6 ティルス小学校
あれから二ヶ月が経った。
まず、俺とエリとストマックはほぼ一緒にいる。割と気兼ねなく話せるが、学校以外では話さない。
俺は魔術と剣術の才能があることがわかった。
それもそのはずだ。俺は最初のころは魔力を完全に制限できていなかった。
火の魔法で教室を吹き飛ばし、水の魔法でこの辺りを水浸しにし、風の魔法で先生を吹き飛ばし、土の魔法で辺り一面を泥炭層にしたのだ。
基本魔法と呼ばれるこの魔法を組み合せることで、この世の中の魔法則は成り立っている。
だから俺は、死ぬ気で魔法の制御を頑張った。
そして段々と制御できるようになると、魔法を撃つごとに懐かしい感覚が強くなっているのを感じた。
エイムが洗練されていくあの感覚。
こうなると俺は強い。軍人時代に比べたらこんなの朝飯前だ。
ここからの俺の進歩は凄まじかった。先生から習った魔法は全て完璧にできるようになっていた。
俺の周りの奴らも、最初は俺よりも魔法が使えたはずなのに、どんどん追い抜かれていってびっくりしていた。
だが、そんな俺についてこれたやつがいる。
エリとストマックだ。
彼らは必死に俺にくらいついてきた。
魔術には級数がある。10級から10段までだ。
彼らは俺が一級あがるたびに、1週間後には俺と同じ級数まで上がってきたのだ。
ストマックに関しては余裕さえうかがえる。オーラも凄まじい。こいつ、セーブしてんのか?
それに対してエリは生半可ではない努力を重ねていた。
これは暇だった時に読んだ本の話だが――
この世界に住むそもそもの魔力量は単純な魔力を使用するよりも多い。
つまり、俺達がしているのはセーブをする訓練だ。
蛇口を閉めるように、杖から放出する魔力を調節する。
だが、その勢いと水量が多いほど、蛇口を締めたあとの水の威力は高くなる。
結果的に魔力総量が多い者が有利になるのだ。
エリは俺やストマックに魔力総量は遠く及ばないが、お母さんが魔術師らしく、常人よりも多くの魔力を持っている。それをセーブするのはものすごい忍耐が必要だし、さらにそこから放たれる威力も俺達のより小さいということだ。
彼女がどれだけ努力を重ねていたかが伝わるだろうか。
彼女が練習に打ち込んでいるときの魔力は、全体的にコーラルピンク色だ。うっとりするほど美しい。
因みに一応言っておくがロリコンではない。断じて。
要するに俺達よりも不利な状況でも頑張っていると言うことだ。
剣術は、まあ俺が最強だ。こんなにも丈夫な体で産んでくれた親には頭が上がらない。
びっくりしたのはストマックと、カレラという女の子だ。
この二人は俺の会心の一撃を剣で受け止めた。とても驚いた。
というかストマックは一体何者なんだ。そういえばファミリーネームもしらないし・・・。
もう同学年の敵がいなくなっていたので、俺達は魔術と剣術のときだけ上の学年の授業に混じっていた。
人間というものは怖いもので、その妬み、恨みは際限を知らないようだ。
魔術や剣術を圧倒的な速度でこなしていく俺達に嫉妬をした先輩方が目の敵にしてくるのだ。
俺やストマックは強すぎるので大丈夫なのだが、問題はエリだ。彼女はその容姿も相まってかなり高頻度で嫌がらせに合い、そのたびに俺やストマックが守ってやっていたのだが、ストマックは何故か月に一週間だけ学校を休むので、俺がエリを守ってやる頻度の方が若干上だった。
「ほうら、どうした!その程度か!」
「なんだよおまえ!その顔は!生意気なんだよ!」
「やめてよ!アンタたちなんてカイくん達たちにかかれば一瞬なんだからね!」
俺とストマックがトイレから帰ると中庭から喧騒が聞こえる。
あーもう、油断してたな。ちょっとの時間ぐらい大丈夫だと思っていた。甘かったな。
「・・・あいつら、きょうというきょうはゆるさねえ!」
そうやってストマックが肩で息をする。
俺は正直まだストマックとは友達という感覚が湧かない。きっと俺のこじらせた人間不信と、使わなすぎて麻痺してしまった大脳辺縁系のせいだろう。まあこれでも徐々に距離を近づけていこうとしているつもりだ。ちょっとクサイ言い方にはなるかもしれないが、俺はこの世界では頼られる人間になりたいんだ。
「・・・ああ、そうだな」
俺は自分でもびっくりするぐらい無愛想に答える。許してくれストマック。これが俺の限界なんだ。
俺達の視線の先にはエリと、エリを虐める先輩の姿がある。先輩は7歳。三年生だ。
大人げないな。こんな事に使われてあんたのなけなしの魔力も泣いとるわ。
「おらあ!
エリに向かって木刀を振り上げた瞬間、まだ成長しきっていない先輩の芯は若干折れ曲がる。
「キャア!」
対してエリの芯には若干ヒビが入る。
・・・さすがに木刀はやりすぎだ。木刀じゃなくても俺達が
俺は心のなかで唱え、杖を軽く降る。
「(自然の恵みよ、壁となり我らを守り給え、
防護の為の厚い壁がエリといじめっ子たちの間にそびえる。
勢いよく木刀を振り下ろしたやつは無様にも自分の頭に木刀が跳ね返っていた。
ガツーン
鈍い音が鳴る。
「くそっ、きょうのところはここまでにしておいてやる!おぼえてろ!」
そうして一瞬で治癒魔法をかけたいじめっ子たちは走り去っていった。
俺達には勝てないとわかっているんだろう。姑息な奴らだ。
「あ、ありがとうカイくん!」
「おう、いいってことよ!」
いやいやストマックさん、あなた何もしてないよね?
見事にシカトをかまし、エリはおもむろにうずくまって自分が痛がっているサインをする。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「あ・・・少し擦りむいちゃって・・・」
チロっと舌をだしてエリは言う。
いやいや自分で治せるだろそれくらい・・・
だがそんな俺の心の叫びなんか知ったこっちゃないエリは怪我をしている(本人談)のにも関わらず立ち上がって身をくねらせながら言う。
「えーとお、ちゆまほー、かけてくれたら、うれしいかも?だったり?」
これが狙いなのね。
治癒魔法は少なくとも二点で患者と触れ合わなくてはならない。
「あ、おれがかけるよ!」
そういってストマックが治癒魔法をエリに施す。
露骨に嫌そうな顔をしたエリはストマックにお礼を言う。
「あ、ありがとう・・・。で、でも次はカイくんにやってもらおうかな〜なんて。あんまりストマックくんにばっかりやってもらうと迷惑かもしれないしね〜、なんて」
「いいって!えんりょすんなよ!」
遠慮ってアンタ、どこで覚えたんだ・・・。
そういって俺はストマックを無視して眩しい笑顔を向けるエリに見惚れてしまうのだった。
あ、ロリコンじゃないからな!
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