第6話
朝目を覚まし、ぼ〜と、とりとめのない事を考える。
あるはずだったユリとの幸せな未来、楽しかった過去、もう今さらなことばかりだ・・
俺が起きてから2時間を過ぎても、ユリは起きて来なかった。
まさかな・・・ふと頭に一つの想像が頭を過ぎる。
急いで寝室に向かった。そっとドアを開けてユリを確認する。
スー、スー…寝息が聞こえる。良かった・・
俺は純粋にそう思った。
枕に顔を半分埋めて寝ているので、ちゃんとは確認出来ないが・・・酷い顔をしてるな…
一晩中泣き腫らしたんだろうなと想像がつく。
俺が追い込んだ。後悔はしていない。俺はユリを許す事が出来なかった。そして醜い自分を隠さないで感情のまま怒りをぶち撒けた。
だから今こうして冷静でいられるんだろうから。
なんでもっと早く気付かなかったんだろうな。いや・・、俺は薄々気付いていたんだろう。
きっと裏切りの事実を知りたくなくて、無意識に目を逸らしていただけ・・・
だから・・・、昨日浮気の現場を見つけた時、素直にその事実を受け入れられたんだろう。
そっとユリの長い黒髪をひと撫でしてから、距離を取って声を掛ける。
「おいっ、いつまで寝てるんだよっ!もう昼になるぞ。浮気相手に連絡取らなきゃ、そろそろ不味いんじゃないのか⁈」
「えっ、あっ⁈おっおはよう…」
ユリがハッとして、飛び起きる。
「おはようじゃねーよ。俺の話、聞こえてたのかよ?」
「ごっ、ごめんなさい。聞いてませんでした・・」
「そろそろ浮気相手に連絡取らなきゃ不味いんじゃねーのかって言ったんだよ!」
「あっ、う…うん。・・・ねぇ、本当にやらなきゃダメ…かな・・・?」
俺の顔色を伺うように、こっちを向いて言いづらそうに尋ねてくる。
「ああ、昨日そう話したろ。嫌なら別に良い。俺はお前と金輪際、縁を切るだけだ。」
「うん・・、分かりました…」
目を伏せて、ぎゅっと寝巻きを握りしめて、小さな声を震わせながらユリは答えた。
「何時に男が来るのか分かったら教えてくれ。とりあえず顔を洗った方がいい。酷い顔になってるぞ。」
そうユリに伝えて部屋を後にした。
******
俺は寝室の隣りの部屋に身を隠して、男が来るのを待っていた。
玄関から男の軽薄そうな声が聞こえてきた。
「よぉ。お前から連絡して来たのなんて、初めてじゃんw『今日は夫がいないから、家で抱いて貰えませんか?』なんてLIME送って来やがってよ。」
「すみません…」
「昨日ちゃんと挿れてやらなかったから、疼いちゃって我慢出来なくなっちゃったのかよw昨日はちゃんとマゾ雌らしくおねだり出来なかったから、口でしゃぶらせてイく時だけ中に突っ込んで精子出してやったんだもんなぁw w」
「はい…、そうです…。」
聞いているだけで、殺意がふつふつと沸いてくる。
ユリ、お前は・・・本当に馬鹿なヤツだよ…
俺達の未来は、こんなクソみたいな野郎に壊されたのか・・・
「旦那さんにヤって貰えなかったのかよ?wwあー違うか、旦那じゃ物足りなかったんだっけ〜w w」
「そっ、そんな・・・こと・・」
「俺の上で腰振ってる最中さぁ、よく『夫じゃ足りないのっ、満足出来なくなっちゃったのぉ〜』って叫んでるもんなw w」
「・・・はい…。」
「今日はいっぱい気持ち良くしてやるからさ、ちゃんとお願いしろよw w」
「分かりました…」
クソみたいな会話が続く。我慢の限界だ…
拳を強く握り込み、何とか耐える。
ドアが開く音が聞こえ、隣りの寝室に入ったのが分かった。
「じゃあ早速お願いしてみよっか?w w」
「はい…」
「何だよ、今日はお前から誘ってきたくせに何でこんな地味な下着なんだよ。いつもみたいなスケベな下着じゃねーのかよ。」
「すみません…」
「つまんねーなぁ。『こんなの夫には見せられないっ!隠してあるのっ』って俺に言ってた時は爆笑だったけどw w」
「すっ…、ゔぅ・・ずみばせぇ゛ん・・ひっぐぅ」
「何泣いてんの?冷めるんだけどw wほら、全部脱げたら、分かるっしょ。ちゃんと俺を満足させてくれなきゃ大好物あげないよ〜wデッカい声でほらっ!」
「おっ夫がっ、いるにも゛関わらずっ、ご主人様の゛ぉ〜、ゔぅっ・・・、お○○○が欲じぐでぇあぞこをっ、ぐちゃぐちゃに汚じてじまう快楽狂いの゛マゾ雌に゛ぃ〜、ひっぐぅっ・・ごじゅじんざまのぶっといお○○○を恵んで下ざい゛っ!!」
「泣きながら、懇願とかマジウケるw wオラっ」
「きゃっ」
ドカァッ
ドアを全力でブチ開けた。
そのままパンツ一丁でユリに覆い被さる男の肩にバットを全力で振り下ろす。
ドガッ!!
