第3話:ゴリラ×ヘビ=頼もしい仲間≒ただし着地はマヌケ








 前回、

 助けを呼んだアサルトライブこと守莉の近くに、頼もしい仲間二人が頭から地面に突っ込んで埋まっていたのだった。




「助け呼んどいた身でアレだけどさぁ!?

 いやまじで何してんだ二人とも!?」



 ごめんと、完全に何やってんだコイツらという目の敵に謝り、急いでまずは‪……‬黒くて大きな方を引き抜く。


「ぬ、ぐぬぬぬ‪……‬ほい!」


「おー。

 すまない、守莉ちゃん」


 ポンッ、と抜けたのは、女性とゴリラの意匠をもつ黒い怪人バグズグリーズ

 何より目を引くのは、巨大な腕と全身に広がる漆黒に光る筋肉。


 立ち上がる身長も、アンキロサウルス・バグズグリーズに負けず劣らず高い。

 いかにもなパワー系のバグズグリーズに、流石に敵ことアンキロサウルス・バグズグリーズも身構える。



「む?待ってくれ。そちらの相手は私ではない」



 しかし、その口から出たのは意外な言葉だった。




「ミサトちゃんさぁ、なんで地面に突き刺さってたのか悪いけど、早速だけどチェイサーのこと頼むよ」


「了解した」


「待て!?おまえその見た目で戦わないのか!?」


 一瞬固まったアンキロサウルス・バグズグリーズだったが、すぐさまそうツッコミを入れる。


「私は、見た目が強そうなだけで平和主義者なんだ。

 ニシローランドゴリラ・バグズグリーズだし」


 しかし、帰ってきたのはそんなセリフだけだった。

 唖然とする相手の目の前で、サイクロンチェイサーに向き直り、早速カウルを外して腰のポーチから色々工具を広げ始めた。



「そうなのか!?いやそこじゃないが!?!」


「お前ね、ゴリラは基本平和主義者の優しい生き物なの。

 しかもこのミサトちゃんは元から研究職で戦いは専門じゃねーの!

 今回も四国の研究施設の出張で出張ってくれてたのを無理言って戻ってきてもらったんだよ‪……‬


 ってか、残り5分以上はかかる距離どうやって詰めたのミサトちゃんや」



軍用の垂直離着陸輸送機オスプレイ6で間に合わないならジェット戦闘機スクランブルさせても無理だしね。


 だからブロント二尉のレールガンでトライブ状態で射出してもらったんだ」



 頼もしい『軍人のバグズグリーズ』の名前を聞いて、ああと納得と自分は絶対にやりたくはない『速達』の仕方に内心怯える守莉だった。




「くっ!戦いの最中に緊張感のない真似を!!

 そもそも私が襲えばよかったではないか!我ながら間抜けな!!」



「安心しな。

 私ともう一人が相手だ」


「もう一人‪……‬!?」


 ────間抜けな事を二度していたことに気づき、ハッとなってもう一つの着弾地点を見るアンキロサウルス・バグズグリーズ。



 いない。



「どこだ!?!」



 瞬間、気配を背後に感じ後ろを振り向くアンキロサウルス・バグズグリーズ。


 そこには、鎌首をもたげるように立ち上がる、



 ヘビの尻尾のような物があった。




「────ハズレだぜ⭐︎」



 ボンッ!!



 直後、アンキロサウルス・バグズグリーズの下顎に凄まじい衝撃が生まれ、一瞬意識だけが身体から上に飛ばされたように遠のいていく。





「オイオイ、白亜紀の恐竜だろアンタ?

