8 家族
ドラゴンノベルズに応募することにしました。長編部門です。締め切りまでに10万文字には達するはずなので、奮って執筆したいと考えています(何様)
いじめ事件から3年たった。
あのあと、校内に告知が周り、エリがいじめられることも無くなった。
騎士団長はアヴィゲイルと離縁したのだが、親権はアヴィゲイルに移ってしまったようだった。
なぜ、人間というものは正直者がバカを見なければならないのだろうか。
そして俺にとって大きなことが起こった。
一年前、俺には弟と妹が産まれたのだ。
双子で、名前はル◯ーとア◯ア・・・ではなく、ロペスとクリスティーナだ。
ロペスは銀髪でクリスは茶髪だ。エリナのお母さんが茶髪だったらしい。両者ともかわいい俺の弟と妹だ。
そんなこんなで7歳になった俺は、国立高等貴族学校の入学を1年後に控えている。
貴族学校は、主に貴族のための学校だが、貴族のためだけに開かれているわけではない。
そもそも、この国の貴族は地位が安泰というわけではない。この国では支配階級、すなわち政治をする者のみを貴族と言う。都にいる国のトップである議会にいる三人の任期制の議長である、通称三頭議長によって、適材適所で支配階級は設定されるため、たとえ世襲した貴族も将来が安泰というわけではないということだ。
日本の国会議員と違い、この世界での政治家は明確な結果を求められる職業なのである。
そういうこともあって、この国では生徒の人数によって、地方の貴族以外の平民をエレメンタリースクールから募っているのだ。
この学校は首席から順に、成績が良い者を三人選ぶことになっている。
もちろん首席は俺なのだが、俺と次席であるストマックはすでに入学が決定しているため、ストマックの次から三人が貴族学校に入学することができるということ。
ストマックは本当に何者なのだろうか
当然といってはなんだが、俺達と同じ学校に入学するためにエリは死にものぐるいで努力を重ねていた。
俺は一回エリに、
「どうしてそんなに頑張れるのか?」
と聞いたことがある。
それに対してエリは、
「わたしとおなじような苦しい思いをするひとが減ってほしいからよ!」
と元気に答えていた。
「・・・あと、カイくんと同じ学校に入りたいから」
とも。
うーん健気だ・・・。幼馴染がいるってこういうことだったのか・・・としみじみ思ったものだ。
断じてロリコンではない。絶対に。
あと俺は無詠唱呪文を完璧にマスターしたので、杖なしに体のどこからでも魔術を使えるようになった。
無詠唱魔術は生まれ持って獲得している者と後天的に獲得するものがいる。
その大きな違いは、魔術への成熟度だ。
生まれ持ってから獲得した者は、あとから獲得した者よりも魔法を覚える速度が早いのだ。
生前の英語などと同じで、魔術も幼い頃から触れておくのが有利なのだ。
そんなこんなで、俺は順調に成長していたのであった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「そうだわカイ!次のエギジャにでてみない?」
夕食を囲みながらエリナが言う。
「エギジャですか?」
「ああ、そういえば来月はお前の生誕エギジャだな。」
誕生日を祝うのがエギジャなので、当然領主の孫である俺のエギジャは盛大なものになる。
「行っても良いんですか?」
俺がエリナに聞く。
「もう7歳だし、大丈夫でしょう。それに、」
「それに?」
「あなたの生誕祭ですもの。来年から出られるかわからないでしょう?」
「俺達も行くが、お前は友達と行ってきなさい。向こうに行ったらいつ一緒に行けるかわからないんだ」
「そ、それでもお父様とお母様と行きたいです!」
それを承知で、俺は言う。
折角、極度の人間不信もいくらかはマシになったんだ。
友達と行くのが良いのかもしれない。
だが俺はお祭りに行くのは初めてだ。
施設にいた頃ももちろん、そんなお祭りなんかに使う金も時間もなかったのだ。
同世代の子供が、子供時代に一緒に祭りに行くのは自分の両親だと思う。
この世界は、何が起こるかわからないんだ。
いつ、ダンやエリナやロペスやクリスに会えなくなるかわからない。
失ってからじゃ遅いんだよ。
前の人生では、それを後悔させてくれる環境さえ手に入らなかった。
ならせめて、せめて一日だけでいい。
俺を、子供にさせてほしい。
ということで、俺はベビーカーに双子を乗せたエリナとダンと共に、エギジャに来ている。
エギジャはいつもダン達が働いている里庁舎の前の大広場で開催されている。
円形の広場の真ん中にお立ち台があり、人口8万人近くにも上るこの里のほとんどの人が集まっていた。
そして広場に向かう路地に屋台が混在している
エギジャは日本のお祭りとそう変わらないな。
家でもそうだが、出てくる料理は日本料理のグレードダウン品みたいなものが多い。ご飯やカレーはないが、味噌汁らしきものもあるし、コーンポタージュにパンを漬けて食べたりもする。
屋台では、ピザパンのような物やりんご飴のような物が売ってある。
そして誕生月の者はエギジャでの買い物は無料だ。
「お父様、あのペンダントが欲しいです!」
そういって俺はこの里の伝統工芸品である勾玉に似たペンダントを指差す。
「お、あれか・・、ちょっとお姉さん?このペンダントをウチの息子に」
「あら!神童のカイくんじゃない!いいわ、この中から好きなのを一つ持っていきなさい」
そういってにっこりと喜びのオーラを出したお姉さんは笑ってペンダントを指差す。
「お父様とお母様は買われないのですか?」
必殺!ウルウル泣き落とし作戦!