「ぐぁっ、てっテメェっ!」
肩を抑え何かを言いながら、こっちに振り返る男の顔面に向かって、バットを全力で振り抜く。
「ゔぉっ」
男は必死に両手で顔を覆ってる。多分今の感触だと歯が10本以上折れたな。
顔を抑えながら、ベッドの上で身体を丸めてる男の腹を全力で蹴り上げる。俺は靴を履いたままだから、爪先が腹にめり込む感触がある。
男はベッドから床に転げ落ちた。
「カヒュー、カヒュー」
「てめぇ、俺の女に何してくれてんだよっ⁈」
腹を抑えながら、まともに息が出来ていない男の鼻をバットの先端で思いっ切り小突く。
手で顔を抑えた瞬間、全力で股間を蹴り上げて、そのまま今度は全体重を掛けて踏み潰した。
グチャ
肉が潰れる感触があった。
多分ここまで1分も経っていない。
男は気絶したみたいだ。
ユリはベッドの上で全裸で固まっている。
携帯で電話を掛ける。
「もしもし、警察ですか?帰宅したら妻が不審者に襲われていたので、捕まえました。」
「ええ、私も妻も無事です。ただ犯人は・・私も妻を襲われた怒りと恐怖で、やり過ぎてしまったかもしれません。」
「はい、住所は○○です。早く来て頂けると、あっはい、お願いします。」
ユリの方に顔を向けた。ユリは顔面蒼白になって涙で顔をグチャグチャにしていた。
「ねっ・・ねぇ、どうして・・?殺しちゃったの・・?」
「いや、多分まだ死んでないよ。コイツはもう色々とダメだと思うけどな。」
「あなた・・捕まっちゃうの?」
「さあな、別にどうでも良いんだよ。俺はこれでスッキリしたから。」
俺は笑って言い切った。
「あなた慰謝料取るって・・・」
「カネなんか取ってどうするんだよw俺が失ったモノの代価になんてなりゃしないさ。ついでに言えば、今やった事だって何の意味も無いよ。」
「だったら・・・、こんな事しなくたって…あなたが、こんな・・こんな・・ごっごめ゛んなざいっ、私があ゛んな馬鹿な゛事しなげればぁ〜・・あ゛ぁ゛〜」
俺がやった事がまったく意味ない事だって分かっている。ぶっ壊された日常は、未来はもう戻らない。けれど黙って受け入れるなんて、無理だった。嫁さん奪われて、カネなんかでチャラにされたくなかった。
このまま男として劣等感を抱えたまま、生きていくくらいなら、俺はこっちの方がいい。
最愛の女を寝取られた時点で、どうせもう最高の人生なんて送れないんだから。
ポケットから煙草を取り出して、火を付ける。
「ふぅ〜、まぁ今まで楽しかったよ…それについては、礼を言っとくよ。ありがとな。」
ユリが驚いた顔をしてる。
「何でぇ、ありがどなんでっ言わないでよ゛ぉ゛〜、ごうな゛ったのは、全部っ、わ゛だじのぜいなのに!や゛だよぉ〜、行かないでっ!」
煙草については何も言わないんだな。ユリは俺が吸ってるところ見た事無いはずなのにな。
どうでもいい事が気になってしまった。
「ユリ、まぁ最初の一歩目はお前かもしれないけど、全部が全部お前のせいって訳じゃない。多分なるべくしてなったんだよ。俺もお前に言わなかった、言えなかった事もたくさんあったしな。」
「この煙草だってそうだ。久しぶりに吸ったけど、お前と付き合う前は結構吸ってたんだぜ。お前と知り合ってから辞めたんだw」
「まぁとりあえず離婚届けはどうにか渡せるようにするよ。そろそろ来るかな?ユリもそろそろ服着とけよ。」
遠くからパトカーの音が聞こえた。
俺は最後に煙草を大きく吸ってから火を消して、玄関に向かった。
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