第3話

私は今まで運が良かっただけなのだと思う。

人の醜い悪意とかに無関係で過ごせてきた。


大学に入ってすぐ夫と出会い、半年くらいかけて仲を深めてから付き合い始めた。

それまでは女子校だった事もあり、男性と付き合う機会が無かったので交際に対して不安もあったが、夫は優しくずっと一緒に居てくれて、私の不安はすぐにどこか飛んでいった。


順調に交際をかさね、一年前に結婚、私は満たされていた。幸せだったのに・・・


魔が差してしまった。

滅多にない夫の出張の日だった。


会社の同僚に飲みに誘われ、今日は夫もいないし、いつも断る事が多かったのでたまには参加するのも良いかと思い、行ってみると知らない軽薄そうな若い男性が3人居た。


結婚する前もそういう飲み会は断っていたし、結婚してからは誘われることも無かった。

その時もその場で帰れば良かったのに、何故か参加してしまった。


最初私は慣れない雰囲気に戸惑っていたが、男達は女の扱いに慣れていたのだろう。1時間も経てば、お酒の酔いも進み1人の男といい雰囲気になってしまった。そして雰囲気に流されホテルまで行ってしまったのだ。

そこで酔い覚ましにと渡された水を飲んでしまった。何かよくないクスリを混ぜられていたのだろう。

そのあとは快楽の暴力に溺れて、ほとんど記憶が無かった。


朝早く目が覚めて隣りで寝ている男を確認して、自分の愚かな行動を自覚した。


夫に対する罪悪感でいっぱいになり、男を起こさないように、そっとベッドから出て、急いで着替えてテーブルにお金を置き、ホテルから急いで立ち去った。


家に着き、急いでシャワーを浴びる。匂いを早く消そうと、罪を洗い流そうと必死に汚れた身体を擦る。

股間に手を回して、血の気が引いた・・・

白濁したドロっとした液体が垂れて来た…必死に掻き出した。シャワーを何度も当て、無様な格好で何度も、何度も・・・


恐怖に怯えながら、浴室を出て着替えて、リビングに戻る。ハッとして携帯を確認する。

昨日ホテルに着いてから携帯を確認していなかった。携帯を確認してみると夫からのLIMEがたくさん入っていた。


「寂しくない?」「大丈夫?」「何かあった?」「心配だよ」「連絡欲しいな」


夫が私の事を心配してくれ、不安になっていた時に私は何をしていたのだろう。

また罪悪感が重くのしかかる・・・


夫に「心配かけちゃって、ごめんね。大丈夫だよ。何か調子悪くて、会社から帰ってきて、すぐ寝ちゃったんだ。」


と、返信した。私は最低だ・・・

今日はもうとてもじゃないが、出社する気になれなかった・・・


電話が鳴った。夫からだった。


「ユリ大丈夫?明日帰る予定だけど、本当に辛かったら連絡して。事情を話して、今日の夜帰るから。」


「ありがとう。でも大丈夫だよ。仕事頑張ってね。」


夫が心配してくれている、そう思う度に胸がズキズキと痛む。

午前中の間、ずっと膝を抱えて蹲り、ひたすら自分のやってしまった事を後悔していた・・・


昼に薬局に行き、妊娠検査薬とアフターピルを買い、また家に戻る。


検査薬の方は今使っても何も意味がない事は分かっていたが、それでも確かめずにはいられなかった。


夕方、携帯にLIMEが入った。

夫からだと思い、早く返信しなくちゃと手に取ると、アイコンには昨日の軽薄そうな男の顔が写っていた。


イヤな汗が止まらない・・恐怖で体が震えてしまう。

指をカタカタと鳴らしながら、携帯を操作する。


何で・・何で私のアドレス知っているの・・・

夫との幸せだった生活を失ってしまう恐怖で、おかしくなりそうだった。自分の過ちを心底後悔しながら、胃から湧き上がってくる吐き気に耐えながら、LIMEを開いた。


「やっほー、昨日は楽しかったね〜!」

「いつの間にか帰っちゃってるんだもん、寂しかったよ〜」

「また会いたかったから、マキに連絡先聞いちゃったw」


最後に写真が一枚送られて来た。

女が軽薄そうな男に肩を組まれ、頬同士がくっ付く位に密着して、男と一緒にピースをしている写真・・・

その馬鹿そうな女は・・、私だった…


正直死にたくなった。

どうしたらいい・・、夫に全てを告白して許しを乞うか・・・

とりあえずこのLIMEをどうしよう…

多分電話番号もバレている・・このまま無視をして逃げても・・

ここできっぱりと男とは縁を切って、この過ちは無かった事にしようと決めた。


「昨日の事は私の過ちでした。申し訳ありませんが、2度と連絡をしないで下さい。」


