エピローグ: 衝撃=秘密の開示=総理の正体=バグズグリーズ達の宣言















「─────10年前、我が国の研究所の起こした災害。


 物質電送実験の失敗は、ただこの星の環境を歪めただけではありませんでした」





 首相官邸の記者会見場。


 各メディアの記者達などが注目する中壇上に立つは、眼鏡をかけた柔和な若く見える女性。




「より正確に言えば、10年前の事故よりも前。

 偶然生まれたある一人の情報エネルギー生命体がいたことより、今も起こっている事象が引き起こされることになりました。


 その生命体の呼称はバグズグリーズ」

 





 この人物こそが、第186代総理大臣、

 


 二条にじょう 玲梓奈れじな

 初代より続く総理大臣でも珍しい女性総理かつ、おそらく史上最年少の35歳の才女。


 と言うのが、『表の肩書き』である。



「生物、無機物、そして我々が生み出した抽象的な概念。


 この3つが混ざり、出力されてしまった『データ生命体』。


 10年前の事故によりその数は拡散し、人の姿へ擬態する能力を持って、世界中で潜伏するようになりました。

 あの災害により世界中の電子機器がしばらく不調となり、同時に幾つかの事故で紙の資料も消えた結果、戸籍が混乱した期間に大多数が便乗し、今もあなた方と共に生きている者が大半なのです。



 これを聞いている国民の皆さんの中にも、

 あの災害の結果、故郷を失い、帰化せざるを得なかった外国の人種の方も含め、



 ────


 つい先日も議論された、10年前よりの戸籍の混乱、無差別発行し承認された戸籍達も問題による恩恵を得て、少なくとも日本国民として、今も生きているのでしょう」



 一瞬、その一言にどよめきの声が上がる。


 そして、二条玲梓奈は少しだけ微笑み。



「私達と言ったのは、つまりこう言うことです」



 一瞬、その瞳が人間のものではなくなり、光の粒子にその姿が変わったかと思えば、


 壇上にいた若い総理大臣は、恐竜のような骨と灼熱のマグマの様な体表を併せ持つ恐ろしい怪人へ姿を変えた。



「驚くのも無理はありません。

 私もバグズグリーズ。専門家の言葉を借りて強いて表現するのなら、『ティラノサウルス・バグズグリーズ』と言うのでしょう」



 再び、逆のプロセスで元の人間の姿に戻り、そう言葉を続ける玲梓奈。



「私が政治家になれたように、すでに政府の大部分はバグズグリーズの存在、そして人権を認めています。

 皆さんもご存知の、『2114年度緊急戸籍帰化法』における条文にてです。

 自ら、その身の正体を申告し、人と同じように過ごしている確認されたバグズグリーズも数多く存在します」



 どよめき、シャッターも多く鳴り響く会見場の中、玲梓奈は続ける。



「ですが、10年の時がたった今でも、新たにバグズグリーズが現出しています。

 そして、今出現した方であろうと、過去に生まれ身を潜めた方ですら、中にはこの国の法律や秩序をその能力で乱す者もいます。


 普通の人間の国民の皆様は、当然私達が恐ろしいでしょう。


 ですが、ご安心ください。


 我々は、すでにバグズグリーズを取り締まる力を得ているのです」




 そして映し出されるは、


 数分前までの、アサルトライブの戦い。



          ***



『我々バグズグリーズの恐怖はあるでしょう。

 しかし、我々を無闇に恐れないでほしいのです』



「しばらくは無理でしょ。隣に歩く核弾頭がいるようなもんじゃん」



 ティルトローターの中、床に寝転んで動けず、携帯電話で会見を見る守莉がつぶやく。


「ひでぇ言い方だなアンタ!

 アンタもその核弾頭の一匹じゃないかよ」


 と、座席で頭の後ろで腕を組む褐色肌の美女──シオの人間体は膝の上にライオーをねころばせながら脚の近くの守莉に言うのだった。



「しかも起爆済みだしな、10年前に。

 どうせこの後は玲梓奈も「人間の皆さん怖がらないで。バグズグリーズ友達、怖くない」って言うだけだろうけど、アンタら会見の続き見る?」


「ねー、守莉ちゃーん!

 競馬見たーい!!」


「子供向け番組みたいノリで競馬要求かよ、痛てぇ!?」


 グギリ、とツッコミした表紙に痛めた肩をさらに痛める守莉。

 悶絶してしばらくうずくまる。


「〜〜〜ッ!!

 いや、7年間、マジで殺人的負荷の頃からトライブシステムの実験台してるけど‪……‬!