 一応白亜紀には、ボクらはいなかったのかい?」


 魂ごと上を向いたままのアンキロサウルス・バグズグリーズの股下、そこを這う細長い胴体。


 金属のような光沢の茶色い鱗と文字通り『蛇腹』の腹側。

 鎌首をもたげるように、女性的な輪郭の上半身と両腕が巨大な拳銃に似た物になった異形の怪人が、顔上半分の半透明のパーツの奥からヘビの目を二つ輝かせて言い放つ。



「それ百年前から今まで議論中らしいけどさ、

 少なくとも毒蛇は大分進化したナミヘビ上科って奴だから、最近の話なんだよ。


 シオ、アンタみたいな毒蛇を怖がる生き物、って奴がね」



「へっ!為になる解説ご苦労さん、教授殿?」



 ぐあ、と呻きながら、なんとか意識と焦点を保つべく頭を振るアンキロサウルス・バグズグリーズ。


 それを見て、険しい顔で隣のヘビ怪人───シオの方を見る守莉。


「お前、何サボって『.357マグナム弾サンゴーナナ』で撃ってんだよ!」


「は!?少なくとも『.44マグナム弾ヨンヨン』じゃなきゃ抜けないって言ったのそっちじゃんかよ!!

 ボクはちゃぁんと、みんな大好き『.50AE弾ゴーゼロ』でやりましたぁ!!しかも二発同時に当ててやったよアゴにさ!!見たろぉ!?」



「お前アサルトアームズの『.50AE弾ゴーゼロ』効いてなかったって聞かなかったの?」



「ハァ!?!」




「─────ごちゃごちゃ漫才か!?!余裕が腹立たしいッ!!!」



 ゴウッ、といつの間にか回復したアンキロサウルス・バグズグリーズの握るタングステン製ハンマーの横凪を、ジャンプし、地面に伏せてなんとか避ける二人。



「最強のマグナム弾だぞ!?

 じゃあ『500S&Wゴヒャク』でも無理ってことかい!?」


「ああ、最悪だよなぁ!!」


「──ぐっ!!」


 しかし、一発反撃したアンキロサウルス・バグズグリーズが、頭を抑えて一瞬動きを止めた。



「‪へー?

 守莉教授殿!ほれ!」


 と、着地した守莉に投げられる丸い物、


「.50AEでも、当たりどころ良ければ効いてはいるようだ。

 ボクは『.600 N.E.エレファントガン』ぶちこむしかないが、教授はどう思う?」


「そりゃ1か2ぐらいに硬い恐竜だからさ!

 本当は戦車砲用意すべきだったかもね!」


 かちりと側面のボタンを押すと、円形の液晶に浮かぶヘビとハンドガンを組み合わせたようなマーク。



《MAGNUM!》


 それは、シオのトライブだった。


 流れる音声、同時に、ベルトにはまっていたライトニングライオーのトライブを外す。



「──おー!休憩時間だー」


 と言いながら、守莉の身体を覆う装甲が光と共に解け、それが1箇所に集まり出てきたライトニングライオーが行くのを、肩を掴んで守莉は止める。


「待てや。まだ使うから、戻って♡」


「え“っ”!?!」


「後で埋め合わせするから今はちゃんと戻ろうねぇ‪……‬!?!」


 頬を膨らませて「ぷきゅー」と遺憾の意を示すライオーを無慈悲にトライブへ戻し、シオのトライブを代わりにベルトのバックルへ装填する。



《GET SET. READY?》


 そして隣に来たシオと共に腕をあげ、人差し指と親指で銃の形を作り前へ向けるポーズを取る。


「「アサルトチェンジ!!」」


 空いている左手でベルトのトライブをさらに押し込む。


《INSTALLIVE.


 TERCIOPELO

 +

 THERMAL SENSOR

 +

 MAGNUM》



 銃を撃つ真似をして腕を上げ、ばぁん、と呟いたシオが光のデータへ解けて守莉へまとわりつく。



《STARTING!ASSAULT-RIBE.

 RUNTIME = MUGNUM-TRIBE》



 渦巻く光から、茶色い装甲と頭部の巨大バイザーを光らせたアサルトライブの新たな姿‪……‬


 マグナムトライブの姿が現れる。



「さて、」



 取り出すアサルトアームズ。

 その剣の柄を90度曲げると、長い両刃が引っ込み鍔にあたる部分が閉じて四角い『銃口』を覗かせる。



《Magnum-mode》



 再びマグナムモード。

 そしてベルトへスライドに当たるパーツをかざす。



《TRIBE ABILITY AUTHORIZE.

