第7話

夫の声が聞こえた。ビクッとして目が覚めた。


「えっ、あっ⁈おっおはよう…」


いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。


「おはようじゃねーよ。俺の話、聞こえてたのかよ?」


今まで聞いた事が無かった荒々しい口調・・・昨日の出来事は夢じゃなかったんだなぁ・・・できることなら、この2カ月間が、全て夢であって欲しかった・・・


「ごっ、ごめんなさい。聞いてませんでした・・」


引け目を感じて、敬語になってしまう。私は何をしたら許されるのだろう。


「そろそろ浮気相手に連絡取らなきゃ不味いんじゃねーのかって言ったんだよ!」


嫌だ・・、夫のいる前であの男に犯されるなんて・・どうか、それだけは許して欲しい…


「あっ、う…うん。・・・ねぇ、本当にやらなきゃダメ…かな・・・?」


夫の顔色を伺いながら、確認してみる・・・

すごく…、冷めたい目をしていた。


「ああ、昨日そう話したろ。嫌なら別に良い。俺はお前と金輪際、縁を切るだけだ。」


感情の無い声で突き放される。

もう私に愛情なんて残っていないのだろう。

もういっそのこと殺して欲しかった・・・


「うん、分かりました…」


夫の顔を見るのが怖くなって下を向いてしまう。私は・・もう夫にとってなんの価値も無い女になってしまったのだろうか。

手を固く握り締め、涙を堪える。


「何時に男が来るのか分かったら教えてくれ。とりあえず顔を洗った方がいい。酷い顔になってるぞ。」


そう言って、夫は私を振り返る事なく部屋を出て行った。

私は・・・あの男に「何時位に来ますか」とLIMEして、また泣いた。

ひとしきり泣いた後、洗面所に行き顔を洗う。

酷い顔してる・・・化粧で誤魔化さなきゃ・・

軽く化粧をして着替える。

携帯からLIMEの通知が鳴った・・・


「30分くらいで着くよ〜、よろ〜」


うぅ〜、もうやだよ・・なんで、こんな・・・

あの男にバレないように普通にしなきゃ・・


あれ、私はあの男と会っていた時、どんな風にしていただろう?

快楽に溺れて、狂っていた夢から醒めた今、あの男の前でどんなふうに振る舞っていたのか、分からなくなってしまった。

ふとLIMEの画面をスクロールしてみた。


そこには、最低の・・・夫を忘れ、色に狂ったマゾ雌と下品な男の最低のやりとりが残っていた。

背中から冷や汗が垂れる。私は昨日こんなモノを夫に見られたのか…

こんな、おぞましいモノを見せた後に、汚れた自分を抱いて欲しいと浅ましくねだったのか・・・


謝らなきゃ、謝らなきゃ、謝らなきゃ・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、


こんな馬鹿な女でごめんなさい・・・


「マンションまで着いたけど。何号室?」


LIMEが来た。いつの間にそんな時間に・・・

とうとう来てしまった。会いたくない・・・

携帯を操作する指が震える。


「○○○号室」


それだけ打った。

演技なんか、とてもじゃないが出来ない・・

インターホンが鳴った。画面にニヤニヤした下品な顔の男が写っている。通話はせずに、オートロックの鍵を開ける。

忸怩たる思いでいっぱいになりながら、玄関に向かいドアの前で待つ。

緊張で胸が張り裂けそうだった。












ガチャ


「よぉ。お前から連絡して来たのなんて、初めてじゃんw『今日は夫がいないから、家で抱いて貰えませんか?』なんてLIME送って来やがってよ。」


あぁ・・・神様、お願いします…私はもう二度と、夫を裏切らないと誓います…

私の・・、これからの人生は夫に尽くして捧げます・・・だから…


「すみません…」


ですから、神様お願いします…

これ以上っ・・、私の惨憺たる・・醜い姿を夫に見せないで下さいっ、バラさないで下さい…









お願いします・・・





「昨日ちゃんと挿れてやらなかったから、疼いちゃって我慢出来なくなっちゃったのかよw昨日はちゃんとマゾ雌らしくおねだり出来なかったから、口でしゃぶらせてイく時だけ中に突っ込んで精子出してやったんだもんなぁw w」








