3 余命

 こんにちは、レポーターのカイ(0)です。


 今日は何故か泣いておられるダン・ブラッドリーさんとエリナ・ブラッドリーさんが俺に話したいことがあるそうです。


 エリナさん(18)

「ごめんねえ丈夫な体に産ませてあげなくて・・・」


 ダンさん(21)

「いいやエリナは悪くない。こんなにかわいい俺達の息子なんだからかわいがってあげようじゃないか・・・。この子が後悔なく天国に行けるように・・・」


 は?


 ごめん俺死ぬの?てかこの空気やだな。二人から負の魔力を感じる。

 俺はこの体が慣れてきたのか、先生ほどじゃないが二人からも魔力を感じるようになった。


 それでわかったことだが、魔力はどうやら感情を反映するらしい。

 これは大まかな予想だが、魔力はその人の芯とその周りに纏う感情(オーラと呼ぶことにした)で構成されている。


 感覚的には汁物が近い。

 例えば味噌汁。

 味噌汁は大雑把に言えばベースとなる出汁と味付けの味噌と具材で構成されている。

 大まかな味を決める出汁に、スパイシーで旨味のある味付けを施して玉ねぎや肉を入れるとカレーになるし、麺を入れるとうどんになったりする。


 仮説が正しければ、この出汁に当たる部分が魔力における芯に当たる。そしてこれはおそらく人の根幹を為す部分。心や本性と言われる部分だ。それなら味付けや具材が感情、すなわちオーラに当たるはずだ。


 例えばセルバ先生は、真っ直ぐで剛毅ごうきな太い芯。だが、硬ければ硬い分、一回崩れたときの脆さを感じる。そして今、その周りを渦巻いているのは明らかな負の感情。色で表すと紺色だろうか。これはおそらく悲しみ。

 エリナも真っ直ぐな芯。だが先生よりも細く、か弱いがしなやかさを感じる。渦巻いているのは灰色と黄緑色と紫色。オーラの大きさは先生と比べるととても小さい。もしやこれは魔力の大きさを表しているのかもしれない。感情は灰色からは絶望。黄色からは愛おしさ。紫色からは・・なんだこれ?

 ダンは一見曲がりくねって見えるが、重心が保たれている。大事なところで男らしさを見せてくれそうだ。うん、いい男。(誰目線)オーラの大きさは、エリナ<ダン<<<<<<先生。ダンはエリナの感情に加え、緋色のオーラを出している。これは怒りか?何にキレてるんだ?


 とまあ、こんな感じだ。


 正直いつも視界の中にあるのは邪魔なので、芯に関しては基本は切っている。目に力を入れると浮かび上がるのだ。


 オーラはいつもつけっぱなしだ。見えてないと相手が何を考えているのかがわからなくなる。



 うーんどうしようか。この人たちの負の感情を無くさなくてはならないな・・・。仮に余命が10日だとすれば、この空気感だと余命が縮まりそうだ。とりあえず安心させるために声でもだすか。


「あーうーあー!!!」


 これでどうだ?


「ほらエリナ。カイが喋ったぜ!こんなにかわいい息子がいるんだ!俺達も前向きに行かないといけないだろ?産まれてすぐ心配させちゃだめだろ」


 おいおい良い男ー!!さっすが俺の父親を名乗るだけあるな!(何様)


「そうね、ダン。この子はいっぱい甘やかさせてあげましょう」


 あ、オーラの気が変わったぞ。緑色。慈愛に溢れた感じがする!よっっしゃあとは俺が耐えるだけだ!(何から)



 えーと俺は今人生の春を謳歌してまーす。只今、美乳美女(エリナ)から授乳をされております。素晴らしいですねー。まあ欲情はしないけど。


 傭兵時代は俺勃たなくなっちゃってたからなあ。感情死んでたし。娼婦も抱いたことは一度もない。それどころか生涯童貞貫きましたよ。すごくねえか?まあ女の影もまったくなかったのだけれども(涙)


 そんなことより昨日から一日たったけど、体になんも異常ねぇぞ?俺死ぬのかほんとに?