 LET‘s BUSTER TIME!


 MUGNUM ABILITY!!》



 マグナムトライブの力──シオのバグズグリーズとしての力とアサルトアームズをリンク。



「グッ‪……‬味な真似をする!!!」


 と、頭を振ってようやく脳震盪をおさめたアンキロサウルス・バグズグリーズが守莉の方向を見る。


 再びハンマーを構えて迫る相手に対して、静かに守莉はアサルトアームズのグリップの上、銃の弾を装填するはずの部位であるスライドを引く。


 視界の表示の文字が、一回引けば『.50AE』のグリーン文字へ、2回目で『12.7×99mm』と黄色い文字へ、3度目で赤いWARNINGの表示と『.600 N.E.』の文字に変わる。


「お前の頭は揺らすだけでは済まさんッ!!

 潰れて死ぬがいいッッ!!」



 迫るハンマーの中、静かに守莉は構える。

 右手でアサルトアームズのグリップを掴み、左腕でその右手首を掴む。



 その守莉の視界の色が変わる。

 青、緑、黄色、赤。

 原色のみで構成された、



 アンキロサウルス・バグズグリーズの腹部に、肩に、青色の中に唯一赤く、黄色が滲む場所が見える。





 ズガァンッ!!!




 引き金を引いた瞬間、充分反動に耐える体制であったにも関わらず身体一つ分後ろへ下がる。



「ガッ!!!」



 アンキロサウルス・バグズグリーズが呻きながら攻撃を辞めて腹部を抑える。


 なにせまだ塞がっていなかった腹部の傷に、正確にアサルトアームズの一撃を撃ち込まれたのだ。





 マグナム。

 元々は、酒の増量瓶を指す言葉だった。


 転じて通常の拳銃弾より大きく、そして長くした薬莢に、強力な発射用の火薬を増量して入れた銃弾を指す。


 かつては、ケブラー防弾チョッキを着始めたギャングを撃つ為に生まれた警察用。


 今は、凶暴で大型な、そして硬い頭蓋骨を持つ獣を撃つ為に使われる強力な銃弾、



 そしてをそれを発射する為の専用の拳銃を指す言葉だ。


 そのマグナムの力を持つこのマグナムトライブの一撃で、



「ぐぅぅ‪……‬!!」



「おいおい、.600NEモードで表面ようやく抜けただけかい!?」



 対して刺さってはいない‪……‬!



 守莉の今の視界には、相手の傷の深さが熱として見えた。



「ガッ‪……‬ゴホッ!!ゴホッ!!」


 ただし、衝撃は別のようだ。

 恐らく内臓へ伝播した衝撃でうめいている。



『リロードしときな!!

 手負の獣が一番危ないだろ!?』


 融合しているシオに言われ、すぐさまアサルトアームズのグリップの下のリロードハンドルという部位を引き、発射エネルギーが装填される。


 アサルトアームズは、威力に比例して総点数が減っていく。

 最大威力である.600N.E.モードは、一発ごとにリロードが必要だった。


「ハァ、ハァ‪……‬グゥゥ!!!」


 アンキロサウルス・バグズグリーズが再びハンマーを振り上げた瞬間、ズドンとその右肩関節に一発撃ち込む。



「ぐぁ‪……‬ッ!!!」


 ドスン、とハンマーを落とすアンキロサウルス・バグズグリーズ。


 守莉はリロードし、再び構える。


「一方的になってきたな。大型獣相手に銃は有効、ってか?」


「ハァ‪……‬ハァ‪……‬獣、だと‪……‬?

 笑わせるな、卑劣な、者どもが‪……‬!!」


 一番弱い部位に叩き込んだはずの右腕で、再びハンマーを握り、立ち上がるアンキロサウルス・バグズグリーズ。


「私が、何をした‪……‬!?」


「‪……‬何が言いたいんだよ?」


「私は‪……‬‪……‬お前たちに‪……‬何も‪……‬していない!!