 あー、必殺技エクスドライブ一回しか使ってないのに、全身痛い‪……‬!!」


「私も疲れたー!ベロー」


 本気で痛みに耐える守莉に対して、大袈裟に疲れた顔で舌を伸ばして言うライオー。


 一応、ライオーも本当に消耗していた。


「‪……‬‪……‬融合しているこっちも体力消耗か。

 装着は絶対したくはないね、ボクは」


「アンタ、一応装着者候補なんだから、いつか実験で全身バッキバキになるから覚悟しときなよ」


 うへぇ、と言うシオの反対側の座席から、

 す、と一本のバナナと500mlの牛乳が渡される。



「守莉ちゃん。

 疲れには、塩分以外のミネラルも摂ると良い」


 スラっとした長身の黒髪の女性‪……‬なんと、ゴリラ・バグズグリーズこと、ミサトの人間体であった。


「あんがと」


「ミサトちゃん私もー」


 と、受け取って食べている間に、すぐ近くでライオーはバナナを食べさせてもらっていた。

 相変わらず、ミサトはライトニングライオーに甘い。などと思いながらこちらも牛乳を飲んでいた。



「‪……‬‪……‬超音速のチェイサー・ブレイク、連続フォームチェンジ、複数回のトライブのオーソライズ攻撃、でも一度のエクスドライブ。


 これで、一応知る限り最強クラスのバグズグリーズの身体へ負荷が強すぎて動けなくなるほど、か」


 そうしている間に、ミサトはバナナ片手に頬張りながら、もう片方の手で守莉の装着していたベルト‪……‬


 非公式愛称、アサルトライバー:00


 それを見ながらつぶやく。


「‪……‬‪……‬目標は、人間が装着して、バグズグリーズを制御する為の兵器だった筈なんだけどねぇ。


 いや、その『0号機』のアサルトライバーは基礎研究用だしさ」


「うむ‪……‬私達、バグズグリーズは基本通常兵器が効かない。

 と言うより、普通の物質は触れただけで改変出来る。

 動物、無機物、概念のデータ。

 私たちを構成するそれらに結びついた物質へ‪……‬


 みんなご存知だろう、我々バグズグリーズの『物質転換能力モーフィングパワー』だ」


 ふと、ミサトの手の中の食べたバナナの皮が黒く変色し、炭のようになる。

 燃えたわけでもなく、バナナの皮は確かに炭へと『変換』された。



「そもそもアタシらを余計なモン混ぜて出力した物質電送っていう技術自体、


 一回物質を全てエネルギーの波で表したデータへ変えて、それを目的地でエネルギーから再構築するっていう作るのが早すぎたトンデモ技術なんだから。


 その一端が、アタシらに宿ってしまったわけで」


 そして、パンと守莉がデコピンしたそのバナナの皮の炭が、光になると言った表現が似合うように空中で消えて散っていく。




「それに対抗するには、同じ力しかない。

 小銃弾でもAPFSDSでも撃ち込まれりゃ、数秒後には自分の身体に変換して傷塞ぐような化け物を倒すには、


 相手の傷を上書きできるだけの強い『物質変換能力モーフィングパワー』をぶつけるしかない。


 でも同じバグズグリーズ同士普通に殴り合っても、この力自体の強さは、数値化しても実態としても、まぁなんていうか同レベルというか‪……‬ごく一部を除いたら、どんぐり乗せ比べさ。


 毒持ちとかの例外除けば、なんか裏を描かない限り真正面からやり合っても‪……‬泥試合。


 なんで、ドーピングがいるからこんな変身ベルトを私達が作ったわけだ」



 コツコツ、とバックルのみの状態のアサルトライバーを叩く守莉。

 その視線には‪……‬愛着と、複雑な感情が見える。


「おーい守莉ちゃーん?どうしたのー??おねむー?」



「‪……‬‪……‬この10年、アタシの過去の過ちの償いのために戦ってきた。

 コイツが、一回変身するごとにアタシは全身複雑骨折して、治す為の力も回復しない日が長かった時代から、ずっと」



 アサルトライバーを見つめる守莉の目。




 それが映すのは、彼女にとって最悪の過去。

 そして、最善の未来と信じる一つのヴィジョン。




「────もうすぐコイツは、アタシを倒せる物になる。


 そうなったら、アタシはもう何も文句ないわ」



 うへぇ、と嫌そうな顔をするライオー。

 他も呆れた顔を見せる。



「守莉ちゃん」


 と、ガシリとその顔を掴み掛かるミサト。


「前向きな自殺願望は、笑えない」


 いつもと変わらない表情で、静かに威圧感あるいつもより低い声でそう言い放つ。



「‪……‬‪……‬」


「守莉ちゃん。

 アサルトライバーは、というか今0号から6号機まで稼働中の『トライブシステム』は、


 そもそもが矛盾を抱えた正義の味方の武器だ。


 バグズグリーズを倒すためにバグズグリーズの力を使う。


 そして装着者も、今現在はバグズグリーズじゃないと扱えない。


 その上で、この装着者とバグズグリーズを融合させるというコンセプトの都合上、相性の良さも装着者とバグズグリーズに求められる。


 その上で、死んだ方がマシの負荷に耐えられ、今の世界のそこそこな平和を守る為の意志を持っているような装着者も」



「そんな高尚な装着者の人間がいつか使えるようにするために、コイツの基礎システム構築にはアタシこと0号バグズグリーズが使う必要があった。


 全部のバグズグリーズの始祖、偶然生まれた最悪の怪人が」



「違う」


 グリグリとこめかみの辺りをグーで押し付けてくるミサト。



「過去にやらかしたとしても、私達が元の生き物ではなくなった原因でも、


 守莉ちゃんはただの優しすぎるウサギさんでしかないだろう?


