第3話

 なんだなんだ、そんな湯気が出そうな紅潮した顔をして。非常にいやらしい空気が流れているんだが?

 もしかして雄介とそういう関係? 血涙が出そう。葵とはどうなってんだよこいつ。爛れた学生生活送ってんじゃねえよ。


「なあ、雄介……我慢の限界だ」


 京子が弱々しくこちらにもたれかかってくる。その体は少し震えていた。悶えているのが分かる。

 こんなになるまでってそんなにこいつを求めているのか。


 ブブブブ


 ん? 何かが振動している音が聞こえるな。スマホのバイブか? 俺のはバイブ切ってるし京子のかな。


「京子、スマホ鳴ってない?」


「? いや、鳴ってない……が……あぁ」


 艶やかな声で喘ぐ京子に下半身に血が集まり始める。いいのか? ここで俺は卒業していいのか? いや雄介は卒業しているかもしれないが俺にそんな記憶はない。


「そんな……ことより、んっ! いいだろう?」


 俺の胸に沈んでいた京子が上目遣いで潤んだ瞳で俺に問いかける。

 もちろんオッケーです。


「ああ」


 俺は余裕そうな顔をして京子の問いを肯定する。もたれかかる状態から京子を抱き寄せるように腕を回す。京子は目を瞑りこちらを受け入れる態勢を整える。キスなんていつぶりだろうか。

 プルンと弾けそうな京子の唇にフローラルな香りが俺の鼻腔をくすぐる。

 その匂いを吸い込んで唇を合わせる。


 やわらかっ! 吸いつくようだ。一生こうしていたい。

 俺はしばらくそのまま唇を合わせるだけでで満足していた。何か心が満たされるような気がする。口が塞がっているから鼻で呼吸するのだが吸い込むたびに俺を刺激する香りが脳に刺さる。


 しばらく京子の唇を堪能していると俺の唇をこじ開けるような感触があった。

 舌を入れようとしてるのか。大人のチッスということか、いいよこいよ!


 俺は京子の侵入を阻むことなく受け入れる。温かい吐息がかかる、若い女の子の口臭は臭いとか誰かが言ってたけどそんなことはない。きっと若い女に嫉妬したおばさんの嘘だったんだろう。騙されたわ。

 俺の口の中に温かい舌が入ってくる。俺の歯や歯茎をなぞる様に、ゆっくりと全体を侵略するように這いずり回ってくる。俺はその快楽にただ受け身になっていた。


 このままされるがままなんてダメだろ。


 俺はそれを追い返すように舌で抵抗する。すると京子の攻勢は途端に弱まり押し返すことに成功する。そのまま舌と舌を絡ませながら相手の口へとねじ込んでいく。


 両手で京子の顔を掴みその表情を目を開けて見る。京子の目は恍惚としていてトロンと溶けてしまいそうだった。


 そんな顔したらさぁ、歯止めが効かなくなるよ。


 俺は貪るように京子の口を食べた。

 吐息が漏れる。

 くぐもった声が静かな生徒会室で響く。学校は生徒が帰って静かなものだ。校庭から聞こえるはずの運動部の声はテスト期間中の為お休みだ。


 どれくらいの時間が経っただろうか。我を忘れて求めあった時間はとても気持ちのいいものだった。俺たちはゆっくりとお互いの顔を離す。


「あっ、あぁん……んぅん」


 京子が悶えながら内股で震える。


 カラン


 何か落ちたな。机の備品か。

 一瞬そう思ったが音は京子のスカートの下から聞こえる。俺は落ちたそれを拾い上げる。

 それはピンク色をした楕円形の小さなプラスチックだった。そして振動している。俺はこれを知っている。え、ここで落ちたってことは……そういうことだよな?

 京子の方を見る。これはどういうことだ。


「約束通り……入れてたぞ……朝から、死ぬかと思った……」


 まじか……雄介そんなことさせてるのか。葵とイチャイチャしつつ京子にはこんなことさせるとか何考えてるんだ? まじで二股とかしてそうで怖くなってきた。

 ま、いいか。上手くいってたならそれはそれで楽しめるし。


「なぁ、ご褒美くれないか」


 そういって京子がスカートに手を掛ける。チャックを下に降ろしてスカートが床に落ちる。そしてその露わになった下半身を見て俺は絶句した。


 なんだこれは……スカートに隠れていた部分に痣が多数ある。まるで人に殴られたような痕、普通ではない。

 俺が衝撃に思考を停止している間に京子は制服を脱ぎブラとパンツだけの裸体となった。その上半身にも下半身と同じように紫色に染まった痛々しい痕が残っていた。


 なんで夏なのに長袖なんだろうと思ってたけど腕にもある。手や手首付近所謂上腕部分は奇麗だが二の腕や肩は腫れてはいないが明らかに殴られたであろう痕跡がある。


 俺グロやバイオレンスは苦手なんだが、どういうことだ? 虐待? いじめ? 


 そんな体を晒しておきながらも京子は恍惚とした表情を崩さない。


「さぁ、今日も私を痛めつけてくれ!」


「は?」


 え? もしかしてこれつけたの雄介?

 まじで?

 鬼畜か?


 京子ははぁはぁと俺が振るうであろう拳を楽しそうに見つめている。京子の体を見ると下腹部あたりにも殴ったような痕、胸はつねったような痕がいくつも、二の腕付近は肩パンしたような痕、下半身は蹴りを食らったかのような長めの痕がついている。


 今か今かと目を潤ませている京子を見るにこれが日常なようだ。

 ……ふー、なし、ないない。俺にそんなアブノーマルな趣味はありません。いきり立っていたものも萎えて俺の頭はすっーと冷めていった。


 俺は京子が脱ぎ捨てた制服を拾うとその痛々しい体を覆うように被せる。


「すまんが今日はそういう気分じゃない」


「そ、そんな! 約束守ったじゃないか!」


 必死な顔で懇願する京子、しかしまともな神経してればそんなことは出来ないと分かってほしい。しなきゃ死ぬって言うなら別だけど素面じゃ無理です。


「あと、こういうのもうやめないか? 俺ももういい」


「何を言ってるんだ! お前が始めた物語だろう! 責任取ってくれよ」


「いやそんなこと言われても困るんだが、と、とにかくもう無理だから!」


 俺はそこから逃げた。体を晒せない京子はすぐには追いかけてくることは出来ない。鍵を開けて小走りで下駄箱へと向かう。


「なんだったんだ……異常性癖もちとか雄介笑えないぞ」


 俺は前の体の持ち主を憂う。どこでそんな曲がってしまったのか。とにかく俺には荷が重い、静かに暮らさせてくれ。


「あ、ゆ~すけ~、いいところにいた~」


 俺が帰ろうと校門へ向かっているとなつみに声を掛けられた。


「ちょっとこっちきてよ~、いいことしよ」


 少し疲れていた俺はその甘い言葉に誘われてなつみについていった。

 なつみなら変なことは起きないだろう。

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