 だが‪……‬ハァ、ハァ‪……‬グッ、だがお前たちが、私を襲い‪……‬どこかに連れ去ろうとした‪……‬!!」



 ‪……‬‪……‬非常に、耳が痛い問いをかけてくる。



「ぐっ‪……‬‪……‬気分が悪い‪……‬お前たちのような卑劣な‪……‬誰かに‪……‬私の命を、グッ!?

 ‪……‬自由を、脅かされるのはな‪……‬!!」



「‪……‬‪……‬そりゃ気分悪くもなるさ。

 あんた、傷口を見て何も気づかないか?」



 守莉の言葉に、アンキロサウルス・バグズグリーズは初めて腹部の傷を見る。


 ────銀色だった鎧が、妙な色に変色し、光の粒子のような‪……‬バグズグリーズにとっての血が滲む。


「なんだ、この傷‪……‬!!」



「アタシらは、バグズグリーズ。

 生物、無機物、概念。この三つが混ざって出力された、この世のバグキャラ。


 そして、今私と融合しているシオは───


 テルシオペロ・バグズグリーズ。


 中南米最強のピットバイパー‪……‬毒蛇のバグズグリーズさ!!」








 ────ヘビの約25%は、毒蛇である。


 毒蛇といえば、そう呼ばれる半数の種を占めるコブラ科の毒蛇達が有名だが、


 危険度という意味では、毒蛇の25%を占めるクサリヘビ科と言われている。



 獲物を麻痺させ足を止める神経毒を多く保有するコブラ達に対し、


 クサリヘビと呼ばれる毒蛇達が持つは、『出血毒』。


 タンパク質を、血管を破壊し、噛まれた部位を壊死させる毒を持っている。



 テルシオペロ、和名「アメリカチュウオウハブ」。


 クサリヘビ科のもう一つの武器、赤外線を探知する能力で獲物を探し、一瞬で獲物に噛みつき毒を流し込む凶悪で危険なの毒蛇。


 その出血毒は強烈の一言。


 何より一瞬で噛みつき投与する毒の量が、ほぼ人間の致死量レベルと大変に多い。





「何より、シオのバグズグリーズの概念は「マグナム」。

 ただ弾丸の発射エネルギーを上げるだけじゃない。

 弾丸には出血毒を込められる‪……‬それでこそ元の意味の増量瓶マグナムボトル並の量をね!!」



「毒‪……‬!!」



 アンキロサウルス・バグズグリーズの弾丸が撃ち込まれた2箇所が、壊死を始めていく。



「人間の毒耐性はゾウ並みって言われてる。

 そんでもって、今打ち込んだ毒の量は、」



『適当に、ゾウ4頭分の致死量、ってところかな?』



「ハァ‪……‬ハァ‪……‬!!

 ひ、卑怯な‪……‬!!」



「卑怯さ。アタシはこんな見た目だけど、アタシはヒーローなんかじゃない」



 改めて、アサルトアームズを構え、銃口を弱点へ向ける守莉。




「アンタには同情するけど、アンタもアタシらと同じバグズグリーズ。


 ただ生きているだけでも、迷惑な存在なんだ。


 勝手な都合と罵られようと、元は米軍の先走りのせいと言っても、ここまで暴れられたら力ずくで捕獲する必要があるのさ」



 一瞬、お互いの視線が交差する。

 怒り、嘆き‪……‬何かしらの胸中を、察してしまえるだけの時間を。



「‪……‬フゥーッ‪……‬!!

 言ったはずだ‪……‬私は、お前たちのような輩には屈しない‪……‬!!」


「言ったっけか?毒で記憶混濁してるんじゃないのか?」


「ならばもう一度言う‪……‬!!

 誰が、お前らに屈するものか‪……‬!!」



「───舐めんな。

 屈する屈さないじゃない。お前は捕獲する。

 嫌でもだ、お互いに」




 そう言って守莉はトライブを外し、再びライオーのトライブをベルトへ入れる。



《STARTING!ASSAULT-RIBE.