「あら、カイくんの頼みだったらダンさんやエリナさんにもプレゼントよ!なんなら双子ちゃんのもつけたげるわ!」
そういってお姉さんは豊満な胸を張る。
「え、良いんですか?」
俺は追撃する。
「良いわよお!神童のカイくんに買ってもらった守護の勾玉なんて売れ放題よ!」
あ、これ守護の勾玉って言うんだ。
道理で守りの魔力が溢れ出ていたわけだ。
「おい、これが噂の神童のカイってやつかい?ダン?」
一人で納得していると急に背後からヒゲモジャのおっさんが話しかけてきた。
「ああそうだヘルメス。俺の自慢の息子だ」
そういってダンがヘルメス・ナプナリーゼルに言う。
「お初にお目にかかります。カイ・ティルス・ブラッドリーです。以後お見知りおきを」
学校で習った貴族風の挨拶でジャブを打つ。
すると急にヘルメスが目をパチクリさせながら言う。
「こ、これがほんとにお前の息子なのか?」
「ああ、そうだが」
「む、昔収穫祭のあとに収穫物をつめた納屋でボヤを起こしたお前の息子がこの子なのか・・・?」
「ああ、そうだが」
「ま、魔導団に入りたての頃はあまりにも仕事ができなさすぎて窓際だったお前の息子がこの子なのか・・・?」
「ああ、そうだが」
「む、昔――」
「ああ俺の息子だ。悪いなヘルメス、昔話を語りたいところなんだが、今日は妻と息子がいるのでまた明日と言うことにしようか」
「ああ、すまんすまん・・・。さて、これが俺の妻と対峙した噂のカイくんか・・・」
「あ、そ、その節は・・・」
うーわそうやん。こいつアヴィゲイルの元夫やん・・・。
「いや、俺も助かってるんだよ。あいつ、結婚したら急に夜遊びが激しくなったからなあ。まあ大事な一人息子は取られちまったけどなあ」
「いや、あ」
何故か言葉がでてこない。
「おいおいヘルメス。それ子供に話すべきことか・・・?」
「ああ、いわなきゃなんねえ」
そう言って、ヘルメスは続ける。
「この子はきっとダンに似て知恵が働くし、エリナみたいにとても優しい子だろう。きっと自分のせいで俺の立場が危うくなったとか考える筈だ」
どこか寂しそうな表情をするヘスメスは、巨体をたたみ、俺に目を合わせる。
「よく頑張ったな」
そういってヘルメスは俺の頭を撫でる。
「ッ――あ、ありがとうございます」
「ほら、褒められて俯くところもダンそっくりだし、もじもじしてるのもダンに言い寄られたエリナそっくりじゃないか」
「ちょ、ちょっとヘルメス!」
エリナが顔を真っ赤にしてヘルメスに言う。
「ガッハッハッハッハ!まあそういうことだ。神童だからって気負うことはないさダンもエリナも。コイツも結局お前らの息子で、アンデルソンも結局俺の息子ってことだ!」
そういってエリナとダンに向かってヘルメスがウィンクする。
「あ、ああ、そう、そうだよな!俺の自慢の息子だよな!」
「え、ええ」
どこか歯切れの悪い返事をダンとエリナがする。
「確かにこの子は剣の才能も魔術の才能もお前らよりも高い神童だ」
そういってヘルメスがエリナとダンに向き直る。
「だが、それ以前にお前たちの息子じゃないか。神童仲間といっしょにいさせるのもいいが、お前たちももっと構ってやっても良いんじゃないか?」
「しかし、コイツは天才だ。俺みてえな道から外れた男と一緒にいるとコイツもくさっちま――」
ダンが反論しようとする。
「親といっしょにいないほうが腐るってもんだぜ?」
だが、それをヘルメスが制する。
「ありのままで接してやりな」
そう、ヘルメスが言った瞬間、俺はエリナに抱きかかえられる。
「そうよねダン。この子は私達のかわいい息子なんだもの」
「ああ、そうだな・・・。すまんなヘルメス。目が冷めたよ」
「ああ、後で酒奢れよ?あと
「わかった」
そう、ダンが返すと、ヘルメスは去っていった。
「なあ、カイ」
ダンが俺に向き直ってなにか言おうとすると
「終わったかしら?こっちは首を長くして待っているのだけれど?」
勾玉の店主が腕を組んで待ち構えていた。
「「「す、すいませえええええん!」」」
勾玉の店主に謝罪したあと、俺は青色の勾玉を、ダンは赤色のを、エリナは緑色のを、ロペスには黄色と、クリスには紫色のを選んだ。
その後、主役のお立ち台でもみくちゃにされ、すっかり日が暮れたところでお開きになった。
今日はこれで終わる。
はずだった。
家に帰って、ドアを開ようとする俺。
ドアノブに手をかけたそのとき、
シュルルルルルッパンッ!
ダンとエリナにツタが絡みついてきて宙吊りになってしまった。
シュタッ
後ろに誰かが舞い降りる。
「やっとですよ、やっと。復讐の機会が巡って来ましたよ。どれだけ、どれだけ待ったか・・・」
メイドが、俺の方に歩いてくる。
「さて、ダン様とエリナ様。あなたのお子様がどれだけ残酷な死を迎えるか、楽しみですわね♪」
そういってつかつかと歩み寄ってきたルルは、見たこともない表情で舌なめずりをしていた。
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