ヒュッ



突然心臓を掴まれたみたいに、息が・・・

目の前が真っ暗になる・・・あぁ・・、そうだよね…散々裏切った人間に救いなんてある訳がないよね…


「はい…、そうです…。」


夫に知られたくなかった、ケダモノのような行為の内容が、男の口から暴かれていく。


「旦那さんにヤって貰えなかったのかよ?wwあー違うか、旦那じゃ物足りなかったんだっけ〜w w」


「そっ、そんな・・・こと・・」


違う、違う、違う、違う!あなた、違うの!!お前が変えたんだろうっ!私のせいみたいにっ!私は夫で満足してたっ!お前が私をっ・・こんな身体にっ、変えたくせにっ!!


「俺の上で腰振ってる最中さぁ、よく『夫じゃ足りないのっ、満足出来なくなっちゃったのぉ〜』って叫んでるもんなw w」


「・・・はい…。」



あ゛ぁっぁ・・・


っ違う、違うのっ!コイツにっ、コイツに言わされたのっ!!私のせいじゃないのっ!私はっ、私はあなたで・・違うの・・そんな淫乱な女じゃ・・ないの・・


「今日はいっぱい気持ち良くしてやるからさ、ちゃんとお願いしろよw w」


「分かりました…」


もうイヤ・・・死にたい…もう殺して…


ドアを開けて、寝室に入る。

私と夫、2人だけの空間だった寝室に異物を入れる。私達の思い出が全部汚されてしまう・・


「じゃあ早速お願いしてみよっか?w w」


「はい…」


クズに見られながら、服を脱いでいく・・・

自分の胸の先端が固くしこっているのが、分かってしまった・・・


「何だよ、今日はお前から誘ってきたくせに何でこんな地味な下着なんだよ。いつもみたいなスケベな下着じゃねーのかよ。」


「すみません…」


クズにもっと興奮するような下着着てこいよと言われて、夫には見せられないような下着を何着も買った…

色狂いのマゾ雌に相応しい下品な下着・・


「つまんねーなぁ。『こんなの夫には見せられないっ!隠してあるのっ』って俺に言ってた時は爆笑だったけどw w」


「すっ…、ゔぅ・・ずみばせぇ゛ん・・ひっぐぅ」


夫には絶対に見せられないから、下着入れの1番奥に隠して、クズに会う時に着ていた。

クズに・・しか、見せた事が無い…下着・・・

夫がぁ・・知らない゛・・快楽に堕ちた私・・


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、私、いい子になるからっ、神様っ、お願いしますっ、もうこれ以上っひどい自分を見たくないっ!



「何泣いてんの?冷めるんだけどw wほら、全部脱げたら、分かるっしょ。ちゃんと俺を満足させてくれなきゃ大好物あげないよ〜wデッカい声でほらっ!」


下着を下げた時、私の股間から、つ〜と透明な糸が引いたのが分かった・・・


あぁ…私はもう夫しか知らなかったあの頃には戻れないんだなぁ゛・・・・

身体がもう快楽を覚えちゃってるんだぁ・・

こんな酷いこと言われて、心が否定しても、頭は勝手に興奮しちゃうバカな女に変えられちゃったんだぁ・・・


こんなのバレちゃったら、嫌われちゃうよね・・・

嘘ついてて、ごめんね・・・


あぁ〜、もっと一緒にいたかったなぁ・・・









「おっ夫がっ、いるにも゛関わらずっ、ご主人様の゛ぉ〜、ゔぅっ・・・、お○○○が欲じぐでぇあぞこをっ、ぐちゃぐちゃに汚じてじまう快楽狂いの゛マゾ雌に゛ぃ〜、ひっぐぅっ・・ごじゅじんざぁまのぶっといお○○○を恵んで下ざい゛っ!!」