 RUNTIME = LIGHTNING-TRIBE》



「ミサトちゃん!!出来た!?」


「ちょうど今だ!!受け取、ってッ!!!」



 ライトニングトライブの白い装甲へ変わった守莉ことアサルトライブへ、ミサトがその見た目通りの筋肉をフルに使ってチェイサーの重い車体をぶん投げる。



《アサルトライブ、音声認証で頼む!!》


「ハンマーモード!!」


《Hammer-mode.》



 瞬間、スーパースポーツタイプのバイクだった姿が開き、サイクロンチェイサーの姿が巨大なハンマーへと変わる。


「なっ!?」


「いつか、お前みたいな硬い奴が来るって分かってた!!」



 ブゥン、ブゥン、と二つのハンマーが空気を切り裂く。


 ズガァァァンッッ!!!


 ぶつかり合う巨大な質量二つ!!


「グッ!!」


「毒入りで、パワー負けかぁッ!?」



 振り勝ったのは、アンキロサウルス・バグズグリーズ。

 弾かれた守莉の身体が空中を舞い、瞬間ライトニングトライブの脚力で空気を蹴る。


 空中で、跳躍する。


 圧力を力に変えるライトニングトライブの能力の、応用。


「何を、ガァッ!?!」


 ズガァァァン!!!


 ノーガードのその身体に、空中からの跳躍力を乗せた一撃を放つ。


《Sword-mode.》


 地面への着地の瞬間、アサルトアームズをソードモードに変える守莉。


《TRIBE ABILITY AUTHORIZE.

 LET‘s BUSTER TIME!


 LIGHTNING ABILITY!!》



 刀身へ稲妻を纏わせ、敵がダメージから回復するよりも早くアサルトアームズを突き立てる。



「─────らぁッッ!!!」



 ゴスゥンッッ!!!!


 突き立てたアサルトアームズを、ハンマーモードのチェイサーでぶっ叩く。


「ガッハァッ!?!?」


 刀身は、わずか数センチ。

 しかし数センチは確実に突き刺さる。



「硬いよなぁ中まで!!

 ライちゃん、必殺やるぞぉッ!!」


『アレ疲れるから嫌、』


 ベルトのバックルのトライブを守莉は、アサルトライブへの変身と同じく再度押し込んだ。



《EX-DRIVE.》



『え、マジで使うの!?!もー!!せめて許可とってよぉ!!!』


「悪いけどこの気は逃せないッッ!!」



 バチバチとアサルトライブたる白い装甲に、無数に走る放電。

 首の付け根の、冷却用強制余剰エネルギー排出機構が稼働。

 一際巨大な放電現象が起こり、


「最速で、決めるぞッッ!!」


 一瞬、電のマフラーがアサルトライブに現れる。


「何、」



 ───を、まで言う間に、アサルトライブが二人に映るアンキロサウルス・バグズグリーズ。



 違う。


 稲妻と成ったアサルトライブの速度に視界が追いつかず、残像を見ていた。




 ピシャァァン!!



 蹴りの速度は光速。

 性格にアサルトアームズを蹴り上げる様は、避雷針に落ちる雷そのもの。



「ガァァァァァァァァァァァッッ!?!?!」



 さらに深く、アーク放電を伴った剣がアンキロサウルス・バグズグリーズの腹部に僅かに深く突き刺さる。


「まだまだァァァァッッ!!!」


 さらにもう一発─────いや数十発の稲妻の蹴りが突き刺さったアサルトアームズへ叩き込まれる。



「ガッ、貴様ァァァァ、」


「遅いッッ!!」


 反撃の一撃を回避し、通り過ぎた場所へまた戻り、さらに百発。


「ガァァァァァァァァァァァッッ!?!?!」


「オラオラオラオララララララララララララララララァ───────ッッ!!!」


 ほぼ一瞬の百発で転倒したアンキロサウルス・バグズグリーズへ、更に稲妻を撃ち下ろす。



 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!



 100、300、600───1000発の雷鳴が鳴り響く中、アサルトアームズの刃が深く、深く突き刺さっていく。


「ああああああッッ!!!この、このまま、私が‪、負けるのかッ!!!」


「お前は悪くないけどなぁ!!

