


「カイ?」

 エリナが問いかける。


 そういわれて顔をあげると、エリナが俺に抱きついてきた。

「そう、そうだったのね・・・。ごめんね・・・気づいてあげられなくて・・・。苦しかったわよね・・。そんな中でも、わ、私は、あなたのこと――」


「いったでしょう?大丈夫なんです。僕はあなたがこの先僕にどんなことをしても、お母様と呼びますよ!」

 エリナがまた後悔しそうだったので、先んじて俺は口にだす。


「ああ!カイ!」

 エリナが俺の腕の中で泣き崩れる。


「そうか、転生者か・・・」

 ダンが俺をにっこり笑って言う。


「なあカイ?定説によれば転生者ってのは2000年周期に産まれてくると言われているんだけど、その多くは救世主としての役割を帯びているそうだ」


「もし、それが本当だとしたら、我が家には救世主が産まれたことになる。とても誇りに思うよ」

 ダンは続ける。


「だけど、大事なのはそこじゃない。お前がどんな立場であれ、俺達はお前を愛すし、この家はお前の帰るべき場所なんだよ。」

 そういって、ダンも俺とエリナを包み込むように抱き、涙を流す。


「・・・はい!」

 俺は力強くうなづいて笑い、エリナとダンを抱きしめる力を強める。


 捕まえた愛と言う名前の幸せを、もう二度と、失わないように。


 家族で身を寄せ合うこの時間は、人生で一番安心を感じた瞬間だった。



 この先、どんな困難が待ち受けていようと、この温かみだけは、守っていけたらな。



 そう思いながら、俺は眠りについた。




 第一章 完



次回からはは首都タイトン貴族学校編です。

ルルは最初は殺すつもりはありませんでしたが、大西賢はきっと殺すだろうと思ったので殺しました。

ルルの回想シーンはドラゴンボールを参考にしました。シンパシー感じる人ならわかると思います。

小さい頃、友だちからもらった映画の入場特典が生きましたね。

カイはエギジャでやっと両親への警戒心が解けたので、常時警戒している常態ではなくなりました。家族医だけしかいない空間だったので、ルルに攻撃されてしまったということです。魔法の持続条件は、「カイが警戒している間」ですから。

あと昨日の章はびっくりするぐらい伸びてました。願わくば一日100pv目指したいですね。

カクヨムの方でコンテストに出しているので10万文字まで急ピッチで書き進めていきます。誤字脱字が多くなるかもですので、知らせていただけると幸いです。

次章はストマックの秘密と、カイに大きなターニングポイントが迫ります。乞うご期待!

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