第2話:(硬すぎ+タフすぎ)−新武器=そこで起こるトラブル
「アサルトライブ。それがアタシの名さ!」
名乗っておいて、派手過ぎだなと守莉は自嘲していた。
ヒーローの名乗りになんの意味があるのか?
テレビ番組の前のちびっ子達に、名前を覚えてもらう為?
商品の販促の為?認知度を広げて視聴率を上げる?
どちらも、仮にも政府所属の守りには、アサルトライブには不要。
ただし、こう派手に名乗り、相手を挑発すれば、
少なくとも、近くの米軍へは注意は向かない。
逃げる隙ができる。
「アサルト……ライブ?」
「覚えにくいかい?ま、草食恐竜はアホらしいって聞くけどな」
乗ってきた乗ってきた。
悪いとは思っているが、これはいわば『人命救助のための舌戦』。
「アホのアンタにも教えてやるよ。
アタシらは、アンタみたく生まれたてのバカにこの世の道理ってヤツを叩き込みにきた。
いくら怪物でも、人様の作った社会のルールは守らないといけないわけさね」
現在、良くも悪くも救助した米軍達へ怒りが向いている。
それはまずい。サイボーグはここ10年で飛躍的に技術が伸びたが、初戦想定は対人。
前の戦争で、超人血清だので凄い身体能力の兵士が生まれたりもしたし、パワードスーツも今は消防士も使っている。人の下限は上がっている。
「特にアンタ!
分かってるか知らないけど、公共の施設破壊は人間でも重罪だよ?
金持ってる?賠償金払えるわけ?
持ってたとして、弁護士の知り合いいるか?
裁判でふんだくられるよ、いろんなところからさ!」
だけど、それはまだ人の範囲の話。
コイツは……さっきから怒りどころか憐れむ様な目でこっちを見下しているような顔の、アンキロサウルス・バグズグリーズ相手は、無理だ。
逃げてくれ。
頼むから、命令に忠実で屈強な精神の米兵は今は捨てろ……!
「さっきから、」
───瞬間、一番嫌なパターン引いたかもしれないセリフの、最初の単語かもしれない言葉がやってきた。
「なにをそんなに周りを気にする?
ここにいる不届き者どもがそんなに大事か?」
最悪のパターンを引いた。
流石に血の気が引く守莉。
「そ、」
「コイツらに手を出すと困るのか?」
直後近くの適当な鉄棒を掴むアンキロサウルス・バグズグリーズ。
瞬間、それは巨大なハンマーへ変化して引き抜かれ、近くにいたサイボーグ米兵の真上に振り上げる。
(思ったより、勘がいい!!)
走り出せば間に合う。ライトニングライオーの力を使っている今なら。
だが、振り上げたままあの女騎士の様な相手は動きを止める。
流石に腰を抜かした米兵を尻目に、いつでも走り出す姿勢の守莉を見るアンキロサウルス・バグズグリーズ。
「コイツらは、私を焼き殺そうとした。
死には死を。命を狙う者にはその命に償いを」
「バカ言ってんじゃないよ!!
いつの時代の価値観だ!!!」
「では誰が私の受けた痛みの償いをすると言うか!?
我が身体だけではない、魂に傷をつけ、侮辱したコイツらの償いは誰が!?」
「それでこそバカか!!
ここにいるだろ、ここに!!」
流石に色々な考えが吹き飛んでしまい、とりあえず自分を指差して言っておく守莉。
とりあえず自分に意識を向けて……とまで考えてふと、相手の言葉のとある部分に気付く。
(痛みって言ったかコイツ!?
あの分厚い鎧で痛み!?!
…………て事は、あの鎧自体独立して作った外付けじゃない!!
生えてるんだ、鎧が身体から……!!)
学名『アンキロサウルス・マグニヴェントリス』
『鎧竜』とも呼ばれる曲竜類に属するこの恐竜は、そういえばその鎧は骨そのものというよりは皮膚が骨の様になった『皮骨』と呼ばれる物だ。
あの鎧が皮膚から生まれたなら、多少は痛覚がある。これはワニなどの恐竜に近い爬虫類の話だが、そういう種は皮骨にも血管や神経が通っている。
攻撃が通らないからと言って痛くないわけではないということか。
それは怒る。めちゃくちゃ怒る。理解できてしまった。
「───そういえば、お前が我が鎧を剥いたんだったな?」
そして、ほぼ全身の皮を剥いた様な所業をやったアホがここにいたのだと守莉は気づいた。
あのハンマーがブンと振るわれて、まさかの投擲がされる。
パワーも流石は恐竜そのもの!