 お願いだから、10年以上付き合ってる友達の私の、

 その友達である自分の事を‪……‬悪く言わないでほしい。


 もう人間のみんなにも信用されてる立派な装着者なんだぞ‪……‬守莉ちゃんは」



「‪……‬‪……‬」



 そんな事を言われて、内心どう思おうと守莉は何か言えるような性格ではなかった。




 不服はあった。今でも自分が許せてないのだから。


 ただ、目の前の滅多に怒らない優しいニシローランドゴリラの女の子に反論でもしようものなら‪……‬もっと自分が許せなくなる気がした。




 なんて考えている内に、頭の上をポンポンとされていた。


「生きづらそうな顔してんねぇ?

 もっとこう、今日のお夕飯のデザートが楽しみっって思って生きればー?」


「すっごい説得力だなライちゃんや」


「ところで、今日のお夕飯のデザートは守莉ちゃんがアイス3つもくれるって言ったんだよねぇ〜〜???

 私すっごく頑張ったよ〜〜???

 すっごく頑張ったし良いよねアイス3つ〜〜??」



 自分の頬を揉み揉みしながらウザ絡みするライトニングライオーに、コイツは悩みとか無さそうで良いなワガママサラブレッドウマ女めと内心イラッとする守莉。



 だがまぁ、仕方ない。

 すぐにため息を吐いてそう心を切り替える。



「どうせ明日から仕事増えるしね。

 しゃあない、この場の全員に奢ってやるよ!」



「おっ!流石教授!!いやぁその一言を待っていた!!

 なんだ、何が最悪の怪人だよ!!給料日前のボクにとっては女神様だ!!」



「‪……‬‪……‬‪……‬今日はチートデイだったな」



 現金な奴等である。

 仕方がない、ほぼ元は野生動物か、人になれた動物なのだ。現金じゃない方がおかしい。



「ただ言っとくけど、明日からマジで忙しくなるからなー?


 もう、アタシらはコソコソ生きている怪物じゃない。

 言ってしまえばクマみたいな厄介な隣人。


 そしてそれに対処する調教されたクマみたいなもんだって人様ひとさまは認識するだろうしね」



 はぁ、とため息をつく守莉。



「アタシらは、もうトラブル一つ起こせないかもしれない。

 まぁ最悪私は10年前に世界を滅ぼしかけた上に大量のバグズグリーズを生み出した原因なんで、日本国憲法適応される身分に正式になった以上は逮捕、裁判、終身刑ぐらいはなるかも。


 そうでなくとも、ここにいるメンツはバグズグリーズが秘密の頃から細々とバグズグリーズの確保と収容と保護をしていたんだ。


 玲梓奈の奴だって、解散総選挙後の政権交代もあり得るスキャンダルだろうし‪……‬


 いままで公にできなかった分仕事量も少なかったけど、公になった以上は今稼働できる他のトライブシステム全稼働で対処しないといけないよなぁ‪……‬



 まぁ長々語ったけど、要するにアタシたちはコレからやることが多い」



 ふぅ、と改めてこれからにため息が出る。




「‪……‬こっからは気合い入れて引き締めておかないとな。


 多分、『厄介なの』も動き出すだろうし」





           ***






「────厄介なの、だってー。

 あははは、酷い言い方だね〜、守莉ちゃーん?」



 高層ビルの上、立ち入り禁止のはずの場所で、空を飛ぶ航空機を見る何者かの影。



「まぁ、文字通りの『地獄耳』で盗聴しておいて言うのもアレかな?


 でも‪……‬厄介、か。


 私の事、『敵』とすら思ってないとか、そう言うふうに聞こえるのは癪だね、やっぱり」


 トン、という軽やかな足取りで、高層ビルから飛び降りる。


 両手を水平に広げてバランスをとり、トントン、と、ビルの壁を蹴りながら、速度を調整して降りていく。







「明日にでも挨拶に行こうか。

 せっかく、真面目に世界征服を企む悪の親玉なんてやってるんだしさ」





 はははは、と楽しそうな笑い声が、ビルの影へ消えていった‪……‬‪……‬






           ***

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