 Two days ふつかれいたー



 これはヤヴァい。しんどい。


 生死の境目を彷徨っている俺氏(余命あと7日)。


 これはほんの一時間前、本日の昼飯(エリナ)が終わったあとの出来事だった。


 俺はゲップを終えたあとの睡眠に入ろうとしていた。


 まあ寝るのも子供の仕事だからなと思った瞬間。

 体の中心が疼き出した。


 前世でも感じたあの、、あの感覚。


 その感覚は、徐々に体全体に広がっていき、頭に達した瞬間、激痛が走る。


「ゔぁあああああああああ」


 俺は叫んだ。産まれてこの方、感じたことのない痛み。

 前世で死んだ時よりも痛い。


「カイくん!」


 セルバが心配そうな声を出す。その瞬間、両親が俺に駆け寄る。


「「カイ!」」


「あと一日ぐらいの暴走なら私の制御で魔力は収まりますが、その後はわかりません。ダンさんとエリナさんもお力添えをよろしくお願いします!」


「「はい!」」


 んん〜暴走?確かにこの疼きは体の中心から漏れ出て来てるように感じるな。あーこれ魔力が暴走してるんだ。赤ちゃんのまだ未熟な体では魔力の受け皿になりきれないということか。


 その後、一時間おきに先生がベビーベッドに接続している平べったい茶色のクソでけえ禍々しい機械に手を突っ込んで俺のベビーベッドになにかを送り始めた。

 ははあ、これで魔力を制御するのか。



 ついに俺は、余命の元凶を知った。



 が、どうすればよいのだ。あと一日で対策を考えねばならないな・・・

 この力は逃がすことができないのか?


 先生は俺の魔力を制御できるんだよな。一日だけだけど。

 先生が俺に干渉できるなら、俺が他の人に干渉することも当然可能なはず。というかもし仮に先生がこのベビーベッドを使って俺の魔力を制御しているなら、魔力を制御するのにも魔力を使うのでは?この機器の起動にも魔力を使うのであれば、俺自身がこの機器を起動すればよいのでは・・・?いっちょ授乳の時にやってみっか!



 そして次の授乳のとき、俺は機械に手を突っ込む。


「あ!こら!カイだめ!」


 エリナがキレているがこっちは生きるためだ。すまんな小娘(かくいう本人は0歳児)


 俺が機械に手を突っ込むと、粘土のような感触と同時に、俺の手から疼いている本体がどんどん吸収されていく。めちゃくちゃ気持ちがいい。


「カイ!なにしてるの!」


 エリナが俺の手を救い出す。

 と同時にダンが真っ青になって立ち上がる。


「な・・・なぜ・・・?魔力吸収結界作成装置にはエルフしか手を入れることができないはず・・・?ただでさえ硬いこの装置の接続面に人間が強引に手を突っ込もうとするとと手が壊死するはずなのに・・・?どうしてカイが手を入れることができたんだ?」


 うおかっこよこの機械の名前。てかなんでエルフしか制御できないのに俺が手を入れられたの?謎が深まるなあ。そう思った俺は歩けるようになったらこの世界に関することについて調べようと決心した。



 そう心の中で決意するとセルバ先生が部屋に全速力で入ってきた。


「カイくんの暴走した魔力の反応がなくなりましたわ!カイくんは?」

 すると元気な俺を見るなりセルバ先生は目を丸くした。


「え?カイくん?私てっきりカイくんが魔力暴走で消失したのかと?」


「カイが魔力吸収結界作成装置に手を突っ込んだんです!」

 ダンが説明する?


「カイくんが自ら?」


「ええ」


「そんな・・・そんなことは・・・?」


「え?じゃあカイは助かったの?」


 話に入れていなかったエリナが口をだす。


「「そういうことになるね」なりますわね」


 二人が返答する。

 するとエリナが急においおい泣き出す。


「よか・・よかった・・・」


 つられて大人二人(一人は年齢不詳)も泣き出す。


「あああああよかったあああああああ」


「ああ・・ああ!!」


 そしてうまれたての子どもの眼の前にもかかわらず宴会が始まった。俺の前にも関わらずダンは浴びるように酒を飲み、俺の生存を祝福していた。



 俺は、生き残った。



 そして俺は、親の愛情を受けれるだけでも幸せなもんだな。そうまんざらでもなく考え、騒がしい周りを尻目に本能のまま眠りについた。

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