この時点で正直に夫に全てを告白すれば良かったのに・・愚かな私はまた2回目の過ちを犯した。


「え〜、何言ってるのww昨日あんなに盛り上がったじゃん! 」

「ユリちゃん、アヘアヘってすごかったよw wまた連絡するから w強制だかんね〜w w」


次に送られて来た写真には・・


ベッドの上に全裸で仰向けになり・・、

股間からは白濁した液体を垂らしながら・・、

股をカエルの様にだらしなく開き・・・、

快楽で顔を惚けさせ、口からは涎を垂らしてる

ひどく醜い無様な格好の女が写っていた。


「来週の水曜日待ち合わせね〜!大丈夫、家庭壊す気は無いからw w2時間位付き合ってよ。宜しくねw w」


こんな写真をばら撒かれたら、私だけじゃなく夫まで終わってしまう。愚かな私のせいで、夫にまで迷惑をかけられない。

私が受け入れれば・・・

もしかしたら、次で私に飽きるかも知れない。

そしたらこの罪は死ぬまで墓に持っていこう。

そして夫に尽くそう。全てを捧げよう。

だから、ごめんなさい。ごめんなさい。


この幸せを壊さなくて済むかも知れない・・

夫とこの先もずっと一緒に居たかった…


また私はどこまでも間違い、最悪で最低な選択をした。


「分かりました。」


たったそれだけ男に返信した。


男は当然飽きる事は無かった。それでも最初の1ヶ月は、週に1回呼ばれるだけで済んだ。


あの男は女慣れしているだけあって、上手かった。我慢しても声が漏れてしまう事もあった。


ただあの時飲まされたであろうクスリは、あれ以来使ってこなかった。

もしかしたら隙あれば使おうと考えていたかも知れないが、私も警戒していたから男から渡された食べ物も飲み物にも口を付けなかった。


それに私が嫌がる事は何故かしなかった。

ゴムは着けてもらったし、キスだけは断った。

男は多分イヤイヤ抱かれる私を楽しんでいるのだろうと思っていた。


男が変化したのは1ヶ月程前だった。


いつものように待ち合わせて、ホテルの部屋に着くなり私に向かって言った。


「ねぇ、ユリちゃんさぁ〜。お前、マゾだろw自分では気付いてないかも知れないけどさ〜w

お前の本性は、どうしようもなく淫乱なマゾだよ ww」


私は初め男が何を言っているのか理解出来なかった。


「えっ、なっ何言って・・・」


「だからぁ、お前が真正のマゾ女だって言ってんのwwこれからゆっくりと時間を掛けて分からせてやるからw」


「この1ヶ月優しくしてやってたのは、お前を安心させる為と、色々確かめてたんだよw俺も新しいオモチャ欲しかったからさー。ずっと探してたんだけど飲み会で見た時、コイツだって思ったんだよねw w」


「あっ、前も言ったけど、家庭は壊すつもりは無いから安心してw愛しの旦那様に内緒でマゾ雌にされちゃう人妻wヤバくねっw w」


「あーあ、旦那さん可哀想〜w w愛しの奥さんが、自分の知らないところでマゾ雌にされちゃってw wそんな事知らずに奥さんに好き好き~ってするんだろw wまじウケるw」


次から次へと、私と夫を嘲笑う言葉を投げてくる。


「ふっ、ふざけないでっ!」


「ふ〜ん・・w w」


いきなり男が私のスカートの中に手を入れ、下着の上から無遠慮に股間を弄った。


「ねぇ、何これ?めちゃくちゃ熱くなっちゃてんじゃんw wほら、もうぐちょぐちょ。さっきの言葉で興奮しちゃったの?」


「ちっ、違いますっ!そんなわけっ!」


それから私は惨憺たる有様だった。ひたすらに弄ばれた。

嫌悪する相手から快楽を与えられ、それを受け入れ喜んでしまう身体。

行為が終わった後、あまりの自分の惨めさに涙が止まらなかった。


その後も週二回のペースで呼び出されて抱かれ続けた。どうして全てを放棄して逃げ出さなかったのか、自分でも分からない。


どんどん淫らにされていく身体、夫に抱かれる度に身体が物足りなさを感じてしまう事が増えていく。


呼ばれる度に行為はエスカレートしていった。

ひたすらになじられ、屈辱的な言葉を投げつけられ、人としての尊厳を踏みつけられた。

なのに身体は快楽に溺れてしまう。


たった1ヶ月程度しか経っていないのに、私はもうおかしくなっていた。あの男の言うとおりだったのかも知れない。


私はどうしようもなく淫乱な色狂いのマゾ女…


あの男とは身体だけ、心はあなたしか愛していないから。本気でそう思っていた。

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