感心している場合ではないが、感心してしまう守莉だった。
そしてその瞬間、後ろのチェイサーのライトの近くのセンサーが光り、投げられたハンマーをスキャンする。
《スキャンした。
なるほど、これは、》
「いや調査しとる場合かいッ!!」
守莉は、硬いアスファルトにヒビが入る勢いで片足を蹴り上げてハンマーへキックを放つ。
瞬間、感触に恐怖した。
重い……!!
勢いを殺せたが、撃ち返せない。
ライトニングライオーと一応融合した状態の脚力でその結果は信じられなかった。
『え?なんか重くない??
脚折れるかもって思った!』
「ライちゃんの蹴りで撃ち落とすのがやっとってなにさ!?」
《重いはずだ。
あのハンマーの大部分は『炭化タングステン』だ》
「は!?タングステンって言った今!?」
────世界で一番硬い物。それはダイヤモンドである。
ところが、ダイヤモンドは加工ができる。
硬いが割れやすいダイヤモンドを、削る工具がある。
その金属は硬いというよりは、
比重が高く、かなり重い物質である。
それ単体で、3000℃以上の高熱でなければ溶かすことができず、
金属でありながら、高い電気抵抗を持つ。
鋼鉄でできた戦車がセラミックと複合の装甲を持つに至ったのも、この金属の重さと加工後の強度を利用した砲弾が主流になったせいである。
原子番号74番、ラテン語で『ウォルフラム』の頭文字で「W」と表記される金属、
スウェーデン語で『重い石』の意味を持つ。
タングステン。
───様するに、この地球上に存在する物の中でも、ちょっとやそっとでは確実に砕けないほどに硬く、重い、面倒な物質だった。
《大部分は炭化タングステンだが、内部は通常のタングステンだろう。
局所的には硬いだけだが、通常のタングステンなら金属的な展性、つまり柔らかさがある》
「そういうのが一番壊しにくいんだっつーの!!」
と、再び投げられたタングステン製ハンマーは流石に守莉も走って避けた。
守莉の変身したアサルトライブ、いわゆる今の『フォーム名』とでも言うべき物に当たる『ライトニングトライブ』は、
サラブレッドホース・バグズグリーズこと、ライトニングライオーの『ウマ(サラブレッド種)+圧電人工筋肉+稲妻』の3つのデータによる能力が使える。
その能力とは、まず第一に高速移動だ。
あのアンキロサウルス・バグズグリーズの投げ放ったハンマーが地面に落ちるまでの間に、走って背後へ回れる。
いやそこまでの動きですらあの重いハンマーがまだ放物線の頂点に達していない。
タングステンを元にして作られた炭化タングステンは、この世で最も硬くてかなり重い金属である。
だが加工する方法はある───それは、電気の力だ。
超高速で近づいた運動で生まれた圧力、それをライトニングライオーの能力で電気エネルギーへ変換し、蹄鉄に似た脚部の裏に集める。
バチンッ!
一発。蹴りが相手の脇腹へ蹄鉄の形の浅い凹みができる。
稲妻、雷───アーク放電は、6000℃近くの温度を産み、世界一硬い炭化タングステンを蒸発させられる。
ただし────ほんの表層だけだ。
「硬いんだよコンニャロー!!!」
バチチチチチチチチチチチッッ!!!
だからこそ、投げられたハンマーが落ちるまでに、
相手が気づくまでに、振り向くまでに、
そのわずかな時間にしこたま蹴りを叩き込み、離れる。
「ぐっ……!!」
バキン、とヒビが入った脇腹を抑えるアンキロサウルス・バグズグリーズだが、見た目ほど深い傷ではないのは感触で分かる。
「いやマジで硬いじゃねーか!?!
百発は蹴ったけど!?股の筋肉痛確定だけど!?」
いやそれどころか、蹴り続けた足が折れたかもしれない感触を今、確かに守莉は感じた。
守莉もバグズグリーズ。折れた、ヒビが入った程度の骨ぐらいはすぐ直せる。
バグズグリーズの能力の本質は『改変』。
傷を治す……というよりは、圧力から断熱圧縮された空気まで電気エネルギーへ直に変換したり、生体組織のタングステンの装甲で身体中を覆う程度は気合い入れればできる。
「貴様……!
治すのにも痛みがあるんだぞッッ!!」
「知ってるわボケ!!
アタシも痛みわけじゃいッ!!」
────正直、傷付いたのと同じぐらい、傷を治すのは守莉曰く『クソ痛い』のだが。
なので回復を優先せず、あのアンキロサウルス・バグズグリーズが思っても見ない速さでハンマーを振りかぶり突撃してきたのは予想できた。
「ならばもう一つ痛みを追加してやる!!」
「させるか……電送!『アサルトアームズ』!!」
ベルトの背後、四角いパーツをタッチし音声入力。
瞬間、レーザー光線のような物背後に発射され、空中をなぞるように何かを現実へ書き込む。
《Assault Arms!