 アタシはなんとしてでもアンタを捕獲しなきゃいけないんだよッッ!!!


 悪いけど、一回『データ破砕』する!!!!」



 1万発の稲妻蹴り。

 そして、


「これで、終わりだァァァァッ!!!」


「ガァァァァァァァァァァァッッ!!!」


 最後の一発が叩き込まれ、アサルトアームズが貫通した。


「あ、あ‪……‬あぁ‪……‬!!」


 腹部の巨大な穴、アンキロサウルス・バグズグリーズの傷から、大量の光が溢れる。



「────ふぅーっ‪……‬!!」



 着地した守莉の長く吐く息と共に、アサルトライブの白い装甲の隙間や、首周りの余剰エネルギー排出機構から白い蒸気が冷却のために排出される。



「もはや‪……‬ここまで‪……‬か‪……‬」


 そして腹部の重大な傷を抑え跪くアンキロサウルス・バグズグリーズの全身が、光の粒子へ解け始める。


「何終わりみたいな空気を出してんだよ」


 しかし、そんなアンキロサウルス・バグズグリーズへ守莉は近づいていく。


「我が不落の鎧は砕けた。

 我が身が消えていくのは分かる‪……‬


 殺せ。虜囚の辱めは、」



「バグズグリーズは死ねない。

 データ破砕しても、消えるのは、お前のデータと同じ物が周囲50km圏内」



 す、と守莉はあるものを取り出す。


「アンキロサウルスみたいなもういない生き物は、可哀想だけど別にいい。

 お前の無機物のデータ‪……‬タングステンが消えるのはこの社会では容認できない」



 カチリ、とスイッチを押すのは、空っぽのトライブ。


「これ、は────」


 光の粒子として大気へ解けていくアンキロサウルス・バグズグリーズが、トライブへ吸い込まれていく。


 ピン、と最後の光を吸収した時、液晶には西洋鎧のような意匠のあるアンキロサウルスのような青い線の絵が浮かび上がる。



『貴様‪……‬私を捕らえたのか‪……‬!』


「捕獲するって言ったはずだけどな。

 アンタを欲しがる相手はいくらでもいるんだ。




 そう‪……‬そういえば、始めたのはだったっけ?」




 右手のトライブに話しかける守莉を取り囲む、米軍のサイボーグ特殊部隊達。



「‪……‬‪……‬」



「そこの女の人。

 複雑な顔だな。流石に助けた相手へ銃は向けたくないってかな?」



「‪……‬‪……‬日本政府の、日本国内閣官房直属、対バグズグリーズ特務機関‪……‬だったか?

 我々は、同盟国に銃を向けたくはない」


「だから、コイツを渡せってか。

 ダメだね。

 まだ米国にはアタシらのための法律がない」


「アタシ‪……‬ら?」



 守莉は、アサルトライブとしての顔、黄色いバイザーを上げて顔を見せる。



 真っ赤な目と、涙のような赤い線のある。


「!?」



「アタシの戸籍上の名前は『高本守莉たかもとまもり』。

 でも、本当の名前っていうのならこう言うしかない。


 アタシは、ラビット・バグズグリーズ。


 こうやって半分怪人化しないと使えない武器を使ってバグズグリーズを捕獲している」



 カシャン、とバイザーを戻す。

 絶句する米兵達に、そして彼らサイボーグの視界と共有された映像を見る後ろの面々に、改めて言う。



「今まで、この10年。

 世界がおかしくなってからずっと、100年以来の日米安保条約を結んだアンタら米国にも黙って、私たちのミスで生まれた怪物を捕獲していたのも、


 そしてその怪物である私達が静かに人間のふりをして生きてきたのも、今日までだ」




 上空から突然光が現れる。

 ババババ、と回るローター二つ。守莉の仲間の乗るティルトローター機からの光が守莉達を照らす。




「もうすぐ、うちの国のトップからある宣言が出る。

 世界が変わるよ。いや、変わっていた事を皆に伝える日が来た」



 にぃ、と口元で笑いながら、守莉はそう言い放った。




          ***

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