これが終わったら・・・私…もう…





死のう・・・




「泣きながら、懇願とかマジウケるw wオラっ」





あなた、ごめんね・・・








突然大きな音がして、私の目の前から男が消えた。


「てめぇ、俺の女に何してくれてんだよ⁈」


夫がバットで男を殴っている。

えっ、何で・・・

こんなに怒っている夫、今まで見た事ない…


手で顔を抑えている男の股間を夫が蹴り上げて、そのまま・・


グチャって音が聞こえた気がした…

ピクリともしてない・・うそ・・もしかして…


あまりに急な出来事で理解が追いつかない・・

夫が男に放った言葉だけが耳から離れないでいた・・・


夫が私の方を見たけど、何も言えなかった。


携帯で電話を掛け始めた。

警察に電話しているみたいだ。電話を終えて、私の方に顔を向けた。もう怖い顔はしていなかった。


「ねっ・・ねぇ、どうして・・?殺しちゃったの・・?」


「いや、多分まだ死んでないよ。コイツはもう色々とダメだと思うけどな。」


「あなた・・捕まっちゃうの?」


お願い、居なくならないで・・


「さあな、別にどうでも良いんだよ。俺はこれでスッキリしたから。」


夫は笑ってた。

どうでも良くないよ・・いやだよ…


「あなた慰謝料取るって・・・」


「カネなんか取ってどうするんだよw俺が失ったモノの代価になんてなりゃしないさ。ついでに言えば、今やった事だって何の意味も無いよ。」


もうダメ・・・、涙が止まらなくなってしまった。穏やかに話しかけてくる夫。もう二度と見れないと思っていたのに・・

この人の未来を奪ったのは私だ。あのクズじゃない、私なのだ…


「だったら・・・、こんな事しなくたって…あなたが、こんな・・こんな・・ごっごめ゛んなざいっ、私があ゛んな馬鹿な゛事しなげればぁ〜・・あ゛ぁ゛〜」


夫がポケットから煙草を取り出して、火を付けた。

煙草を吸ってるところなんて初めて見た。


「ふぅ〜、まぁ今まで楽しかったよ…それについては、礼を言っとくよ。ありがとな。」


優しく喋りかけてくれる人は・・私が良く知っている夫だった…

私が永遠に失ってしまったはずの優しい人…

その人は何もかも失ってしまったのに・・

罪を犯した私は最も大切な人を失わずに済んでしまった・・・


「何でぇ、ありがどなんでっ言わないでよ゛ぉ゛〜、ごうな゛ったのは、全部っ、わ゛だじのぜいなのに!や゛だよぉ〜、行かないでっ!」


謝りながら、縋ってしまう。頭の中はぐちゃぐちゃだ。ただ、ただこの人と一緒に居たい。


「ユリ、まぁ最初の一歩目はお前かもしれないけど、全部が全部お前のせいって訳じゃない。多分なるべくしてなったんだよ。俺もお前に言わなかった、言えなかった事もたくさんあったしな。」


全部、全部、私が悪いの・・・、だからね…、お願い、一生私を許さないで・・・

償うなんて出来ない事を理解したの・・・

だから私に一生罰を与え続けて・・・

私のこれから先の未来を全て、あなたに捧げさせて欲しい…


「この煙草だってそうだ。久しぶりに吸ったけど、お前と付き合う前は結構吸ってたんだぜ。お前と知り合ってから辞めたんだw」


前と変わらない口調で、笑って話してくれる。

あぁ・・大好きだよ。

あなたから、死ねって言われたら私ね、迷わず死ぬから・・

好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、

だーい好きだよ。


「まぁとりあえず離婚届けはどうにか渡せるようにするよ。そろそろ来るかな?ユリもそろそろ服着とけよ。」


うん、離婚なんてしないよ。

あなたが、私のことを殺してくれるまで、

ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、一緒に居るからね。大好き。







◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまで読んで下さった皆様ありがとうございます。

一応明日2話投稿して終わりになりますが、個人的には好き、嫌いが非常に別れる内容かと思います。

作品としてはこれで終わりの方が綺麗に終われると思っています。

自分はきっちり最後のエンディングが読みたい派なので、最後まで投稿しますがガッカリさせたらごめんなさい。

ここまで読んで下さった皆様には、もう一度感謝を申し上げさせて頂きます。

どうもありがとうございました。

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