Magnum-mode.》
後ろに回した右腕でグリップを掴む。
四角く巨大な銃口の、オモチャっぽく見える拳銃に似た武器を守莉は構えた。
何せ、この銃は弾倉も無く、スライドもない。
あるのはある物をはめ込むスロットと液晶だけ。
ズドン!!
だが撃てる。
発射するのは物質電送技術の応用、この世にある弾丸のデータアセットから好きに設定できる威力と射程の『弾丸のエネルギー化したデータ』だ。
「ガッ!」
設定は『.50AE マグナム弾』。
当たればクマも頭蓋骨が砕ける威力がある。
もっとも、あの美人な顔面に当てたが、怯んで足を止めただけだ。
「だろうな」
だから、アサルトアームズのグリップを90°銃身と水平になるよう捻る。
瞬間、特徴的な四角い銃口が上下に開き、シャランと音を立てて両刃のブレードを吐き出す。
《Sword-mode.》
音声の通り、銃は一瞬で刃渡り1m越えの両刃の剣へと変換された。
流れるように剣の液晶部分とベルトのライオーのトライブ部分を近づける。
《TRIBE ABILITY AUTHORIZE.
LET‘s BUSTER TIME!
LIGHTNING ABILITY!!》
今の
ようやくこちらを見た相手に、視界から消える最高速度で走り、横を通り過ぎる守莉。
瞬間、守莉はグリップのトリガーを引き、
先ほど砕いたばかりのアンキロサウルス・バグズグリーズの腹部の傷に刃を振る。
《────LIGHTNING STRASH!》
アーク放電の6000℃を纏う斬撃が、アンキロサウルス・バグズグリーズの傷ついた場所を切り裂き光り輝くデータを血のように噴出させる。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
背後で聞こえる悲鳴。普通なら、喜んでも良いが……
(ダメだ!浅い!!)
それですら、守莉曰く先っちょしか入ってない感覚を覚えた攻撃だった。
厚くて硬い!
「よくも小癪な真似をぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
横凪のハンマーを避けられたのは、ほぼ反射行動だった。
ライトニングライオーに感謝するしか無い速さでなんとか避けられた。
「やっぱ硬いぜ……アサルトアームズじゃダメか!!」
となると、と察してくれたのか、真横へチェイサーが走ってくる。
《俺の出番か》
「ああ、怒らせただけみたいな攻撃は勘弁だしね!」
再び相手がハンマーを構えて憤怒の顔を見せる中、ただカッコイイヒーローのバイクというわけでは無いサイクロンチェイサーの機能を解放すべく、ハンドルのスイッチを上げる。
《ERROR.》
「………………」
相手がハンマーを構えて憤怒の顔で迫る中、ただカッコイイヒーローのバイクというわけでは無いサイクロンチェイサーの機能を解放すべく、ハンドルのスイッチを一回下げて、上げる。
《ERROR.》
「………………」
サイクロンチェイサーの機能を解放すべく、ハンドルのスイッチを一回下げて、上げる。
《ERROR.》
「………………
いやいやちょっと待てぇい!?!?」
「待てるかァァァァッッ!!」
そりゃ待てない相手の攻撃を、全力で走って避ける守莉と並走するサイクロンチェイサー。
「どうしたよチェイサー!?」
《今自己診断プログラムを走らせている。
…………クソ、どうやら変形機構の一部が破損している》
「破損!?出撃前チェックちゃんとしたよなぁ!?!」
《…………そうか。
あ、と一回足を止めて、最悪の原因に思い至る。
超音速でバイクで突っ込んでバイクが壊れない訳がない。
いやヒーローが乗るのを想定したバイクで……まで考えて、だからこそ今もチェイサーはちゃんと走れているという事に思い至る。
設計が悪いのではなく、
使う側が設計を超えた負荷を与えてしまったのだ。
「仕方ないか……いっそ
《それも良いが、二度目の助走の隙は与えてはもらえ無いだろう。
プランBで行こう》
「よっしゃ有能AI君!『
プランBって何?」
《助けを呼んだ。
2分前には》
なんて有能なAIなんだ!!
守莉は感心したが、相手もこんなことをしている間にも攻撃を仕掛けてくる。
「ごちゃごちゃと何をしている!?
戦いを挑んでおいて逃げ回るか卑怯者がぁ!!!」
「本物の卑怯を見せてやる!
で、助けっていつ来るの!?」
と、その時、
ズドン!!!
すぐ近くの地面に何かが、落ちてきた。
驚いて敵共々振り向く。
そしてそこには………………
「「助けて〜〜!」」
守莉は見たことがある、まさに頼もしい仲間が二人、
揃って頭から地面に突き刺さって、下半身をジタバタしていた。
「助けてほしいって言った身でアレだけど、何してんの君らこんな時にぃ!?」
***
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